第3話 初対面
私はウキウキしながら当日を待った。マンションのエントランスを出た所で待ち合わせすることになっていた。マンションと言っても築30年以上経っていて古い。決め手はただ家賃が安いからだった。大家さんが管理会社をやっていて、家賃収入で暮らしているような感じだった。親戚もいない東京で頼りにさせていただいている。
私はその日、婚活用のワンピースを着た。知的で清潔感があるように見せるワイシャツのワンピース。10分以上かけてアイロンを丁寧にかけた。メイクと髪で30分。前日にYouTubeのメイク動画で研究した。今までより気合が入っている。同じマンションに住んでいて一目ぼれされるなんて、まるでドラマみたいだ。二人の部屋を行き来する生活がこれから始まるのかもしれない。一緒に夕飯を作ったり、甘い生活が待っている気がした。
私は何度も深呼吸をして部屋を出た。
マンションの前には、小柄で頭の大きな男性が立っていた。写真は、加工していたのだと思う。顔は毛穴に汚れが詰まっている感じで、清潔感がなく、知的というより、オタクっぽい人だった。しかも、タバコ臭い。年齢は確かに同年代だけど、女性が10人いたら10人が断るような人だった。声だけは渋いというかイケボだった。ちょっと電話で話したけど、その時はまだ夢中になっていた。
この人とお茶するのか・・・。
私は取り敢えず目を合わせないようにした。
同じマンション。これからエレベーターで顔を会わせることもあるだろう。
「僕は中央大学を卒業して、大手旅行会社の〇〇に勤めてたんです。でも、物書きになるのを諦められなくて、副業でウェブに記事を書いていて、そっちの方が充実してて楽しくなっちゃって、フリーライターになってもう5年です」
思いがけず有名大学の名前が出て来た。そして、キラキラした人気企業の正社員。その地位をあっさりと捨てて、夢に生きる正直さと思い切りの良さ。羨ましかった。別に友達だったらいいんだけど、彼氏はちょっと。私はただの派遣社員で私と友達になりたがる男の人なんかいない。だから、ちゃんと断る方がいいだろう。
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