第32話 思い出と記憶
翌日。
タケルが待ち合わせの場所で待つのは、渋谷のハチ公前。
異世界でエーデルワイスと街を回ったりはしていたが、そこにデートという概念はなく、日本にいたときは彼女が出来たことのないタケルにとって、デートというのは未知の出来事。
「デートってなにしたらいいんだ? それに……」
スマホを開くと沢村から来ていた長文メッセージを見返す。
『昨日草薙君を巡って高嶺ハンターと上杉ハンターと西条火恋の三人で女の戦いが勃発したって噂があったけどどういうこと⁉ 事と次第によっては僕も戦う覚悟があるよ⁉ 大丈夫僕は絶対に草薙君の味方だから! とりあえずなにをどうすればそんな羨ましすぎる状況になるのか教えてくれないかな⁉』
『月曜日に学校で説明する』
興奮したような沢村からの文面。
スマホを見て思わず溜め息を吐いてしまう。
「はぁ……平等院たちも似たようなメッセージ送って来てるけど、勘弁してくれ」
――上杉さんには記憶喪失の治療を手伝って貰ってるってことにして、高嶺さんは偶然その場に居合わせたから、相談に乗って貰ったことでいいよな……。
問題のカレンをどうするべきか、悩んでいると遠くから件の少女が小走りでやってくる。
黒のサマーロングカーディガンに対比する白のクロップド丈トップス。ショートパンツ。小物は手持ちのバッグにサングラス。
「待った?」
ギャルと言うよりモデルのような格好でやって来た彼女は、タケルを見上げながらあざとい感じで可愛らしく尋ねてくる。
「いや、そんなにですね」
「もぅたっくん。そこは今来たところ、だよぉ……」
カレンは少し拗ねたように言う。そして自分の服を見せびらかすような仕草。
「ところで、どうかな?」
タケルも何を言われたいのか流石にわかった。
「よく似合っていますよ」
「本当⁉ えへへ、嬉しいなぁ……」
そう言いながらカレンはぎゅっと腕を抱きしめる。
「それじゃあ行こっか」
「あの、どこに行くんですか?」
「あっち!」
その言い方がまるで無邪気な子どものようだなと思った。
そうしてタケルたちは歩き出すのだが、その背後を偶然渋谷に遊びに来ていたウィンドガードが見ていた。
「あの子、前は高嶺ハンターとデートしてたよね……え、二股?」
「うぇ⁉ しかも東京に来たってことでニュースになってた西条ハンターじゃん!」
「手が早いなんてもんじゃねぇぞ。しかしS級二人……すげぇな」
「感心してる場合じゃないよ! どうする⁉ 守が遅刻して来てないけど追いかける⁉」
「いや、そりゃ駄目だろ」
「人の恋路を邪魔しちゃ駄目だよ知佳ちゃん」
殺気もなかったため、まさか見られているとは思わないタケルは自分が二股疑惑をかけられていることに気付かない。
一緒にスタバのカップを持ちながらキャッツストリートを歩いて、そのまま原宿竹下通りへと進む。
「たっくんはね、私のことカレンちゃんって呼んでたんだよー」
呼んで呼んで、と楽しげに笑うカレンにタケルは困る。
「……せめてカレンさんで、勘弁してください」
「もー、仕方ないなぁ」
そして入ったカフェで昼食のパスタを食べながら、昔話に興じる。
「俺とカレンさんってどこで出会ったんですか?」
両親ともに一般人であり、本人もハンターとは縁のない生活をしていたはずの草薙尊。
そんな彼がS級ハンターとの交流があったことに不思議に思う。
「んーと。高い魔力適正を持った子どもが集められたときがあってぇ、そこで仲良くなったんだよぉ」
――高い魔力適正?
「……タケ、俺ってそんなに魔力があったんですか?」
「そりゃあもう! 私よりもずっと凄かったんだもん!」
「え?」
その言葉にタケルも驚く。
――じゃあ、荒木たちに虐められていたのはなんだったんだ?
