第61話「籠の認識」

【同日 14時45分 渚輪ニュータウン 垓三町郊外】


   「なぁアド」

アド 「およ?」

  「狩猟に行く途中に変な提案かもしれないけどさ、今後ポートラルでは漁業を展開するってのはどうだ?」

アド 「ぎょぎょ?! なんちて」

  「カカスぞ」

アド 「カカスってなに?! カカシにするぞってこと?!」

やちる 「ぇぇ魚……? 肉じゃなきゃ……やです…………ぅぅ」

   「どんだけ肉に飢えてんですか」

礼音 「漁業はだめなんだよサンくん。残念だが海浜産業は厳しそうだぞ」

  「礼音さんまで……何故です? 漁業は狩猟に比べて資源も豊富ですし、技術が確立すれば安定した供給が出来ますよ? いつ来るかも分からない政府の救援を待たざるをえない現状で、中長期的に考えれば」

礼音 「違うのだサンくん」

  「違う?」

礼音 「この渚輪ニュータウンの四方は──断崖絶壁なのだよ」

  「断崖絶壁……ですか?」

栗子 「おい、なぜ今一瞬やちるを見た」

やちる 「お肉さえあれば……お肉さえ……」

  「島一体が断崖絶壁だなんて……そんなことありえるんですか?」

礼音 「うむ。渚輪ニュータウウンはな、有事の際、国外向けの軍事拠点として利用できるよう計算して作られているのだ」

礼音 「故に、全ての海岸線が海抜30mの絶壁で、外から船がつけられないようにできている」

  「発想が戦国時代ですよ」

礼音 「兵法は孫武の時代には既に大成している。発展したのは技術だよサンくん」

  「なるほど……。じゃあ船を調達しての脱出も」

礼音 「船程度で脱出できるくらいなら、とうに脱出している。私たちは名実ともに──この渚輪ニュータウンに囚われているのだよ」

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