第15話 リーダーの言う通り
「行くぜおらぁ!」
勢いよく襲いかかる島の拳を躱したタケルは流れるように懐に入り、腹部にエルボー。
「――がぁ⁉」
衝撃で息を吐く島は、まるでトラックに跳ね飛ばされたように吹き飛ばされる。
八潮は仲間がやられたというのにまるで気にした様子も見せず、残忍な笑みを浮かべた。
「死なない程度、切り刻んであげますよ!」
蛇腹剣が蛇のように不規則な動きをしながらタケルに迫る。
――なるほど、毒か。
蛇腹剣の隙間からうっすら流れる紫色の液体を冷静に見つめたタケルは、八潮の目にも見えないほど早い動きで蹴り上げた。
ピンと伸びる蛇腹剣。
「効果解除! 蛇腹剣技『
蹴り飛ばす気だったその剣は柔らかく、それでいて人体を削るような動きで迫る。
だが不規則に動くそれすらタケルはあっさりと躱してしまった。
ほぼ見えなかったタケルの動きに八潮が驚く。
「っ――⁉ さすがですね……!」
――まずはこの男の動きを止めなければ!
八潮がそう思った瞬間――。
「うおおおおお!」
吹き飛ばされた島が獣のような雄叫びを上げて再び迫っていく。
「この! くそ! 死ねや!」
「……」
何度も拳を振るうが、タケルには一切当たらない。
八潮は蛇腹剣を引き寄せながら、焦ったように叫ぶ。
「島! 死ぬ気で動きを止めなさい!」
「俺に命令してんじゃねぇ!」
そう叫びながらも、島はタケルを拘束しようと両手を広げる。
脇が開き、無防備になった腹部を、タケルが再び殴った。
「ぐっ――おぉぉぉ!」
殴り飛ばすつもりだったが、島は腹に魔力を一点集中していたため耐えられてしまう。
顔を赤くして吐血しながらも、島が全力でタケルの肩を押さえる。
「ちっ」
「へ、へへへ! 耐えたぜクソガキがぁ!」
島が大きく腕を上げる。
「『
――『
「行くぜおらぁぁぁぁぁ!」
腕の筋肉が破裂し、即座に修復。それを複数回繰り返すことで超人のような筋力を得た島の一撃は、大地も割るほど。
血反吐を吐きながら、それでもなにか強迫観念に追われているような雰囲気。
同時に、八潮の蛇腹剣が大きく弧を描き、タケルの背後から迫ってくる。
「この剣には掠っただけで魔物ですら動けなくなる毒が塗ってありますからね! これでお終いです――蛇腹剣『毒牙』!」
――プロテクトガード。
タケルがそう呟いたと同時に、島の一撃と蛇腹剣の両方が当たり、そして刺さらず地面に落ちる。
「っ――⁉ 涼しい顔しやがって!」
「なっ――⁉ 流石に硬すぎでしょう⁉」
驚く八潮と島の声が同時に中華屋に響く。
そしてタケルが島の腕を掴んだ瞬間――
「ぐわぁぁぁぁぁ⁉」
彼は激しい痛みに襲われて雄叫びを上げる。
強化された島の腕をそのまま握り潰そうとしていたからだ。
「俺の腕がぁぁぁ⁉ て、テメェェ! 離しやがれぇぇぇぇ!」
その言葉通り、タケルは島の腕を放す。
そして再び腹部へ拳を振るう。
今度は魔力の一点集中による防御など関係ないと言わんばかりに、強い威力で突き飛ばした。
「ぐぇぇぇぇ⁉」
「なっ⁉ くっ――⁉」
島の巨体が八潮に迫り驚いていたせいで避け損なう。
二人揃って倒れたところで距離と詰めたタケルが、もう動けない島を無視して八潮を見下した。
「こんなもんか」
そして戦闘によってタケルのスイッチも入り、これまで日常時に見せてきた殺気とは異なる、本気で殺すという意志をぶつける。
――な、なんだこいつは……。
強者として余裕を持っていた八潮も、地獄をくぐり抜けてきたタケルの闇より深い瞳に恐れを抱き始める。
「な、なるほど。たしかにリーダーの言うとおり、力でどうにか出来る相手ではなかったみたいですね……」
「……」
「仕方ありません。ではこちらも予定通り、人質を使わせて貰いましょう」
「人質だと……?」
完全に自分の方が優位に立ったと思っているのだろう。
八潮が自信満々に状況を語り出した。
「貴方のご友人――」