荒木に虐められて自殺をしたことや、ハンターに憧れを抱いていて雑誌に付箋まで付けていたはなんだったのだろうと、困惑する。
そうしてカレンはパスタをフォークだけで巻いて食べるタケルを見る。
尊はスプーンに乗せて巻いていたので違和感を覚えていた。
「……」
「カレンさん?」
「ううん。なんでもない」
タケルに訝しげに見られ、カレンは誤魔化すように笑うのであった。
プリクラを撮ろうとするカレンにタケルも勘弁してくれと懇願しながらも結局撮り、盛られた顔になる。
普通の学生のようなデート。
そして代々木公園の湖の前の芝生で二人並んで横になる。
タケルが腕に抱きつく彼女を見ると本当に幸せそうな顔をしていた。
「たっくんとこうしてると、あの頃に戻ったみたい……幸せぇ」
「……」
うっすらと涙が太陽を反射する。
彼女にとって大切は思い出の時間で、本心からだとわかったタケルはされるがままにしていた。
そうして穏やかな時間を過ごしていると、カレンのスマホが鳴り響く。
いつの間にか、周囲に人はいなくなっていた。
「……」
異変に気付いて立ち上がる。
すると背後から男女二人組のハンターが現れて、殺気を向けてきた。
「……なんだお前たち」
振り返りタケルが質問するも、ハンターたちは応えないまま、いきなり襲いかかってくる。
「はぁ!」
接近する男のハンタ-が気合い一閃、鋭く槍を突き出す。
それを躱しながら踏み込んだタケルは正拳突きで殴り飛ばす。
「うごっ⁉」
その間に遠距離から杖を構える魔術師。
「フレアバー」
「フレアバースト」
「スト! え? きゃぁぁぁぁ!」
先に展開したはずなのにタケルの方が早く放たれた魔術のせいで、彼女の付近で魔術がぶつかり合い爆発。それに巻き込まれて吹き飛んだ。
「それで……人払いまでして、これはどういうことですか?」
もう立ち上がることも出来ない二人にタケルが下手人であろうカレンを見る。
「カレンさん」
「ねぇ、どうして貴方は魔術を使えるの?」
そう尋ねると、カレンは目を伏せたまま逆に尋ねてくる。
「それは記憶がなくなったあとに、なんでか使えるようになって――」
「ふっざけんなぁ!」
「っ――⁉」
突然感情を爆発させるようなカレンの言葉に、タケルが驚く。
「貴方の魔力が高いにはまだわかる! だけど……だけどたっくんが魔術を使えるはずがないの! だって彼は、そういう体質だったんだから!」
「それってどういう――⁉」
「それなのに魔術を使えるアンタがたっくんなわけ、ないだろうがぁぁぁ!」
「くっ!」
怒りで震える声でそう言うカレンから告げられた事実にタケルが驚くと、予備動作もなく放たれたカレンの炎がタケルを襲い、咄嗟に躱す。
対象以外は一切燃やさない、精密に制御された炎は草木一本燃やさずに通り過ぎた。
そのままカレンが杖を振るうと、踊るように二人の間を火柱が走り、ドームのように燃え上がって一切の逃げ場のない炎の空間となる。
「これは……」
怒りで血が滲むほどに噛みきられた唇。覚悟に燃える少女の灼眼。
「絶対に許さない! 私たちが大好きだったたっくんを騙るアンタを! あの誰よりも優しかった彼の身体を利用しているやつらを、私は全員許さない!」
その感情を爆発させるように、カレンは声を張り上げて杖を振り上げる。
「
そして彼女の背後で炎の巨人が生まれる。
「その偽物を、燃やし尽くせぇぇぇ!」
そうして炎の巨人がタケル襲いかかり、同時にその背後からカレンが凄まじい熱量の炎をタケルに向かって放った。
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