第5話 電話
水島さんは私のことをどう思ってるんだろう。
二度目に会って以降は、毎晩電話が掛かって来るようになった。夜9時頃、電話が掛かって来る。電話で話す時の声は落ち着いていて、イケボだった。好きになってしまいそうになるが、あの顔を思い浮かべて思いとどまる。
「いつも、何時くらいに戻るんですか?」と水島さんが尋ねる。
家の前で待たれていたら怖いなと思ったが、正直に答えることにした。
「大体、7時くらいです」
「仕事は定時で帰れるんですか?」
「はい」
「平日の夜、一緒に外で夕飯を食べませんか?」
「そうですね」
「ご馳走させてください」
「いえ、そんな・・・」
「フリーランスの経費で落とすんで・・・」
夕飯代が浮くのはすごく助かる。毎月カツカツだからだ。
「すぐ近所に住んでるのに電話で話してるっておかしいですね」
「いいえ。もう、平日は家に帰って寝るだけなので・・・」
私は遠回しに時間がないことを伝えた。でも、誰かからの電話を待ってしまう。一人でいるのがやっぱり寂しい。私は都会で一人ぼっちだ。泣きたいくらい、いつも一人。仕事をやめたら田舎に帰らないといけないが、帰る場所はない。居場所は地球上にどこにもないのだ。
「のりえさんは彼氏いるんですか?」
「はい。一応・・・でも、遠距離で」
私はとっさに嘘をついた。少し間があった。相手が気を悪くしているのがわかる。彼氏がいるくせに黙っていやがったと思っているだろう。
「素敵だから、当然ですよね。僕、勘違いしちゃって」
「すみません」
私が素敵なわけない。水島さんも絶対そう思ってない。なぜかそれがわかる。私のことを気に入ってくれる人もたまにはいるけど、そういう人は表情でわかる。もっとにやけた顔をしているものだ。水島さんは私のことをそれほど好きじゃないけど、その振りをしているだけなんだ。体目当てというのでもない、何かの裏を感じる。
宗教。マルチ商法。結婚詐欺。きっと何かしらの目的があって近付いて来ているんだ。どうしても、そんな気がして仕方がなかった。
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