第10話「廃屋の歌姫」

【同日 11時35分 渚輪ニュータウン 第十三区】


アド 「♪邁進ー、邁進ー、アイワナ邁進ー」


謎の歌を口ずさむアドの後ろで、僕は戦闘班の面々を眇めみた。

来栖崎ひさぎ、三静寂礼音、姫片栗子──、

少数規模の戦闘班の中でも、この三人は飛び抜けて強い。


礼音 「どうしたんだい、新入りくん。すこぶる怖い顔をしているが」

  「あ、いえ……。皆さんお強いなと感服していただけですよ」

礼音 「ふふ。感服とは過大評価が過ぎるな」

  「過大評価なんて、謙遜が過ぎますよ」

礼音 「ゾンビらは鈍い。うえに戦術も持ちあわせていない木偶だぞ?組織で連携し、戦略と戦術を持って冷静に叩けば犠牲者などでようものか」

  「冷静に……ですか。脳髄を破壊しないと死なない、噛まれたら終わりの化物を前にしてですよ?」

礼音 「新入りくん……?」

    「正直、僕は怖くて……冷静でいられやしません」

礼音 「そうか。確かに私も、時に怖くなるよ」

  「……?」

ゾンビ 「ォォォォォ」


と、アドの不快な歌につられてか、ゾンビが現れた。



■■─────────バトル────────■■



アド 「♪ユーキャンポートラルー、キャンユーポートラルー?」

栗子 「あーあ、返り血がシャツに少しついちまったじゃねぇか」

栗子 「好きな柄だったのに替えっかな」

姫片は気怠げにTシャツを破り脱いだ。

黒い下着に包まれた胸を、惜しげもなく大気に晒す。


百喰 「男性の前でよく、そんな端ない格好になれますね」

栗子 「はっ、見せたくらいで価値がさがるほど安かねぇっての。なぁやちる」

やちる 「……ノーコメントです」

ひさぎ 「はっ。値崩れ起こしすぎてやけになったの間違いでしょ、片栗粉」

栗子 「クリコじゃねぇリツコだっつってんだろぶっ殺すぞ!」

礼音 「こらこら、戯れあいはほどほどにな。油断しすぎると足をすくわれるぞ」

栗子 「いやいや……叱るべき相手を間違えちゃいねぇか礼姉(あやねえ)よ?」

アド 「♪それではー? みなさんー? 良い終末をー! ♪うーハイハイ!」

礼音 「……樽神名くん」


やりたい放題のメンバーを眺めながら、僕は嘆息する。


  「……すごいよな、いろいろ」


一滴も血に濡れていない──、

木刀を地面へ垂らしながら。



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