第十章 弱肉強食の定理
第64話「団結の刻」
【同日 15時20分 人工林『榎林ヶ丘』林内】
「よし、準備はいいな皆」
一同 「うす」
「これより鹿狩り最終作戦会議を開始する」
アド 「では、300ページ近い鈍器をご参照ください」
「ぶちカカスぞ」
アド 「ぶちカカス?!」
木々生い茂る林の中央で、僕らは円陣を汲んでしゃがみ込む。
拳銃や弓、剣や薙刀など、選り取りみどりの武器を持ち寄って。
狩りの時間だ。
「いいか、今回ばかりは肉を確実に得るために、僕の指示作戦に従ってもらう。異議上告は謀反に同じ、ちゃちゃ入れやがった奴は肉に仇なす者と思え」
一同 「らじゃ」
「よろしい。ならばいいか、鹿狩は基本『立間(たつま)』と『勢子(せこ)』の二役に分かれて行う。『立間』は銃や弓で実際に鹿を射る係、フィニッシャーだ。『勢子』は立間が打ちやすいポジションまで獲物を追い立てる誘導係」
アド 「サッカーで言うFW(フォワード)とMF(ミッドフィルダー)みたいなもんぞ?」
「それで、まず『立間』の配役ですが礼音さん。貴方以外に適任はいないのでお願いできますか?」
礼音 「心得た」
「ありがとうございます。そして残りのメンバーは総員『勢子』だ。陣形については図で説明してやるからよく見ろ」
木の棒で地面に、榎林ヶ丘一体の簡易見取り図を書く。
「榎林ヶ丘は小さいからな、今回は小規模な『巻狩り』スタイルで考えている」
礼音 「巻狩りとは、また古風な狩猟法を使う」
やちる 「マキ……ガリですか?」
「巻狩りは複数人の勢子が円形陣で鹿を囲って行う狩猟法だ。この囲いを徐々に狭くしていくことで、獲物を中心部分に追いやり────立間が一気に狩る」
アド 「サッカーで言うゾーンディフェンスみたいなもんぞ?」
「この巻狩りなら、一度に複数頭の捕獲が可能だし、うってつけだろう。んで、今さっき皆に渡した、防犯ブザー。あれを合図に陣形を縮めていく」
首に下げたブザーを見せながら、僕は説明を続ける。
「ブザーのメーカーを全部変えたから、音の種類で人の特定を、鳴らした回数で情報を随時伝達してくれればいい。鳴らした回数と情報のルールは紙に纏めておいたから頭に叩き込んでおいてくれ」
一同 「らじゃ」
「後、指揮官は僕がやる。聞き間違いがないよう、僕だけホイッスルを使わせてもらうから注意してくれ」
アド 「うへぇ、考えただけなのに涎のダム建設5秒前そして、決壊ッ!」
「それと注意ついでにもう一点、音は知っての通りゾンビを誘き寄せる。榎林ヶ丘にゾンビは見受けられないが、有事の際にも備えて、来栖崎は遊撃部隊として準備しておいてくれ」
ひさぎ 「……はいはい」
来栖崎は僕との会話は不服げのようだが、和を乱すつもりはないらしく肯定の意を示した。
栗子 「しっかし本格的ってか、やけに詳しいなサン。 経験があるのか?」
「例によって経験については覚えていない。知識があるだけだよ」
アド 「サンちゃん、昔は猟師さんだったのかい?」
「ともあれ、時間が惜しいから狩猟開始しよう。今晩は皆で──鹿鍋だ」
一同 「うっすッ」
アド 「……」
なんか無視されすぎな気がするしょぼんぬ、とアドが項垂れているのは知っていた。
僕の資料を馬鹿にした罰である。
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