――まさか、沢村が捕まったのか⁉
自信満々に八潮がスマホで見せつけてきたのは、ボコボコにされたうえで椅子にロープで繋がれた荒木だった。
「荒木くんがどうなってもいいですかねぇ⁉」
「なんでだよ!」
「ぶぉほ⁉」
怒りの表情のタケルはそう思いながら、荒木を友人扱いした八潮の顔面を殴り飛ばす。
頬を押さえて倒れたままの八潮は、なぜ? と動揺した様子。
その瞬間、八潮のスマホから音が鳴った。
着信の名前を見て慌てた八潮が、タケルが目の前にいるにも関わらず電話に出る。
「はい! はい! ですが……」
怯えた様子を見せながら、八潮がそっとタケルにスマホを渡してきた。
「リーダー……蛇川さんが、貴方と話したいそうです……」
――ウロボロスのリーダー……か。
一瞬悩んだが、このままだと自分の正体も全部ばらされる可能性がある。
交渉が必要だと思い、スマホを受け取ったタケルが耳に当てると、蛇川の声が聞こえてきた。
『よぉ、イレギュラー。見てたが……くくく、最高に笑わさせてもらったぜ』
「……」
タケルが周囲を見渡すと、天井や壁など、あちこちから蛇が現れる。
カサカサと動き回る蛇たちに囲まれて、普通なら恐怖の光景。
タケルからすれば怖いなどとも思わず、ただ普通に見る。
「大手ギルドのリーダーが、ただの一般人に何のようですか?」
『八潮から聞いただろ? スカウトだよ』
「それならもう断りました」
『ならテメェのことを協会にでも報告するか』
ぎろり、と周囲の蛇を威嚇する。
あの蛇たちから自分を見ていることは気付いていたからだ。
『冗談だからそう睨むなって。テメェの事は誰にも言わねぇさ』
「それを信じろと?」
『ああ。これから俺様の秘密兵器になるテメェの存在を、わざわざ教えてやる義理はねぇからな』
その瞬間、タケルのスマホに通知が来る。
真っ黒なアイコンに、知らない相手からのメッセージ。
『ところで、散々楽しませて貰った礼に画像を送ったんだが』
「おい……」
『気に入ってくれるかねぇ!』
「あの人たちに何をした?」
タケルが開いたメッセージには、病院で顔を青くして苦しんでいる両親の写真。
『ちょっと毒を盛っただけさ! この世界の医術じゃ絶対に治せねぇやつをなぁ!』
「――」
蛇川の言葉を聞いた瞬間、圧倒的な殺気の渦が周囲を包み込み、空気を歪ませた。
蛇たちが次々と気絶して、壁に張り付いていた蛇も落ちていく中で、一人立つ。
これまで感じたことのない圧倒的強者の雰囲気に、A級ハンターとして誇りもあった八潮も怯えてしまう。
――あり得ない。なんなんだこの化け物は……⁉
自分も島のように気絶が出来ればどれほど幸せか。
中途半端な実力を持ってしまったことに絶望している八潮に対して、蛇川はどこまでも自分の思い通りにコトが進んで楽しそうだ。
『ひゃーはっはっは! いいねぇその顔! さっきのすまし顔よりもずっと俺様好みだぜ!』
「解毒剤を寄越せ」
『欲しけりゃくれてやるさ! 一人でここまで来いよ!』
再びタケルのスマホから音が鳴り、メッセージにURLが張られる。
『分かってると思うが、誰かに助けを求めようなんて思うんじゃねぇぞ』
「ああ」
タケルはスマホを切ると、八潮に向けて放り投げる。
それを受け取った八潮が顔を上げると――。
「ひっ――⁉」
タケルの顔を見た八潮が怯えたように後退る。
「誰かに助けを求めるなんて、するわけないだろ? そんなことをしたら――」
八潮などいないものと思っているように独り言をつぶやきながら、背を向けて歩き出す。
その魑魅魍魎を背負うタケルの背を見ている八潮は、最後に言った言葉が聞こえていた。
――邪魔されるじゃないか……。
「……蛇川さん。貴方は、私たちは……」
――絶対に手を出してはいけない相手に、手を出してしまったのではないでしょうか?
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