第4話幻の遺跡:ルルシェの場合その二


「ちっくしょう! まだいるのかよ!!」


「叫んでてもだめだよ! あそこ、早くケイン!!」



 まるで迷路のような通路を走っている。

 この幻の遺跡「動く都市」に侵入した私たちは古代魔法王国のガーディアンであるゴーレムたちに追い回されていた。


 通常ゴーレムは石で出来ている物が多い。

 しかし流石は古代魔法王国。

 この「動く都市」に配備されているガーディアンのゴーレムは全てアイアンゴーレムと言う上級冒険者でも倒すのに苦労する相手だ。



「足止めする! みんな急いで!!」



 リネーはそう叫んで曲がり角を曲がったと同時にトリモチを地面にたたきつける。

 それは袋か何かに入っていて石畳である通路にたたきつけられるとはじけて中身が飛び出した。


 そして曲がり角を追ってきたゴーレムがそれを踏んで一瞬その動きを止める。



「チャンス! 援護魔法頼む!! 行くぞアルト!!」


「おうさ!」



 戦士であるケインとアルトは動きを一瞬止めたゴーレムに攻撃を仕掛ける。


 

「【攻撃力増強魔法】!」


「【防御力増加魔法】!!」



 私もマリーネもすぐに二人を強化する為に魔法をかける。

 

「よぉしっ! 行くぞぉ!!」


 叫びながらケインとアルトはアイアンゴーレムに攻撃を仕掛けるけど流石に硬い。

 剣や斧より打撃系の方が有効なんじゃないだろうか?



「よし、ケインにアルト退け! 秘剣斬鉄波!!」



 ケインとアルトがアイアンゴーレムを攻撃して隙を作る。

 そして剣士であるゴルドが居合の構えから一気に相手の懐に入って剣を一閃させる。



 漸ッ!



 ちん


 ぐらっ

 ずずずずずずず……


 ごとん!



「ふう、流石ゴルド!」


「相変わらず見事だな」


 相変わらずゴルドの技は冴えていた。

 あのアイアンゴーレムを一撃で切り伏せるとは。


「しかしこの技は魔力を溜める時間が必要だ。隙も大きい、前衛が押さえてくれなければそうそう使える技でもない」


 ゴルドはそう言って切り伏せたアイアンゴーレムを見る。

 その切り口は見事に切られていてまるで鏡面のようだ。



「それより早く中央の建物に行こうよ、またゴーレムに出会うと厄介だよ!」


「確かにリネーの言う通りだな。みんな先を急ごう」



 私たちはもう何度目かの撃退したゴーレムの屍を乗り越えて中央の建物に向かうのだった。



 * * * * *



「なあ、さっきから気になってんだがこの『動く都市』ってもしかして軍事施設なんじゃないか?」


「どう言う事かしらケイン?」


 時たま近くの建物の中の様子を見ながら中央にある一番大きな建物を目指している。

 そんな中リーダーのケインがふとそんな事を言い始めた。

 マリーネは首をかしげながら聞く。 



「だってさ、多分今向かっている建物は司令塔か何かだろう? この町の配置もなんか軍隊の詰め所っぽいし、生活感ほとんどないしな。食堂らしきものはいくつかあったし、兵隊の宿舎みたいなのもあった。でもそれは普通の町とは違う感じだったしな。そしてガーディアンとなるアイアンゴーレムだけどさ、中央の司令塔に向かう主要通路に必ず待機していたろ?」



 確かに言われてみればそんな気もして来た。 


 しかし古代魔法王国がわざわざそんな軍隊を用いて戦争紛いな事をするのか?

 魔道を極め、攻撃するのだって天空から隕石を呼び出せるほどの事が出来、【絶対防御】という最上級の魔法は物理攻撃も魔法攻撃も通用しない程の魔法もあると言うのに?



