第4話 印象

 私はただの派遣だけど、水島さんはうまく話を引き出してくれた。お陰で思ったより話が途切れなくて、2時間があっという間に経った。でも、顔は見られなかった。生理的に受け付けないのは変わらない。


 フリーライターってどのくらいの収入があるんだろう。ずっと疑問だった。水島さんはお金がなさそうには見えないけど、あのマンションに住んでいるくらいだから、もしかしたら自分と同じくらいしかないのかもしれない。私の年収は300万円。ネットで調べたら大多数のフリーライターは、派遣社員並みの年収らしい。それでも、自由を取るという生き方は素敵だ。私の今の勤務先は大手鉄鋼メーカー。男性が多いかと思ったけど、男尊女卑の会社で、男性社員はエリート風を吹かせている。苦手なタイプの人たちだった。


 目の前の水島さんは話しやすい感じがしたが、自分はちょっと無理だなと思う。生理的に無理だ。


「これから、ショッピングセンター行きませんか?」

「え?」

 私はびっくりした。出会ったばかりの人と、ショッピングセンターに一緒に行って何をするんだろう。

「今日、元サッカー選手の〇〇が来るんですよ」

「え!あんな有名な人が?」

「トークイベントをやるんです。どうですか?」

「じゃあ、せっかくなんで」


 その人は元日本代表の人だった。サッカーは好きじゃないけど、テレビで時々見ていた。そんな耳寄りな情報を教えてくれた水島さんに感謝した。


 私は水島さんとバスでショッピングセンターに向かった。トークイベントを見て、一緒に店を見ていたら、私が買おうとしていた物を買ってくれた。そして、夕飯はフードコートでうどんをおごってもらった。丸一日一緒に過ごしてしまった。こんな顔じゃなかったら・・・。どうしても、顔が受け付けない。脂ぎった顔。えらの張った顔と小さな目。私は面食いじゃないけど苦手だった。


「斬島さん。来週、〇〇の美術展に行くんですけど、どうですか?」

「あ、それ見たかったんですよ」

 ただの友達だったらいいかな・・・。私は断りづらくて一緒に行くことにした。美術展に行きたいと思っても、一人で行くしかなかったから、もう、慣れていた。でも、誰かが一緒だと寂しくない気がする。そうなんだ。私は本当はすごく寂しいんだ。

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