第8話 5000億点の邂逅 前編
C級パーティー ウィンドガード
メンバー4人が幼馴染で、風見高校出身のパーティー。
ハンター育成校出身でないにも関わらず、結成三年目にして優秀な成績を収めている。
急成長の秘訣は幼馴染ゆえのチームワークとバランスの良さ。
リーダーでありパーティーの守りの要 タンカーの
それぞれが己の役割を的確にこなすことで、格上の魔物すら撃破が可能だ。
大手ギルドからもスカウトを受けているようだが、「風見市の平和は俺たちが守る!」と言って断り続けている。
彼らが守る風見市はきっと、これからも安全だろう。
――月刊ハンターより。
サクラと出会ってから三日。
風見高校はゲートブレイクのせいで校舎の多くが破壊され、使い物にならなくなった。
そのため学校は休校。
現在は近隣の高校と連携を取り、風見高校の生徒を振り分けている状況で、タケルも家で時間を持て余している状況だ。
「やっぱりないか……まあ当然だろうけど」
スマホで『別人に憑依する魔術』、と検索してみるも怪しいサイトが出て来るだけで手掛かりはない。
見つかるとは思わなかったが、一般人であるタケルに出来ることはこれくらいなのだ。
「これ、検索履歴のせいだよな……?」
これで貴方も魔物の脅威から守られます、などの霊感商法的な怪しい広告が度々出てきて、うんざりしてしまう。
こんなスマホを誰かに見られたら、草薙尊が変な奴認定されてしまうかもしれない。
「はぁ……とりあえず走るか」
気分転換も兼ねてランニングをしようと半袖パーカーを羽織り、家から出る。
異世界で救世主をしていたときは、毎日走り込みを欠かすことはなかった。
この世界では魔物を相手に戦う気はあまりないが、いざというときに動ける身体にしておく方がいいだろう。
「せめて体力くらいは人並みに付けとかないと……ん?」
家を出てすぐ、近所の公園に人だかりが出来ているのが見えた。
なんだ? と思い近づいてみると、黒いゲートがゆらゆらと浮かんでいる。
「黒いゲートって、たしか……危ない方だよな」
以前雑誌で見た内容を思い出す。
ゲートには種類があり、良く見られるのは蒼のゲート。
これは発生とほぼ同時にゲートブレイクが発生し、弱い魔物が飛び出してくるものだ。
対して黒ゲートは、魔物がゲートブレイクするまでに猶予がある。
その代わり、飛び出してくる魔物の強さは蒼ゲートとは比較にならないほど強力だった。
「黒ゲートが発生した場合、ハンターはゲート内部にいる魔物を倒さないといけない、だったか」
ゲートは魔物の溢れる異世界と繋がっており、常に死と隣り合わせの危険な場所だ。
だからこそ、 ハンター協会はゲートの危険度を判断し、適正なハンターを決めていた。
「異世界、か……」
どうしても過去、自分が処刑されたことを思い出してしまい、顔が強張ってしまう。
異世界での記憶が全て悪かったというわけではない。
それでも人々から憎悪の視線を向けられたあの日のことは忘れられそうになかった。
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だぞ少年!」
「え?」
いきなり声をかけられてそちらを向くと、四人のハンター。
――見覚えのあるような……
そう思っていたら、丁度今朝読んでいたハンター雑誌に載っていた人たちだと気付く。
大きな盾を背負い、いかにも力自慢だろうという戦士が、こちらを安心させるように自信ありげな笑みを浮かべてサムズアップ。
「俺たちウィングガードが来たからには、もう安心だからな!」
「えと……あ、はい」
盾戦士の賀東、槍騎士の富山、ヒーラーの雨宮、シーフの白井。
賀東を除けば美男美女の集まりで、ただそこにいるだけでも妙に目を引くメンバーだ。
賀東にしても、美男子というわけではないが大きな身体と全身から溢れる自信は、魅力的に見えるだろう。
「ちょっと守。その、最初から親友みたいな距離の詰め方エグいから止めなさいって言ってるでしょ」
「む、だがな知佳。俺は明るく接することで不安を吹き飛ばそうと――」
「むさい男にその勢いで来たら誰だって引くっての。なあ茉莉」
「で、でもね友一くん。いつも一生懸命なところが守くんの良い所なんじゃないかなぁって」
「いいところだけど、馬鹿なんだよ馬鹿」
「お、俺は馬鹿じゃないぞ!」
初対面なのにハイテンションで接してくる賀東につい一歩引いていると、仲間たちが身内でワイワイとやり始める。
幼馴染らしいこの人たちは多分、学生時代でもこんな感じだったのだろう。