「確かにおかしいな。ケインの言う通り軍隊の詰め所の様でもある……」


「じゃあこれの目的って戦争をする為のモノ? 『動く都市』って戦争の道具なの?」


 アルトも途中の部屋を覗き込みそんな事を言い出す。

 リネーはくるりとこちらを向いてみんなに質問をするもそれに応えられる者はいない。



「『動く都市』の探索もこのクエストの一環、とにかくあの中央の建物に向かうべきね」



 何が真実かは分からないけど、まずはあそこへ行ってみるべきと感じる。

 私のその言葉にみんなも頷き注意をしながら再び中央の建物を目指すのだった。 



 * * * * *



「あれってミスリルゴーレムじゃないの??」



 先行していたリネーに呼ばれて物陰からこっそりと中央建物の入り口を見てみると銀色に輝く甲冑姿のゴーレムが立っていた。

 それも二体も。


「もしミスリルゴーレムだったら俺たちじゃ歯が立たないぞ?」


「ミスリルゴーレムは物理攻撃も魔法攻撃も効きにくいって話らしいな……」


「我が秘剣でもミスリルを切るのは難しいか……」


「あの、そんなに強いのですかミスリルゴーレムって?」


 ケインもアルトも物陰から様子をうかがいながらそう言う。

 ゴルドも自分の剣を鞘から少し抜いてからまた静かに戻す。


 元貴族のマリーネは首をかしげながら聞いてくるけど、ミスリルを使った武器は貴族たちだって知っていてもよさそうなモノなのに。



「ねえ、ルルシェ何かいい方法は無いの? ミスリルゴーレムなんて凄いのが守っている建物だよ、きっとお宝か何かがあるんだよ!!」


「リネー、気持ちはわかるけどミスリルゴーレムには魔法も通じにくいの。しかも二体も……」



 私がそう言った瞬間だった。



 どごーんッ!!



「へっ?」


 思わず間の抜けた声が出てしまった。

 慌てて音のした方を見るとミスリルゴーレムがふっ飛ばされて宙を舞っていた。



「なっ!?」



 驚き声を上げているとケインたちが何かに気付く。



「お、おいあれっ!!」


「なんだ!?」


「……子供か?」


「うわぁ~」


「誰よあの子!?」



 みんながその一点に注目する。

 私もそれを見て驚く。


 年の頃十二、三歳くらいの女の子。

 真っ赤な髪の毛でやたらと肌を露出させる年齢に似合わない服装だけどその横顔はどきっとさせられるほど美しい。


 そんな彼女だったが迫り来るもう一体のミスリルゴーレムが目の前に来ていた。



「だめっ! 死んじゃうっ!!」



 私はその光景に慌てて【炎の矢】の呪文を唱えてミスリルゴーレムを攻撃する。

 それはほとんど条件反射だった。



「ちっ! みんな行くぞ!!」


 私のそのうかつな行動にそれでもケインは剣を抜き危険な相手であるミスリルゴーレムに駆け出す。

 私は目の前で女の子が殺されるのを黙って見ていられなかった。


「ルルシェの魔法が全然効いてない! くそっ!」


 アルトもそう言いながら戦斧を振るって駆けだす。


「【防御力増強魔法】!!」


 マリーネもすぐに魔法を使って二人のサポートをする。


「あっ、【攻撃力増強魔法】!」


 私も慌てて魔法を二人にかける。

 しかしミスリルゴーレムは何事もなかったかのように彼女にその拳を振り上げた。



「間に合わない!?」



 ぶんっ!


 はしっ!

  

 


「えっ!?」



 しかしその女の子はミスリルゴーレムの拳をいとも簡単に片手で受け止める。

 そしてそのままミスリルゴーレムを宙に放り投げ飛び上がりこぶしを叩き込むと、ミスリルゴーレムはその四肢を飛散させて粉々にされてしまった。



 どがーん!


 バラバラバラ……



 とん。



 少女は何事もなかったかのように地面に降り立つ。



「あ~あ、また派手にやったな。それでネヴァリヤ、ここにあるってのかい?」


「そうじゃ、その昔にこれら機動要塞と戦った時に兵士たちが貯蔵していたそれを食っていたのを見たことがある。しかし本当にあんなもので旨いらーめんが喰えるのか?」



 驚く私たちの前にもう一人黒髪の男が現れた。

 彼は女の子の元まで行って何やら話していたが最初に吹き飛ばしたミスリルゴーレムが起き上がり彼らに襲いかかろうとする。



「危ない!」



 思わず声を上げた私の目に映ったのはあり得ない光景だった。

 黒髪の彼は手に持つナイフを一閃するとミスリルゴーレムが一瞬でバラバラに崩れ去る。



 キンッ!


