第55話「最後の手段」

【同日 10時00分 大型デパート屋上 自家菜園場】


   「あの野郎……結局地下から屋上まで逃げ果せやがった」

ひさぎ 「どこ、ねぇ私の獲物はどこ?」

  「焦るな。入り口はここだけだ。ここを封鎖しちまえば袋のネズミ。菜園の影か、あるいはシャワールームか、逃げ切ることはもうできねぇよ」

綴   「あら、サン様! 息を切らしてどうされましたの?」

  「甘噛、おま……なんて格好してんだ?」

綴   「いやん、ウブで可愛いですわね。ただのバスローブですの」


下着はダメでバスローブはいいのかよ。


綴   「シャワーを浴びてましたもので。けどヤカンのお湯が切れてしまいまして、欲求不満、不完全燃焼ですわ」

  「そうか。つまり仮設シャワールームには隠れていないと」

アド 「ふっふははははー!」

ひさぎ 「いたわよあの阿婆擦れ! タンクの上よ!」

  「クソ、あんな遠くに」

アド 「ここまで追ってきたことは褒めてやるぜユーたち! だが、最高にハッピーなショーはここからさ!」

   「なに?」

アド 「今ツヅリンが着ているバスローブに、時限爆弾を仕掛けさせてもらったぜ!」

綴   「時限爆弾?」

アド 「ふふふ、このスイッチを押すと木っ端微塵に────ローブが肌蹴るように設定した時限爆弾さ!」

綴   「なんですとッ?!」

  「手先器用か」

アド 「おっと、動くなよ。妙な動きをしたら、スイッチをポチだ! さぁ、おとなしくあたしを諦めバックトゥー・ザ・サンチャンする以外選択肢はないぜ!」

  「卑怯星からやってきた卑怯星人かあいつは……」

ひさぎ 「いえ、卑劣星ね」

アド 「ひゃっひゃっひゃー、口先だけのサンちゃんと切っ先だけのヒサギンじゃ、あたしゃ捕まえられんのさ! 先っちょだけコンビでお似合いだぜ! おしりペンペン!」

  「どうしてくれようかあのメスゴリラ」

ひさぎ 「いい、あたしが斬るから」

  「無理だろ、タンクの上まで10mくらいある。梯子とか準備しているうちに甘噛の服がはだけちまうって」

ひさぎ 「は? だから──たった10mでしょ」

来栖崎ひさぎは──飛んだ。

10m、いや高低差を含めれば15m近い距離を、

助走もなく、踏み込むように、まるで空を掛けるように、飛んだのだ。


アド 「おしりぺーんぺ……ぺ…………へほ?」


超人じみたその跳躍の末、来栖崎はアドの眼前に着地する。


ひさぎ 「はろろん、罪人さん」

アド 「…………」

アド 「……。………ごめん」

ひさぎ 「おそい」


ともあれ、来栖崎の超人的跳躍についてはさておいてだ。

僕は叫んだ


   「そのメスゴリラをこっちへ落とせ来栖崎!」

ひさぎ 「命令すんな!」

  「落としてください来栖崎様ぁッ!!」



■■─────────バトル────────■■



アド 「……きゅー」


アドは、地に沈んだ。


   「はぁ……はぁ……ついに……終わったんだな」


戦争とはなんと無意味なものか。

勝利の余韻、そして虚しさを胸に、

僕は哀れな女性を見下ろした。


   「眠れ、その身に罪を刻んで」

ひさぎ 「アンタ毒されすぎ……マジでキモ」

   「……すいません」

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