第七章 屍でも抱締めて
第43話「追憶」
【同日 18時28分 渚輪ニュータウン 北垓三通り】
「それでアド、なんでコスモリアランドなんだ?」
アド 「……ヒサギンにさ、生き別れた恋人がいたって話、前にしたよね?」
「ああ聞いたな。それが?」
アド 「その恋人ってさ、同じ剣術道場で育った幼なじみなんだよね。かれこれ10年来の仲になるのかな」
「あいつ剣術道場に通ってたのか」
アド 「通ってたっていうか、その道場自体、ヒサギンのお父さんが師範代やってる道場だから、ヒサギンに選択権はなかったはずだよ。5歳の頃からずっと、跡継ぎ目指して稽古の日々。女の子としての全てを捨てさせられてさ、いろいろ辛かったと思う」
「そんな来栖崎を側で支え続けた幼なじみ、って辺りか。恋愛に発展する経緯はなんとなく見えたよ。純愛だったんだな」
アド 「えへへ、サンちゃんって恐ろしく察しはいいけど、女心にゃ鈍すぎるよね」
「違うのか……?」
アド 「半分外れ。あたしにはちょっち分かる。純愛なんかじゃなくてさ──依存だったんだよ」
「依存……」
アド 「10年。女の子がたったヒトリの男性だけを想い続けるには、長すぎる時間だよ。もう、この男性はヒサギンの心を支える背骨。折れたら死んじゃうナニカ」
「……」
アド 「けどね、その依存も、紆余曲折あって実ったんだって。この前の3月15日に」
「……おい……まさか3月15日って」
アド 「本当に察しだけはいいなぁ。うん、大感染の日。渚輪区が──地獄に堕ちた日だよ」
僕は言葉を失い、様々な妄想が脳内を駆け巡った。
3月15日。
それは全国的に見て3学年生の卒業式、その翌日あたりだ。
来栖崎の年齢は知らないけれど、きっと高校生くらいだろう。
そして──卒業旅行にはうってつけのコスモリアランド。
アド 「ヒサギンさ。まえ……一度だけ語ってくれたんだ」
徐々に、アドは笑顔のまま頬に雫を伝わす。
アド 「生まれてきて初めて……女の子として過ごせた日だって……女の子として生まれて良かったって……心から思えたんだって……」
彼女の人生が、始まるはずだった日は、
全てが──終わった日だった。
有り触れた恋話は、溢れた血の池に沈んだ。
僕は更に強く、地面を蹴った。
【同日 同時間 コスモリアランド 某所】
ひさぎ 「どうして……こぅなっちゃうのかなぁ……」
少女はペンダントを握りしめる。
10年間想い続けた男性との──写真が収まった小さなペンダント。
『3/15』と描かれたプリクラには、慣れない遊びをする男女のうぶな笑顔が収まっていた。
ひさぎ 「……わたしが……ぃけなぃのかなぁ……」
答えてくれる人はもういない。
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