第74話「手がかり」

百喰 「ニュータウン南部まで来るのは久しぶりですね」

アド 「だね、モグッチ。ポートラル結成当時は、毎日ペトラ橋まで足繁く通ったもんだよ」

百喰 「ええ。あの頃、私が静止を促してなければ、何度ゾンビ化していたことか」

アド 「面目ナッシングッ!」

  「ここまで反省の色がないと清々しいな」

百喰 「いえ、過去を顧みず道を示し続ける。リーダーとしての長所でもありますので。新参の貴方が知った口を聞かないでください」

  「へぇ……知った口も何も、リーダーの短所を補うのも参謀の勤めでね。お前と違って知らぬ存ぜぬじゃ許されないんだよ」

ベキぃ、と。ペンがへし折れた音はゾンビのうめき声に掻き消された。



■■─────────バトル────────■■



栗子 「ふぅ、ったく。あたしの血がそんなに飲みてぇのかねぇ、この腐れ共は」

やちる 「太ももが……重点的に疲れたです」

栗子 「んだ? やちる、電磁力ブーツの電源切ってやがるのか」

やちる 「節電、だから」

  「豹藤のブーツ……電磁力性だったのか。通りで氷の上を滑るようだよ」


見た目はただのブーツなのに、滑るどころか跳躍したり舞ったりしてたからな。


やちる 「磁力の力で……浮いてますゆえ」

栗子 「へはっ、素敵な魔法にでも見えたか?」

   「便利な靴もあるもんだな。僕も一足欲しいくらいだよ」

アド 「けどけど、その靴、ヤチルンに以外に扱える代物じゃないぜ? だってヤチルンは──」

  「──第54回シベリアゴリンピック、女子フィギュアの最年少日本代表、豹藤やちる」

アド 「ありゃ? サンちゃん知ってたの?」

  「……いや……昔の『僕』の記憶のほうらしい」

栗子 「おいやちる気をつけろ、こいつぁやちるのストーカーかもしれんぞ」

やちる 「ストーカーは犯罪ですょ……?」

  「……」


ゴリンピック日本代表選手、となれば名前を知っていても不思議ではない……か。

シベリアでのゴリンピック開催は確か……1年前。

つまり最低でも1年前までは、僕も普通に生活していたということか。

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