第63話「4足歩行の肉」

【同日 15時10分 渚輪ニュータウン 榎林ヶ丘】



アド 「肉林についたぞぉぉぉぉぉぉぉぉおぉ」

   「榎林ヶ丘だアホ」


終末でなけりゃ警察呼ばれる叫びだよ


栗子 「てかよサン」

  「ん?」

栗子 「今更水さす話でもねぇが、鹿がウイルスに感染してましたってオチはねぇのかよ?」

やちる 「え……? お肉のゾンビです……?」

栗子 「あたしら餓えちゃいるが、腐った肉に噛み付くほど人生捨てちゃいねーぞ」

   「その点なら確証はないけど多分大丈夫だよ。動物もどうやら女性と同じで空気感染しないみたいだし──」

栗子 「おいやめろあたしらと動物を一緒のカテゴリーに入れるな」

   「──直接噛まれてないなら、ゾンビ化はしてないはずだよ」

アド 「え、でもでも噛まれてたらお終いだべさ? お肉は諦めだべさ?」

やちる 「ぇ……お肉お預け……しょぼん」

  「安心しろ。デパートの本屋で色々調べたんだけどさ。榎林ヶ丘は国指定の進入禁止区域、鹿の放牧人工林らしいんだよ。見ての通り林一体が溝で囲われて分断されてるし、ゾンビがこの長い垓三橋を一方方向へ、落ちずに渡りきれるとは思えない。きっと鹿は未感染だよ」

アド 「へほー、まるでゾンビ博士だのぉ」

   「もちろん『感染の日』当日に、人工林に男性が入り込んでいたらアウトだけど。確率的には相当低いとみてる」

やちる 「お肉……食べれるですか?」

栗子 「あぁやちる。我らが参謀は肉への導を示す、憎たらしい指導者だったよ」

アド 「──さぁぁぁぁぁぁぁんちゃん!!!」


   「うぉ?! どうしたいきなり叫びだして」

アド 「見てみてみてみて!!!!」


突如、お姫様は林を指さし叫声を挙げる。

細い人差し指が示す先には──


アド 「ミートがいる!」

やちる 「4足歩行の……お肉」

   「鹿だよ」


僕の聡明な訂正が届かぬほど、少女たちの瞳に野生が宿った。

よくよくみれば来栖崎まで無愛想ながら、瞳を輝かしているではないか。

不器用か。


アド 「総員ッ聞けぇぇ!!!」

一同 「「「サーイエッサーッ!!」」」

アド 「我らが渇望せし酒池肉林は遂に眼前にありッ! 経過も手段も問わない! 勝利さえも空虚な大義名分だとしれ! 求むべきは唯一つ! この見果てぬ欲望を満たす──肉のみだ」

一同 「「「うぉぉぉぉぉぉ!」」」

   「待ちやがれこのアマゾネスども!」


駈け出した一部アマゾネスども(アド、栗子、豹藤ちゃん、そしてちゃっかり来栖崎)を、僕は呼び止めた。


アド 「……おぃ、サンちゃん。チミにどんな権利があって、我らが覇道を阻むつもりぞ?」

やちる 「肉の仇……容赦せぬです」

   「……はぁ。じゃあアマゾネス。逆にお前たちに問うぞ。足場も不安定な林で、走る鹿に追いつけるような脱人類がいるなら手を上げてみろ────いやいや、おいマジで皆手を挙げるなよ走れるわけねぇだろ」


来栖崎あたりなら本当に鹿に追いつけそうで恐ろしい。


   「いいか……。んな捕食欲求丸だしで近いたら、鹿も脅えちまうに決まってるだろ」

アド 「『悲しいけどこれ戦争なのよね』、なんだよサンちゃん!」

  「黙れ『弛みナード』」

アド 「樽神名アドだよ?!」

  「『勝兵はまず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵はまず戦いて而る後に勝を求む』」

アド 「えっと……」

  「孫子だよ、知らないか? ──『古之所謂善戰者、勝於易勝者也、故善戰者之勝也、無智名、無勇功、故其戰勝不トク、不トク者、其所措必勝、勝已敗者也』と」

栗子 「急に呪文を唱えだしやがった」

   「中国語だっての」

礼音 「ほぅ、軍形編かな」

  「流石ですね礼音さん、よく原文で分かりましたね」

礼音 「ああ、家柄喋る言語は多くてな」

栗子 「おいサン。その『ソンシ』と肉にどんな因果関係があんだよ殺すぞ」

  「肉から一旦離れろアマゾネスども。いいか? ようは勝つ奴はまず勝つ算段を整えて後に、それを現実化するために戦う。逆に負ける奴はまず戦い始めてから、勝つための算段を練ろうとする。そうゆうことだよ」

アド 「なるほど、わからん」

百喰 「つまりはアド、この男は『鹿を狩る策を練った後、狩猟に赴け、でなければ負けるぞ』」

百喰 「そう曰いたいんですよ。違いますか?」

栗子 「んだよそう言えっての、不器用かお前」


撲り飛ばしたい。


   「ああ、百喰の説明通りだ。だから冷静になれ。無闇矢鱈に突撃するな。この作戦の立案者は僕だぞ? 僕がポートラルの参謀である以上──」


必ず肉を食べさせてやる、と唇の端を歪めてみた。

アドの真似とはいえちょっと格好つけすぎたか?

少しだけ言って恥ずかしくなったけれど、


アマゾネス一同 「「「……一生ついて行きます、マイロード」」」


どうやらアマゾネスどもには丁度いいようだった。

だんだん、コツを掴んできた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る