 バラバラバラバラ……



「なっ!? あんた何モンだ!!!?」


「ミスリルゴーレムをナイフ一本で!?」



 前衛にいたケインもアルトも立ち止まりその光景に唖然とする。

 すると黒髪の彼はこちらを見てニカっと笑う。



「なんだ、あんたら冒険者か?」


「おいこらラーメン屋、わらわの質問にまだ答えておらんぞ?」



 憤慨する女の子を他所に彼はこちらに歩み寄って話して来る。



「よくこんな所まで来れたな。ん? シルバープレートか、なるほどなぁ」


「あんたらは一体何モンなんだ?」


 ケインは警戒を解かないまま彼に話しかける。



「ん? 俺か?? 俺はラーメン屋だ」



「ら、らーめん屋??」


 聞いた事の無いその名前に私たちは呆然とするのだった。



 * * * * *



「つまり、らーめん屋のあんたはこの遺跡に眠る豆を塩で発酵とかさせるモノが欲しくて来たってのか?」


「ああそうだよ、ネヴァリヤの話だとこの機動要塞の食糧庫に多分有るらしいんだがね」


「おい、ラーメン屋! せっかくわらわが教えたんだちゃんと旨いらーめん食わせろ!!」



 ケインとラーメン屋と名乗った黒髪の彼はそんな話をしながら先行して建物の中に入ってゆく。


 この「動く都市」は古代魔法王国が対魔王軍に対して作り上げた機動要塞だったらしい。

 魔王軍は魔法に対して抵抗力が強く、大魔法でも駆逐するのが困難だったらしい。

 そこで奴隷戦士たちを主戦力に相手の陣地に殴り込んで内部から物理攻撃を交えた戦法で魔王軍と戦っていたらしい。


 だからこの「動く都市」はやたらと軍事施設っぽかったのか……



「でも、なんでそれがこの『死の渓谷』に立ち寄ってるんだ?」

 

 後ろを歩いていたアルトは私も思う疑問を聞く。

 すると黒髪のラーメン屋はアルトに向き直りながらなんて事無いように言う。


「砂嵐が邪魔だったんでこの谷に追い込んだ。おかげで砂嵐は無くなったんだが俺は浮遊魔法をもってないんでここに上がって来るのに手間がかかったんだよ。ネヴァリヤは俺をつかんで空飛ぶの嫌だって言うしな」



「なっ! あ、当たり前じゃろ!! このわらわにそのような事させるのは我が伴侶と成りし者だけじゃ、き、貴様など…… ま、まあどうしてもと言うなら少しは考えるがの///////」



 もしかしてこのお嬢ちゃんこの黒髪の人が好きなのかな?

 でもどう見ても年齢が離れすぎている。

 見た感じこのお嬢ちゃんは十二、三歳くらい。

 対して黒髪のラーメン屋は二十代後半くらいかな?

 いくらなんでも歳が離れすぎている。



「ところで、こっちのすっげーつえーお嬢ちゃんて何者だよ?」


「ん? ネヴァリヤか? この子は魔王だ。まあ今は力を失ってこんな成りだが元は立派な大人の姿だったんだよなぁ~」


「おい、ラーメン屋よ、何処見ながら言っている? 全部貴様のせいじゃろうに! ちゃんと責任取れよ!!」


 ……えーと、私の聞き間違えか何かよね?