いじめられっ子だった自分としては、苦手な部類の人間だった。
だが、多くの人々にとっては、若く、明るく、見た目が良い男女というのは魅力的に見えるもの。
「C級パーティーのウィングガードだ!」
「賀東ー! 今日も頼んだぞー!」
「お前が怪我をしても仲間はちゃんと守れよー!」
「はっはっはー! 任せろ任せろー! このデカい身体は伊達じゃないぜー!」
大手のギルドからの勧誘を断ってでも、こうして風見市を守ることを選択し続けている彼らは、地元のヒーローのような存在だ。
賀東だけではなく、他のメンバーもしっかり知られているらしく、たくさんの声援が飛び交っている。
その声援に応えて手を振ったりするのも様になっていて、人気な理由もよくわかるというものだった。
「さて少年! 見ての通り、俺たちは今からゲートを攻略する!」
一通り周りにアピールを終えた賀東は、タケルの方を見て再び安心させるような笑みを浮かべる。
「だからそんな怖がらなくて大丈夫だ! この街の人たちが笑顔で過ごせるよう、俺たちが全力で守るからな!」
「……頑張ってください」
「おう! 風見市の平和は、俺たちが守る!」
雑誌でも見たように、背中の盾を前に出して白い歯をキラリと輝かせる賀東。
「おら、ちゃちゃっと行くぞ」
「それ恥ずかしいから」
「あ、ははは……」
彼はパーティーメンバーに背中を押されながら、レッドゲートの中へと入っていった。
その背を見送ったタケルはランニングを再開する。
そうして気付けば夕方くらいになってしまっていた。
家の近所までやってくると、再び公園の横を通る。
「なんか、妙に騒がしいな」
黒ゲートが現れた場合、攻略が完了するまでの間、周辺は警察やハンターたちが派遣される。
といっても、蒼ゲートと異なり黒ゲートはゲートブレイクするまで予兆もあり、十分な対策が出来るものだ。
だからこそ、ギルドやパーティーが攻略中というのは静かなことが基本だが、今は野次馬が再び集まりずいぶんと騒がしい。
近くまで行くと、黒ゲートはまだ健在。
そして――自慢だった盾は半分ほど折れ、大怪我を負った賀東。
持っていた槍が根元から折れてしまい、傷だらけで気絶している黒崎。
その二人を必死に治そう、涙目で回復魔術を使い続けている雨宮の三人の姿があった。
「まだ! まだ知佳が中にいるんだ! 囮になってくれたあいつを助けないと、死んじまうだろうがぁぁぁ!」
「賀東さん! その怪我でアンタ無茶だ!」
「大人しく雨宮さんの治療を受けてくれ!」
「うおおおおお! 止めるなァァァァ! あいつ一人を置いてなんていられるわけないだろぉぉ!」
「応援ももう呼んでます! 近隣にいなかったためまだ時間はかかるみたいですが……」
「おい馬鹿! それは――」
「っ――!」
警察やハンターたちに取り押さえられている賀東は、怪我のせいで普段の力を発揮できないのだろう。
暴れるが、振り払うことが出来ないでいた。
「頼む! 行かせてくれ! 知佳! 知佳ァァァァァ!」
必死に叫ぶ賀東の姿が一瞬、処刑されたときのエーデルワイスを思い浮かばせる。
「おい、これヤバくないか?」
「このままだとゲートブレイクが起きるんじゃ……」
「あそこにいるハンターたちはなにやってるんだよ」
「て言っても、ウィングガードはC級の中でも上位のパーティーだぞ」
「それがあんな状態になるんだから……駆け出しハンターだけじゃ無理だろ」
賀東の必死の叫びも、周囲の野次馬たちにとってはあまり関係のないことだ。
ハンターは常に死と隣合わせ。
そんな彼らが怪我をしたりゲートに残されたとしても、人々の関心は自分たちが安全に過ごせるかどうか、ただそれだけでしかない。
「ぐっ……」
「ほら! そんな身体でゲートの中に入れるわけないでしょう!」
「誰か、知佳をっ……!」
怪我のせいでその場に膝を着く賀東。
大きな体を震わせて、一縷の望みを託して周囲のハンターを見渡す。
しかし当然、彼らはゲートの中に入ろうとはしない。
賀東たち上位パーティーがボロボロになるようなゲート。
間違いなく、協会が測定したランクを大きく逸脱してるのがわかり、駆け出したちにとって死にに行くような場所だからだ。
「……畜生。俺が、俺がもっと強ければ……俺がみんなを守らないといけないのに……俺らを逃がすために、知佳が……!」
「……」
そしてタケルは過去を思い出す。
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