第3話「渚なき輪の島」


【6月6日 13時20分 渚輪ニュータウン 日々宮通】


アド 「ふむ、なるほどねん。事情は相わかったぜ、ふむふむ」


お姉さんは腕組みながら頷いた。


ひさぎ 「どうでもいいけど。とにかくその貧相なのを早く隠しなさいよ、不愉快」

アド 「あはは、貧相だって少年くん!」


笑い事じゃない。


アド 「とりまあたしの上着貸したあげるから腰に巻いチャイナったら天津飯!」

   「悪い……ありがとう」

アド 「気にするな少年! 後で再利用するからさ!」


何にだろうか。


アド 「改めまして。あたしの名前は樽神名アド。んで、クールなこの娘は来栖崎ひさぎだよ」

ひさぎ 「勝手に紹介しないでよ」

アド 「まぁまぁヒサギン、自己紹介はコミュニケイションの基礎でして」

ひさぎ 「こいつが、私の名前知って、何の得があるの? 鬼に金棒よ」

  「……。……豚に真珠じゃなくてか?」

ひさぎ 「……。……鬼に金棒であってるし。正解だし。 マジこいつ意味不明」

アド 「あはは……ま、まぁ少年。 行く宛がないならあたしらついてきな!」

アド 「君をあたしらのユートピアに連れてってあげるぜぃ!」

ゾンビ 「ウゴォォ!」

  「うぁ?!」

アド 「っと、ゾンビちゃんたちがムラムラ笑がって来たぜ」

ひさぎ 「わらわら群がって、でしょ」

アド 「意趣返しかなヒサギン! けどどっちも正解な気がするけどねッ!」



■■─────────バトル────────■■



ひさぎ 「だっさ。 男のくせに逃げるだけかよ」


少女は冷め切った瞳で僕を見下し、戦闘で乱れたマフラーを直した。


アド 「まぁまぁ、記憶喪失でいきなりゾンビっちに襲われてるんだし」

ひさぎ 「だから?」

アド 「あたしらだって最初は逃げ惑うだけだっただべさ?」

ひさぎ 「逃げ惑うだけ? 必死に戦ったから、今も生きてるんでしょ」

アド 「あはは手厳しいなぁ……。 まぁ、少年くんも気にしちゃダメだぜ!」

  「……すまない」

アド 「ささ、それより我らがユートピアまで急ごうず。 歩けるかい少年」

  「……ああ。歩くくらいなら問題ないよ」

アド 「十全だね。説明なら、歩きながらで充分さ」

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