 今「魔王」って聞こえたような気がするのだけど。


 私がそう思った瞬間だった。

 前を歩いていたアルトたちが立ち止まる。


 

「嘘だろ、おい……」


「ふーん、ミスリルドラゴンだなありゃ」


 三人が立ち止まった奥に広間があり、そこに銀色の竜を模した何かがうずくまっている。

 この建物の門番としてミスリルゴーレムと言う化け物がいた。

 しかし更にここにはその上を行く化け物がいる。



「こりゃぁ逃げた方が良いかな?」


 ケインが頬に一筋の汗を流しながらそう言うも既にあちらは鎌首を持ち上げ侵入者である私たちを威嚇し始める。



『ぐろろろろろぉ……』



「へぇ、ゴーレムの癖にちゃんと本物のドラゴンみたいに威嚇するんだ」


「ふん、所詮下等なトカゲを模したモノじゃ。暇つぶしにもならんわ」


 しかしラーメン屋とネヴァリヤと言う少女は全く動じず口元に笑みさえ浮かべている。

 普通に考えれば今すぐにでも逃げ出した方が良いはずだ。


 でもこの二人を見ていると何故か大丈夫という根拠もない安堵感が湧いてくる。



「ラーメン屋さんよ、俺たちがあいつの気を引くからさっきのあれで頭を落としてもらえないか?」


「ん? そんな事しなくても……」



 ばっ!



 彼がそう言った瞬間その場から消える。

 そして甲高い音がしたと思ったらミスリルドラゴンの首が斬り落とされていた。


「えっ!?」


 これには流石にケインも驚く。

 それもそのはず、英雄や勇者でもない限りあんな芸当は出来ない。


「これで良いんだろ? うおっ!」



 ばきっ!


 どごーんッ!!



「たわけ! ゴーレムの頭一つ落として安心するバカがおるか!! コアを叩かなければ動きを止められん!」



 首を切られたミスリルゴーレムはそれでも動きを止めずラーメン屋の彼を前足で弾き飛ばす。

 ラーメン屋はそのまま壁まで吹き飛ばされ粉塵をばらまきながら壁にのめり込む。

 いくら何でも生身であれを受けたら!


 すぐにマリーネに回復魔法をかけてもらおうとしたら先にあのネヴァリヤと言う少女が飛び出した。



「わらわのラーメン屋に何をするかぁ! この痴れ者が!!」




 どっごーんっ!!




「はぁっ!?」



 私は思わず声を上げてしまった。

 少女が巨大なミスリルドラゴンを殴り飛ばしていたのだからだ。



「なっ!? ミスリルドラゴンを一発で!?」


「むっ!」


「ねえルルシェ、あれ見て!」


「うわっ!」



 アルトもゴルドも攻撃の隙を探っていたけど、その一撃で度肝を抜かれている。

 そしてラーメン屋に回復魔法をかけようとしていたマリーネやその様子を見に行ったリネーが驚きの声を上げる。



「痛ぅ~、油断した。そうか、ゴーレムはコアを壊さなきゃならんのか」


 そう言いながらラーメン屋は壁から抜け出て立ち上がる。

 傷一つ無い状態で。

 

 信じられない。

 彼が吹き飛ばされてぶち当たった壁の方はぼろぼろだと言うのに。



「コアは心臓の位置じゃ!」


「わかった、うりゃぁ!」



 ミスリルドラゴンを殴り飛ばしたネヴァリヤはラーメン屋の彼にそう言うと、彼はあのナイフを構えて一瞬でミスリルドラゴンの懐に入る。


 そしてナイフを突き刺すとミスリルドラゴンはぶるっと震えてその動きを止めた。



「ふう、これで良しっと。しっかしこんなデカ物がいるなんてネヴァリヤ、本当に此処って食糧貯蔵庫なのか?」


「それは知らん。ただ一番デカい建物じゃ、いろいろしまってあるのじゃろう?」



 ナイフをミスリルドラゴンから引き抜き彼は戻りながらネヴァリヤと言う少女と何事もなかったような会話をする。

 そしてナイフを見てぼやく。



「ちっ、やっぱ刃こぼれしちまった。包丁で切り刻めるモノにはやっぱり限界があるなぁ」


「当り前じゃ、普通に武具を手に取らんか!」



 えーっ!?


 い、今ナイフを「包丁」って言ったぁ!?

