第九章 肉シミに溺れて

第57話「女の生き甲斐」

【14日後】

【6月24日 13時30分 中央会議室】


アド 「さぁさぁまいどお馴染み悪を許さぬ製菓の味方、アド様だぜ皆のしゅー!」

一同 「「……」」

アド 「ってなわけで集まったねー、アホ面雁首揃えやがったようだねー! いいぜ時は金なり地獄のサタンも金次第! なのにポートラルは慢性的なお金不足だぜタイム・イズ・オン・マイ・サイド!」

   「早く作戦名言えよ、言いたいんだろ、後がつっかえてる」

アド 「くはっサンちゃん! 参謀就任してから手厳しいぜぇ! なんだぁーあれだなー? 初の立案作戦だからって張り切っちゃったりなんかしちゃっ」

  「急げ、剥ぐぞ」

アド 「──ってなわけで第232回『秋の珍味は選りどりみどり大作戦!―イキヌクためにはイキヌキしないと―』を開催だぁ!」


毎度いつ作っているのか分からん横断幕を掲げ、アドは満足気に鼻を鳴らした。

ニヤニヤしながら一人で夜なべしているアドを想像したら、少しだけ可愛かったのは内緒である。


   「で、今作戦の概要につきましてですが、作戦立案者である僕から説明させていただきます。まずはお手元の資料を御覧ください」

栗子 「おい、資料が300ページあんぞ」

アド 「装備したら武器欄に登録されたぜ……」

  「作戦の概要と意義、さらに安全性から陣形の考察等を一晩で纏めみたんですけど、ちょっと多かったですかね」

百喰 「ちょっと? この量が?」

栗子 「やちるー、やべぇよー、樽神名の次にやべぇよあいつー」

やちる 「かたい……重いです……」

アド 「『ジェサンニが一晩でやってくれました』ってか……」

  「皆さん静かにしてください。備えあれば憂いなし、作戦成功率向上のため、これでもざっくり書いたんです」

百喰 「ざっくり……ですか」

   「で、肝心の作戦概要ですけど、23ページ目の『ポートラルの生活水準について』を開いてください」

一同 「うぃー……」

  「ここポートラルは、インフラやライフライン機能が停止した渚輪ニュータウンに置きましても、最低限の自給自足設備が備わっております。菜園売り場から種を拝借し、屋上の一角に土を敷いて始めた自家菜園、或いはペットショップを利用した鶏の飼育など、短期的には生活出来る施設が整っております。しかしながら中長期的な問題は山積みです。その一つ、僕が此度着眼したのが、動物性蛋白質の摂取の困難さという点です。そもそも動物性蛋白質が欠如することによる、医学的な見地からみる弊害については、121ページ目をご覧いただければわかるかと思いますが、ハーベード大学教授の──」

アド 「──よっしゃ、てなわけで肉を食いたくないか皆のしゅー!」

一同 「「「肉ッ?! 食べたいッ!!」」」

  「ちょ、僕の作戦概要説明がまだっ」

アド 「肉を食いたいかぁー!!」

一同 「「「うぉぉぉい!」」」

アド 「虎穴に入らずんば虎子を得ず! 野郎ども、此度あたしらは肉を狩るぞぉ!」

一同 「「「肉ォォォォ?!」」」

アド 「しかもチンケな肉じゃないぜ、勇猛なる鹿肉だ!」

一同 「「「きゃあああああ」」」

アド 「さぁお肉狩りじゃお肉祭りじゃ! 山に繰り出すぜッわっはっは!!!」

一同 「「「うぇぇぇい!」」」

  「……」

礼音 「ふふ。気にするなサンくん。みなはもう樽神名病に感染してるのだよ」

  「……とりあえず……資料は各自破棄しておいてください……」

アド 「鹿肉じゃあああああ!!」


猛り上がる黄色い叫声に、僕の独白は掻き消されていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る