第6話 夕飯

 水島さんは約束通り、夕飯に誘ってくれた。駅からマンションまでの帰り道にあるおしゃれなレストランだ。昼からランチ営業をしているけど、夜は食事しながらお酒を飲むようなところだ。他のテーブルを見ると、カップルか女性の友達同士が多い。いいなぁと思う。好きな人と一緒だったらもっと楽しいだろう。


 私はあまりお酒が強くないから、食事だけにした。飲み物はフルーツジュース。一杯580円。お金がもったいないなと思う。580円あればお弁当を1個買えるのに、外食だとこのくらいのお金を何気なく出してしまう。社員ならともかく、私は派遣なのだ。婚活をしてると、おごってくれる男性が多い。でも、私の場合は、1回目に喫茶店などで待ち合わせて、喋っておしまいのパターンばかりだ。相手も悪いなと思うのか出してくれる。


 水島さんは2回目に会った時以降も、ずっとおごってくれる。この人で妥協しなくてはいけないのか。やはり違和感がぬぐえない。見た目がダメでも、人柄がよかったら自分を納得させることもできるだろう。しかし、この人の場合はいい人の仮面をかぶっているだけのような気がする。


「斬島さんは実家はどちらですか?」

「ああ、私は北陸です。富山県」

「へー。あちらなんですか。訛りが全然ないから気が付きませんでした。」

「あ、そうですか。ならよかった」

「富山県って呉東ごとう呉西ごせいだと全然県民性が異なるんですよね」

「よく知ってますね!」

「やっぱりそうなんですか?」

「よく言いますけどね。私、呉西の人がけっこう苦手で・・・関西っぽいというか。東京の方が馴染みやすくて」

「ああ。そうですか。大学は富山大学でしたっけ?」

「はい」

「漫画家の都留 泰作さんが助教をやっていたんですよね」

「よく知ってますね」と言っても私はその方をよく知らないのだが。

「ファンなんで・・・会ったことありますか?」

「いいえ。ないです」

「講義を受けられた学生はラッキーですよね」

「ええ・・・」

 さすがライターだけあって、色々、知ってる人なんだなと感心する。それからも、地元民より詳しいんじゃないかと思うほど、富山の話をずっとしていた。私は地元が嫌いだから、あまり楽しくはなかったが・・・。それにしても、こういう人といると、自分も自然と何かを学べる気がする。何かを学んだとしてそれをどう生かすかはわからない。私はただの派遣だからだ。


 顔がもうちょっと・・・そして、身長があと5cmあればと残念に思う。私たちは2時間くらいお店にいて、並んで歩きながらマンションに帰った。私は3階、彼は4階。私が先に降りる。付いて来たらどうしよう・・・私は緊張した。生理的に無理だ。部屋も片付けてないし。

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