第3話幻の遺跡:ルルシェの場合その一


 いつもの酒場でリーダーのケインがみんなの前に張り紙を持ってきた。




「俺たちもいよいよシルバープレートになった、そろそろデカい仕事を受けようぜ!!」


 そう言う彼はニカっと笑う。


 私たちはこの町で冒険者のパーティーを組んでいる。

 このパーティーになってもう二年が過ぎるか。

 当時駆け出しだった私も何とかこの二年を生き延び、このパーティー「紅の操り人形」は先日その功績を認められ冒険者としては上級となるシルバープレートになった。


 冒険者は登録をするとそのランク分けとして白色陶磁、スチール、カッパー、シルバー、ゴールドそして最上級のプラチナのプレートがあり、後ろに行けば行くほど上級冒険者となる。


 まあ、実際には私たちが成ったシルバーが普通では頂点だ。

 それ以上のゴールドやプラチナなんて英雄クラスかそれ以上になってしまう。



「ケイン、大丈夫なのですかいきなり大きな仕事など……」


「マリーネは心配し過ぎだ。俺たちもとうとうシルバーになった。ここらでそれ相応のクエストをこなさなければいけないだろう?」


 パーティー仲間の神官であるマリーネは心配そうにそう言って神に祈りを捧げる。

 元はどこかの貴族の子女だったらしいが、神の声を聴き神官になったと言っている。

 貴族らしくその顔立ちは美しく、金色の髪の毛が良く似合っている。

 同じ女性としてはうらやましい。

 魔術師の私などはくすんだ灰色の髪の毛だと言うのに。


 そんな彼女に戦士のアルトは自分の首からぶら下がっているシルバーのプレートを持ち上げしみじみと見ながらそう言う。


 

「でもさ、リーダーの持ってきた仕事って良い金額なの?」


 レンジャーであるリネーはこのパーティーで最年少。

 確か十六歳のはず。

 貧民街育ちで小さな頃からいろいろとやって来たらしいけど、年齢の割に色々と知っている。

 あの年齢で男性経験まであるとか言っているらしいから、十八になる私やもう二十歳になるマリーネにはかなり衝撃だった。


 ……私より小さな胸の癖に。


 一瞬そんな思いがあったが、その経験も彼女が望んだものかどうかは分からない。

 なので私はその考えをすぐに拭い去る。



「それで、一体どんなクエストなんだ?」


 このパーティー最年長の剣士であるゴルドはちびりちびりと酒を飲みながらリーダーにクエストの内容を聞く。


「へへへ、すげーぞ、噂でしか無かった幻の遺跡が現れたらしいんだ。その探索依頼だ。古代魔法王国の『動く都市』って話だから早いもん勝ちだがな」



「『動く都市』ですって?」



 私はリーダーの持ってきたクエストの内容を聞いて思わずそう言ってしまう。


 幻の遺跡、「動く都市」は二千年くらい前に滅びたと言われる古代魔法王国の都市。

 魔力暴走により一夜にして栄華を極めた古代魔法王国は滅びたと聞く。

 古文書では魔法王国は「賢者の石」により膨大な魔力を保持し、空に街を浮かばせ、深海に都市を築き、極寒の地にまるで真夏のような農園を作ったなど今の時代の魔法では到底成し遂げられない程の事をしていたらしい。



「だからさ、今までも噂でしか無かった幻の遺跡、『動く都市』に足を踏み入れた者はほんのわずかと聞く。あの都市にはまだまだ古代魔法王国の品がゴロゴロ眠っているらしい。今回の依頼はその幻の遺跡の探索で、そこで手に入ったお宝は俺たちのモノになるって条件だ」


「なにそれ! じゃあ稼ぎまくれるじゃないっ!!」


 リーダーの話に真っ先にレンジャーのリネーが飛びつく。

 確かにほとんど荒らされていない遺跡には珍しいマジックアイテムやお宝が眠っている場合が多い。

 

 危険と共に。



「それで、幻の遺跡が現れたと言うのはどう言う事だ?」


 ちびりちびりと酒を飲んでいたゴルドは片目を開いてリーダーのケインを見る。


「ああ、ここから二日ほど離れた『死の渓谷』にその幻の遺跡が現れたそうだ。そしてそれを見つけた奴は翌日その遺跡が動いている『動く都市』だって気付いたらしい」


「『死の渓谷』にか? 確かにあそこには遺跡が多々あるがそれと間違えたのではないか?」


 ゴルドはそう言って杯をテーブルに置く。

 それを見てリーダーのケインはニヤリと笑いながら言う。


「いや、冒険者ギルドの連中が確認に行ったが確かに動いているらしい。ただ、動いている理由が巨大な蜘蛛の上に遺跡があるからだって話だ」


「蜘蛛? ケイン、それってまさか……」


 私は魔術師ギルドの資料室で過去に読んだ事のある本を思い出していた。

 八本の脚がある土台に乗った「動く街」。

 古代魔法王国では街ごと移動させその役目を果たすモノもあったらしい。

 幻の遺跡である「動く都市」の正体がわかった気がした。



「だが冒険者ギルドが見つけたのならばもう探索は始まっているんじゃないか?」


 戦士のアルトはシルバープレートを握りしめながらそう言うとケインは軽くため息をついて言う。


「それがな、蜘蛛の化け物の上にある都市に入ろうにもまずはその上に上がる術がない。更に足を踏み入れても都市を守るゴーレムたちがうようよしているらしく並みの冒険者じゃぁ刃が立たないらしい。そこでシルバー以上の冒険者限定のクエストが出たんだよ!」