  

 

「いや、包丁は無いだろう、包丁は……」


「まさかミスリルを包丁で切り刻んでいたのか!?」


「我が刀より包丁の方が上とは・・・・・・」


「まあ、そんなによく切れる包丁なら私も欲しいかも」


「いやいや、普通包丁でミスリルは切れないって、マリーネ」


  

 あんぐりと口を開けてしまった私と同じくみんなもあのナイフが「包丁」であった事に更に呆然としてしまうのだった。



 * * * * *



「あった、あった! なんだよこれ異空間の保存庫かよ? ああでも中身は大丈夫そうだな!!」


「言ったであろう、この機動要塞は備蓄も十分にあり我が魔王軍に多大な被害を及ぼしたのじゃ。思い出すだけでも忌々しい。しかしこれでやっと『みそらーめん」なる物が喰えるのだな、ラーメン屋よ!!」



 この建物は確かに司令塔か何かだったようでいろいろと価値のあるモノもあった。

 しかしラーメン屋の彼らはそんなものに目もくれず、建物の保存庫と思われる場所へ行き魔法の保存ボックスを開ける。

 どうやら異空間魔法がかけられたアイテムの様でその大きさ以上に品物がつめられるようだった。

 中からは当時の食材が山と出てきたが、その中で彼らはツボに入った豆の塩漬けを引っ張り出し喜ぶ。



「ん、発酵具合も申し分ない。赤味噌よりだが十分使えるぞ!」


「おおっ! では早速!!」



 なんか二人して大喜びしている。

 一体何が?



「そうだ、せっかくだからあんたらも食っていくか? 試作だからお代は要らねえぞ?」


「食っていくって、一体何を……」


 この古代の食材を使って何か作る気なのだろうか?

 私たちは訳が分からず顔を見合わせるのだった。



 * * * * *



「へい、おまちぃっ!」



 どどんっ!! 

 


 ラーメン屋の彼は異空間を開いて人間でも引っ張れるような荷車を引き出した。


 しかし変わった荷車でなにかの料理を作るのに適した改造が施されていた。

 赤い提灯には「異世界ラーメン」とか言う文字がコモン語で書かれている。


 簡易の椅子まであるようでそれに私たちは座らせられ、簡易のテーブルとその荷台に分かれて彼の出すお椀を前にする。



「これって、シチューか?」


「見た事無いものだな??」


「あ~、でもなんかいい匂いするね~」


「まぁまぁ、こんな所で温かい食べ物が食べられるなんて」


「ふむ、これは面妖な食べ物だな??」



 みんなもそれを目の前にしてそう言うけど、確かにこんな食べ物見た事無い。


「ほれ、食いにくいだろうからこれ使うと言い」


 ラーメン屋の彼は私たちにフォークを差し出す。




「ぬっはぁー! いい香りなのじゃ~♪ さあ、食うぞぉ!!」



 ネヴァリヤは何か棒のような物を二本持ってそのシチューに入れる。

 そして何か細長い物を引き上げ口に運ぶ。



「んむぅっ! こ、これはぁ!! うまいのじゃぁ~っ!!!!」


 

 彼女は一口それを食べただけで上機嫌にそう言い大喜びをする。


「へへへへ、赤味噌に近いから少し辛めの味付けにした。最近は少し冷えてきたからちょうどいいだろう?」


 ラーメン屋はそう言って満足そうな顔をする。

 

 私も出されたそのシチューを見る。

 赤茶色のスープにそぼろ肉の炒めた物、そして茹でた豆の芽にエシャレットのような物が細切りにされてたくさん載っている。

 ちらりと横を見ると黄色いトウモロコシだろうか、つぶつぶのモノがよそられている。

 端には他にも肉の薄切りが置いてあり、四角いこの黄色い溶けかかっている物はバターだろうか?


 私は恐る恐るそのスープを口に運んでみる。



「!?」



 何なんだこれは!?


 ちょっと癖のある香りだがとてもコクがあってそしてわずかな辛味もある。

 今までに口にした事の無いその味に驚き又スープを口に運ぶ。


 とても奥の深い味。

 しかし決していやな味ではない。

 複雑なその味にはよくよく感じてみるとガーリックの香りや、豚肉の様な香りもする。



「お、おいしい・・・・・・」



 思わず言葉が漏れる。

 そして渡されたフォークでスープに沈んでいる細長い物を引っ張り出して口に運ぶ。



「んむっ!! もごもご、ごくん!! な、なにこれ? 今までに食べた事の無いモノ!!」



 それはつるつるとしているものの、噛めばふんわりと小麦とやや臭みのある独特な味がした。

 しかしこのスープをまとっている事により臭みは軽減されそして程よい塩気があり何度でも口に運ぶことが出来る。



「もごもご、んんっ、スープの味が変わった?」



 何度か細長いものを食べていると絡み付いているスープの味がまろやかになって来る。

 よく見ればそれはバターが溶け出しスープに更にコクと旨味、そしてまろやかさを醸し出す。

 スプーンで黄色い粒、コーンと思われる物もすくって口に運ぶ。



 ぷちっ!



