第16話 再建

 リルは、王宮の中を進んでいく。

 王宮の中は、世話しなく人が行き交い、新しい王リルを目に留めると膝を付くもの、スカートを摘まんで頭を下げる待女など、王宮の修復や掃除で、大変な状態だ。


 王都を見渡せるバルコニーに出る。

 街並みは、被害が少なかった。

 大きな被害は、第一王子の居城と王宮だった。

 第一所領から敵が侵入した報告を受けていた。

 砦側だけでなく、秘密の地下道があり、そこからマントの男達が侵入したとの報告だった。

 いつ、何のために誰が作った地下道だったのか不明だが、急ぎリメルナの魔術師に封印をさせた。


 すでに、異形は殲滅させ、敵はいない。

 あのマントの男達は、地下道を通り消えたのだろうか。

 王宮は、宝庫が中心に荒らされていた。

 何かを探すために現れたのだろう、目立つ宝飾品はそのままで、別段盗まれたものはなさそうだった。



 リルは積極的に、王都、第一、第三所領を回った。

 王、第一王子、王妃や、第一王子の子、多くの待女や兵らを埋葬し、リメルナに避難していた民に、一時的な住まいを作り、食事など生活に困ることなく、毎朝自分たちが住んでいた居住区の修復や建て直しなどに向かえるよう、心の負担を取り除くことを取り計らった。


 リルは、なるべく兵達と食事を共にしていた。

 特に王兵や第一、第三の兵達を束ねばならなかったので、彼らの側で報告、指示を出していた。


 若いリルも、限界が来ていた。

 顔色の悪いリルに、セルジュが声をかける。

 セルジュとアンディは、戦いでの功績から、第一王子の小隊から、王兵の大将、第一隊の大将にそれぞれ昇格をしていた。


「陛下。本日は我々に任せ、どうか陛下は少しお休みください。」


 セルジュの進言に、異をとなえようと手をあげかけたが、アンディの更なる進言で手を止めた。


「陛下。もう誰もがあなたを陛下と認めております。それだけ陛下は我々のために尽くしておいでです。」


 アンディは、本心を話していた。

 第一王子は、狩りや戦い、女は好きだったが、所領や民の生活、政治や外交にまったく興味がなかった。

 その手の話を出すことも、躊躇われ多くは側近が勝手に指示を出していたため、横領や裏金が蔓延していた。

 それに引き換え、17才という若さでありながら、ここまで兵や民達に配慮を見せるリルに心底、感心と尊敬の念を抱かずにいられなかった。

 だが、あまり休めていないように見えるリルに今、倒れられるのはよろしくなかった。

 再建中のコッツウォートは、若くて強い王を誰もが欲していた。


「分かった。後は頼む。」

 リルは、王宮で休むと伝えて、その場をアンディとセルジュに託した。


 ヴァルには、西の敵との戦いに備えた対策を任せている。

 その他も、有能な臣下が対応している。

 今は少しだけ、休ませて貰うことにした。



 王宮はリルのものになった。

 自分の新しい部屋に入り、寝室へ向かう。

 しかし、王の部屋は、あまりに広くまだ慣れないせいか居心地が悪かった。

 リルは、部屋を出ていく。

「下に行く。」

 部屋付きの兵が、共をするのを断り下の階に降りる。

 端の部屋に行くと、待女が驚き急ぎスカートの端を持ち礼をする。


「まだ、お休み中でごさいます。」


「かまわない。下がれ。」

 リルは人払いをし、寝室に入る。


 部屋には、ベッドに寝る女がいる。

 クレアは、リルより一つ年上で、リルが15才の時にリメルナへ行った際、リメルナの国王から遊び相手にとあてがわれた女だった。

 もちろん遊び相手とは、夜の遊び相手だった。

 リルは、断りたかったが、断るなら兵舎付けにすると言われ、不憫に思い仕方なく引き取った。

 コッツウォートに帰れば、自由にさせればいいと思っていたが、とんだ高慢な女だった。屈服させるために、リルは結局、クレアを組付した。

 リルは、女に引っ張っ叩かれるなど、後にも先にも無いだろうと思った。

 毎回クレアとは、罵りあいから始まった。


「飾り物の王子なくせして!」


 クレアの言葉は、リルを大きく傷つけた。

 しかし、反論するリルはある意味、溜まっていたストレスを大きく吐き出させていた。


 クレアは金にがめつい犯罪者の娘で、誰にも相手をされず、行くところもない孤独な娘。

 リルは、自分の意思関係なく、周りから王様へと持ち上げられている孤独な少年。

 いつしか、二人はベッドで孤独を共有していた。


 リルはベッドに潜りこみ、後ろからクレアに抱きつく。

 クレアは向きを変え、リルに向き合う。


「顔色が悪いわね。」


「休めと言われたよ。」

 クレアの胸に顔をうずめる。


「助けてくれてありがとう。あんたが戦いに出てる時、第二所領は大変な騒ぎだったわ。私は、あそこに置いていかれると思った。」

 クレアは、リルの頭を撫でる。


「待女が様子を見てくると言った時は、帰ってこないと思って部屋の隅で泣いてた。そうしたら、あんたの母親が来てびっくりしたわ。あんたの母親って若くて美人ね。」


「15才で嫁いで、すぐ俺を産んだ。だから凄い若いだろう。母上も悲しい人生だな。」


「そう。でも、強い人ね。私を抱きしめて、辛い思いしたわねって、父上とあんたをこっぴどく叱ってやるって言ってたわ。」


「俺はもう叱られてるよ。」


「逃げる時、私を連れて行くように伝えてくれたんでしょう。ありがとう。」


「そうだな。これからのことは考えておけよ。母上が色々助けてくれると思うけど、好きなように生きれるように。俺が戻らなくても…。」


 クレアは、リルの顔をあげ、おでこに口づけをした。


「鳥籠に戻りなさい。必ず。私を一人にさせないで。」

 


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