第9話 ドライブ

「のりえさん、実は僕、山梨に別荘持ってて・・・一緒に行きませんか?」

 水島さんが唐突に切り出した。

「え?」

 別荘持ってるですって?私は色めき立った。そんなお金持ちだったなんて・・・。もしかして、資産家の息子なんだろうか。

「すごいですね。別荘って、どこにあるんですか?」

「山梨の北杜市です」

「私、山梨って行ったことないんです」

「きれいですよ。行きませんか。旅費は出しますから」

「いえ。そんな・・・」

「僕の自家用車で行きましょう」

 え、車も持ってるんだ。知らなかった。マンションの近くで駐車場を借りてるんだ。駐車場代は20,000円くらいだろうか。車の維持費は軽自動車でも月50,000円くらいだろうか。マンションをもう一部屋借りられるくらいだ。経費で落とせるから車を持ってるんだろうか。そうだとしても、やっぱり自営業っていなと思った。私は何よりも仕事をやめたくて仕方がなかった。

「わかりました。行きます」

 婚活で出会った人たちがちょうど途切れた頃だった。私は水島さんと一夜を共にすることを決めた。

 

 私は約束の日にマンションの前で待っていた。金曜日の夜8時だった。彼が運転していたのは、アウディだった。それに、夜見ると、昼ほど不細工ではなかった。私は初めてアウディに乗った。というか、それまで外車に乗ったことがなかった。途中、ファミレスによって2人で夕飯を軽く食べた。彼の目は嬉しそうに輝いていた。私なんかと出かけるのに、どうしてそんなに期待してくれているんだろう。奇妙だった。


 車を運転しながら、彼は音楽をかけていた。ジャズのような心地のいい曲だった。私は音楽に詳しくない。それが、好みでない音楽だとちょっとがっかりしてしまっただろう。ジャズはいいなと私でも思った。

「いい曲ですね」

「ジャズが好きで・・・こうやってドライブしながら聞くとストレス発散できるので」

「ライターもストレスたまりますか?」

 水島さんはライターが時間に追われて、クライアントからの要求も細かくて、大変だということを話し始めた。でも、平日働いて、私は疲れていた。


「眠ってもいいですよ。僕運転好きなんで」

「いいえ。目が冴えちゃって」

 しかし、私は眠くてたまらなかった。気を遣って起きていようと思っても、どうしても睡魔に襲われて、寝落ちしてしまった。よく知らない相手とドライブ自体怖いのに、寝てしまうなんて不覚だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る