 言いながら先ほどの張り紙を私たちに見せる。

 そこにはシルバープレート以上限定クエストとでかでかと書かれていた。


 勿論その依頼料も破格である。



「な、みんないいだろ? この依頼受けようぜ!」



 リーダーのケインの掲げるその張り紙に異を唱える者はいなかったのだった。



 ◇ ◇ ◇



「でかいな、本当に蜘蛛のようだな」



 戦士のアルトは渓谷の上からそれを見てそう言う。

 

 私たちはあのクエストを受けて早速この「死の渓谷」に来ていた。

 発見からもう一週間近く経っていたが幻の遺跡、「動く都市」は今だ渓谷の下の方をゆっくりと歩いていた。

 大きさは闘技場の数倍はあるだろうか?

 あれ程の大きなものがいまだ稼働していると言うのに古代魔法王国の技術の高さに改めて驚かされる。



「ねえルルシェ、あれってなぜ今まで見つからなかったのかしら?」


「確か古文書には通常アレの周りには砂嵐か何かの結界が張ってあったはずなのだけど、「死の渓谷」に入った事によりその結界が機能していないのじゃないかなと」


 マリーネに聞かれ私はそう答える。

 いろいろ考えたけど多分そうなんだろう。


 じっくりと観察していると、「動く都市」は何かの理由でこの「死の渓谷」に迷い込んだ様だった。

 おかげでその移動速度も大幅に遅くなり、こうして私たちは難なくそれを見つけ出す事が出来たのだけど。



「さてと、どうやってあの上に行くかなんだが、ルルシェ頼めるか?」


「分かった、やってみる。ただ遺跡に入ったらすぐに戦闘になると思って。話ではゴーレムたちがうようよしているのでしょう?」



 私はそう言いながら早速【浮遊魔法】の呪文を唱える。

 するとすぐにみんなの身体が宙に浮き始め、渓谷の下の方でもじもじと動いている「動く都市」に向かって浮遊してゆく。


 【飛行魔法】とは違い、一度に沢山の人数を浮かせることが出来るもののそのスピードは遅い。




「なあ、あれ見ろよ。スケルトンの衛兵か?」



「スケルトンウォーリアのようですね? あれには私の神聖魔法が効かない」


「まあ、スケルトンウォーリアくらいなら何とかなるな」


「ふむ、切るにはつまらないがな」


「ルルシェ、あっちの方がスケルトンウォーリア少ないよ!」



 ケインがまず最初に衛兵となっているスケルトンウォーリアに気付く。


 スケルトンウォーリアはアンデッドではないのでマリーネの神聖魔法が効かない。  

 だけど私たちシルバープレートクラスともなれば油断さえしなければ十分に倒せる相手だ。


 ただ、この「動く都市」の城壁にいるスケルトンウォーリアは普通の数では無かった。

 余り無駄な体力は使いたくない。

 この先まだまだゴーレムたちと戦う必要があるかもしれないからだ。


 私はリネーの指さすスケルトンウォーリアの少ない場所へと移動をする。

 そしてみんなを城壁の上に降ろす。



「おいでなすったぞ! いつもの陣形! 前衛は俺とアルト、ルルシェとマリーネは補佐頼む! ゴルドは討ち漏らしを頼む、リネーは後方に注意してくれ!!」



 ケインの指示でみんなすぐに戦闘態勢をとる。

 慣れたもので、前方から迫るスケルトンウォーリアはケインとアルトによって次々と撃退される。

 私やマリーネの支援魔法も効果を発揮し、やがて近くいたスケルトンウォーリアはあらかた片付いた。



「ふう、とりあえずひと段落だな。さて遺跡は……」


 言いながら城壁から中を覗き込むとこの遺跡は少々特異な格好をしていた。


「なんか、国境の砦か何かのような造りだな? 中庭……ぽいな、あそこ」


「各待機部屋に広場、都市や町とはちょっと違う感じだな?」


 城壁内にある遺跡は何処か国境などにある砦のような感じだった。

 大小さまざまな建物がひしめいてはいるが、それは街並みとは違う感じ。

 どちらかと言うと軍用に出来あがった集落のようだった。


「ケイン、あそこ一番大きな建物。なんかさ、お宝の匂いしない?」


 リネーはこの遺跡の中央にあるひと際大きな建物を指さす。

 確かにこの遺跡の中央だし一番立派な建物だ。


「何が有るか分からないが行ってみるか」




 ケインのその言葉に私たちは遺跡中央の一番大きな建物に向かうのだった。 


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