第33話「任命」
【同日 15時15分 デパート1F エントランス】
アド 「いやっはぁー! よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉくやったぜサンちゃんッ!」
帰還したアドに、背中を全力で叩かれた。
そのまま肩へと腕を絡められ、男友達よろしく抱きしめられる。
アド 「くりくりくりー、このー、憎いやつだぜーサンちゃんはー」
「えっとその……サンちゃんってもしかして僕のことか?」
アド 「そ! ポートラル参謀職のサンちゃん」
「安易だ!」
アド 「指示が凄い、でシッちゃんと悩んだぜ……」
「脳が一バイトも仕事していない!?」
アド 「へへーん、いいでしょ、サンちゃんサンちゃん」
「いいか悪いか別として……参謀職って方は……冗談だよな……?」
アド 「ん? 変ぞ?」
「変ぞ変ぞ、大変ぞだよ」
「今回は流れで指揮を執ってみただけ。参謀職業なんて分不相応もいいところだよ」
アド 「分不相応とか、サンちゃんの決めることじゃ──」
「──……ん? ちょっとまてッ」
僕はアドに肩組されたまま──
ふと、エントランスに帰ってきた二人の少女を視界に収め、そして気付く。
「豹藤! 姫片ッ! ゾンビの撃ち漏らしが机の下に隠れてるぞッ!!」
■■─────────バトル────────■■
栗子 「うっへー……っぶねぇな。……脳内麻薬駄々漏れだわ」
アド 「よく話の最中で気付いたねサンちゃん……」
「あぁいや、たまたま視界に入っただけだよ」
アド 「やっぱサンちゃん、観察力も凄いって。今の作戦指揮だって、めちゃんこ鋭かったし、参謀職、適任だと思うけど。 ね? 皆のしゅー?」
一同、無言の返答。
しかし、その殆どは笑顔を湛えた、肯定の意だった。
アド 「なんかこーさ、サンちゃんの指示通り動いたら、普段はふわぁ……って感じなのが、しゅばッ、きゅきゅっ! って感じになったのさ」
礼音 「うむ。サンくんには頭脳労働、現場指揮の才能があるかもしれないな」
礼音 「組織が一個生物として機能していた実感が確かにあったよ」
礼音さんが『サンくん』と呼び出せばもう逃げられない気がした。
アド 「ふっふふー、サンちゃんは医者じゃなくて本当は棋士か何かだったんじゃないかい?」
栗子 「棋士か。インテリ坊っちゃんで運動出来ねぇのも頷ける」
やちる 「棋士に失礼だよ……」
アド 「ってなわけで賛成多数、てかあたしの独断! ポートラルの参謀、サンちゃんの誕生さ!」
アド 「改めてよろしくだぜ、サーンちゃんっ!」
「はは……」
『サン』というアダ名には、甚だ承服しかねる部分があった。しかし──、参謀職か。
いや、役職などはどうでもよく、とにかく自分の居場所に、自分の立場に、名前が就いたのが嬉しくて仕方ない。
過去の自分がどんな奴だったか知る由もない。
けれど、記憶を亡くした『今の自分』として、新たな居場所があるのだとしたら、過去などどうでも良かった。
ポートラルの参謀として、皆と一緒に生きていけばいいのだから。
「ああ……よろしく頼む。僕で良けれ──」
しかしそんな希望は──本当の絶望への入り口でしかなかった。
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