「ん、これはトウモロコシ。でもなんて甘みが強くて美味しいの!?」



 口に運んだコーンは茹でられていた様でかみ砕くとプチプチとはじける。

 そして自然な甘みがしょっぱさの刺激が強い口の中を和らげてくれる。



「凄い、これってスープと具材のバランスが絶妙!」



 言いながら私はそぼろ肉やエシャレットの細切りもスープに浸し口に運ぶ。

 そして長細い物にも絡ませ口に運ぶけどもういちいち味を確認するどころではなかった。


 

「うめぇ!!」


「なんだこれは!?」


「何と言う美味!」


「美味しいぃ!!」


「凄ですね、ほんとに美味しい~」



 みんなも黙々とこのシチューを食べる。

 口を開けばこのシチューがおいしいと絶賛する言葉しか出てこない。


 そして気が付けば私のお椀の中は何も残っていなかった。



「ラーメン屋、おかわりじゃ! わらわはこれが気に入ったぞ、ジャンジャン持ってくるのじゃ!!」


「あのな、ネヴァリヤ。ラーメンは出来たてが一番うまいんだ。その都度作ってやるから食い終わってからおかわりな。どうだ、うまいだろう?」


 ラーメン屋は少女にそう言ってから私たちの方を見て聞いてくる。

 もうみんなのお椀も空になっていた。



「な、なあラーメン屋さんよこれもう一杯食わせてもらえないか?」


「ん? 気にったか?? だが二杯目はちゃんとお代貰うぜ。銅貨八枚一杯だ。流石に材料代くらい貰わんとやっていけないからな」


 ニカっと笑う彼、ラーメン屋はそう言う。

 私たちは顔を見合わせすぐに懐から銅貨八枚を引っ張り出すのだった。



 * * * * *



「本当にいいのか? ここで見つけたマジックアイテムや宝石をみんな俺たちが貰ってしまって?」


「ん? かまわんさ。俺の目的は食糧庫に有ったエルフ豆の塩漬け発酵品『みそ』だからな。他のモンは好きにあんたらが持って行けばいい」



 ラーメン屋の彼はそう言ってあの荷車を引っ張って異空間にしまい込む。

 

「くししししししっ、『みそらーめん』も美味じゃった、のうラーメン屋よ、次はどんならーめんを食わせてくれるのじゃ?」



 上機嫌なネヴァリヤ。

 あの後に彼女が本物の「魔王」だったことを知った。

 異世界から召喚された勇者に倒され、その力のほとんどを失ったもののかろうじて今の身体は維持できているそうだ。

 しかし今の彼女はもう魔王に戻るつもりはないらしい。

 

 そんな事よりラーメン屋の作るさまざまな旨いらーめんを食べる事の方が重要だと言っていた。



「さてと、それじゃぁ行くか。お前さんらも達者でな」


 彼はそう言って片手を上げて城壁の端から下へと飛び降りていった。

 その後姿を見ながら私はある噂を思い出していた。



「異世界人がやっていると噂される屋台店の食べ物はとても美味いらしい…… 多分彼がその異世界人なんだろう……」



 思わずそうつぶやく。


「ん? ルルシェなにか言った? ああ、でもあの食べ物、『らーめん』だっけ? 本当に美味しかったわねぇ~。実家でも食べた事無いほどおいしかったわ」


「マリーネの実家でも食べた事無いほどおいしいの?」


「うん、初めての味だったけど出来ればまた食べたいわねぇ~」



 マリーネとリネーの話を聞きながら私は思う。

 多分次の冒険の目的はまたあの「ラーメン屋」を探し出してラーメンを食べる事になるだろうと。  

 

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