第5話「鳥籠の蟲」

【同日 13時55分 渚輪ニュータウン 日々宮通】


アド 「ふっふふー、感染一つで世界は変わったのさ」


アドは教訓を活かし、周囲を警戒しつつ走りながら喋る。


アド 「法も無いし秩序の代理者もいない」

アド 「貨幣機能が停止したのは予想以上に打撃的だったね」

   「インフラの完全停止か……。 電気もガスも水道も、もちろん動いてないんだよな」

アド 「もちのろん! いやぁ、人間がいかに文明に支えられてたか、正直痛感の毎日だぜ」

  「政府の対応は? いや、寧ろWHOとか世界レベルの議題じゃないのか?」

  「救援活動とかだって行われてるはずだ……」

アド 「ヒントあげるよ、少年。この場所ね──『渚輪区』って島なの」

アド 「《新極東政府施政下25区》の特例3区が一つ、太平洋に浮かぶ巨大な人工島」

アド 「しかもあたしらが今いる場所は人工島の更に北のちっこい出島」

アド 「『渚輪ニュータウン』さ」

   「……封鎖か?」

アド 「だと信じてる」

  「信じてる? 変な言い回しだな」

アド 「だって、封鎖なら少なくとも」

アド 「世界は、『渚輪ニュータウン』の外は、無事だって証拠だからさ」

  「……総括すると。つまり、」

  「情報さえまともに無く、全て憶測で行動せざるを得えないってことか」

アド 「ほっほう。頭の回転が速いよ、少年くん」

ひさぎ 「止まって──」

アド 「ん、どしたんヒサギン」

ひさぎ 「エスカレーターの裏にゾンビが隠れてる」

ゾンビ 「グゥゥングゥゥン」

アド 「迂回する?」

ひさぎ 「いい。てか遠回りめんどいし、早く帰ってシャワー浴びたいの」

ひさぎ 「あれくらいの数余裕だから」



■■─────────バトル────────■■



アド 「うぇーい、ナイスヒサギン! ほらハイタッチハイタッチ!」

ひさぎ 「……」

アド 「ですよねー、素通りですよねー。知ってるよー」

アド 「ってなわけで少年、ハイタッチハイタッチ!」

   「いや……僕も遠慮しておく」

アド 「ですよねー、知ってるよー」

樽神名は死んだ魚のような目で虚空を眺めた。

頑張ってもいない僕が、ハイタッチするのは憚られただけだとは言わない。

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