第15話 出立
「やめろよ!僕は忙しいんだから。」
テオグラードは、一匹の狼にまとわりつかれている。
「あれ、大将だよな?」
「うん。そうだろうな。野生の狼であんなにコロコロしたの見たこと無いな。」
カイとミッヒがテーブルでコーヒーを飲みながら、テオグラードと狼を見て笑っている。
「もう、戻すから!」
テオグラードが、狼に手をかざすと縦にも横にも大きな男が現れ、そのままテオグラードを肩に担ぐ。
「もう、大将やめてくれ!子供じゃないんだから!」
「殿下が、たらふく食べて俺が担げなくなったらこの遊びは止めましょう!」
大将は、肩に担いでいるテオグラードの尻を叩くと大きな笑い声を倉庫内に響かせていた。
テオグラードは、小さい頃から、同じことをされている大将の背中を両手で叩きながらジタバタしている。
「やっぱり大将だったな。」
「うん。分かりやすいな。」
カイとミッヒは笑いあっていた。
「おい、大将!それぐらいにしろよ。」
アディが声をかけると、隣にいたサミーがテオグラードの背中に手をかけ、服を引っ張り地上に降ろす。
「ありがとう。サミー。」
「どういたしまして。」
サミーは人懐っこい笑顔を見せる。
サミー、アディと大将の三人は、同期で入隊しており、伸した相手の数を常に競っている仲だった。
「明日の朝、フレールに向けて出立する。馬車を3台、馬を八頭用意した。荷物の用意と積み込みを頼んだぞ。」
交代で人に戻るにしても、狼を引き連れて走るわけも行かず、狼の時は、なるべく馬車に乗せるしかなかった。
腕輪を外したテオグラードは、楽に一時的な解除魔術を使い、長く保つことが出来ていた。
テオグラードは、兄の意図を深く考えないようにしていた。
今は、たくさんの魔術を取得することに費やし、戦いに備えなければならなかった。
アディの元に、街から帰って来たキリウェルが耳打ちしている。
サミーや大将も加わる。
テオグラードは、その様子を見ながら報告に来るのを待つ。
「結構な悩み具合だな。」
キリウェル達が中々来ないので、テオグラードは、我慢していたテーブルの上にあるクッキーを食べ始めた。
「テオグラード様。」
キリウェルが先頭に立ち、三人がキリウェルの後ろに立つ。
四人の圧が凄い。
「座って。」
テオグラードに従ってキリウェルだけがソファーに座る。
「街で、ロゼさんとマークに会いました。偶然ではなく、私達を探していたようです。」
テオグラードが頷く。
「彼らから、我々のフレール行きに同行したいと申し出がありました。」
テオグラードが口を開くより早く、キリウェルが話し始める。
「前にも話しました通り、彼らがベリンガーと通じている以上、同行は断りたい。」
「他のみんなは?」
今度は、キリウェルより早く、テオグラードが口を開く。
「我々も、彼らを掴みきれてないので…」
言葉尻を考えるとアディは、少し違う意見なのかもしれなかった。
「僕は、同行したい。」
「テオグラード様!」
前のめりになるキリウェルの肩をアディが掴む。
キリウェルは、アディを睨んだが、一呼吸し、テオグラードを見た。
「怪しいなら、手元に置こう。断ってもどうせついてくるさ!」
「良いご判断です。」
アディが笑みを浮かべ頭を下げる。
「大丈夫、僕のことはキリウェルが守ってくれるんだろう!」
「当然です!」
テオグラードの言葉に、やっとキリウェルが笑った。
だが、出立の朝には、キリウェルはまた凄く渋い顔をしていた。
同行者としてもう一人が紹介されたからだ。
「俺は、行きたくねぇんだよ!」
「フレールでは、あなたが居ると何かと便利なのよ。そうでしょう、キャス。」
ロゼがにっこり微笑む。
本屋で店番していた、いい加減そうな男、
キャスが面倒くさそうに立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます