第3話 藁にもすがる思い
病室を出ると四人の高校生に取り囲まれた。
「
な、なんだ。ちょっとツラ貸しなって
あたしたちは病院を出て真正面にある公園のあづまやに座った。ここでもなぜか颯太くんだけが離れてベンチに座っている。
もう公園に人影は少ないが病院の正面だし、歩道には人通りも多いから私刑はなさそうだ。
「初めて会った人にこんなことを相談するのもおかしいんですけど、己子と意気投合されてるみたいだから。実は僕たち藁にもすがる思いなんです」
はぁ? なにを相談するのか知らんが、人に頼み事するのに藁にもすがるは失礼だろ。事と次第によっちゃ怒るからね、お姉さん。いや、お姉さんでもないのか、えーと…どうでもいいわ。
「己子はもうすぐアメリカに行くんです。お父さんの事業の関係らしくて、己子をひとり日本に残していけないからって」
「えー、そうなんだ。己子ちゃんは? 行きたくないとか? お母さんと残るとかできないのかな」
「両親は小っちゃい時に離婚しているみたいで。兄弟もいないし。己子は諦めてるみたい」
「そう」
「それは仕方がないとして、でも己子には好きな人がいるんです。その想いをお互いに伝えないまま行くって言うから」
「せめて想いを伝えてから行けと。キミたち結構お節介なのね」
「わかってます。大きなお世話かもしれないけど、でも両想いのはずなのに。お互いの想いが伝わればインターネットだって今はあるし、遠距離恋愛できるかもしれないじゃないですか」
「両想いなの?」
「絶対」
「己子は足のことを気にしてるんです。迷惑かけたくないって。絶対そんなことないよって言っても、迷惑かけてるかもしれないって思い悩むのもイヤだって」
「…うん。それは己子ちゃんじゃないとわからない気持ちね。相手の男の子はどう思ってんだろ?」
「颯太、お前どう思ってんだよ」
突然、颯太くんに話が振られた。え? 己子ちゃんが好きな人って颯太くん?
「オレは迷惑だとも親切をしてるとも思ってないよ。例えばエレベーターに乗って
なるほど。颯太くん、すごいな。勉強になります。でも敢えて
「キミは己子ちゃんが好きなんでしょ。なんで告白しないの?」
「好きだけど…違い過ぎるから」
「なにが?」
「己子は昔の華族の家柄なんだ。子爵って言ったかな。お父さんも実業家でおっきな会社をいくつも持ってて。けどオレんちはオヤジもいなくて、母さんのパートとオレのバイトでやっと喰ってるド貧乏なんだ」
――華族の家柄って…この令和の時代に、気になる?
「だから?」
「釣り合わねぇじゃん。暮らしてる環境が違い過ぎて価値観とか考え方とか違うだろうし。付き合ったって絶対合わねぇよ」
颯太くんはそこまで言うと黙って下を向いた。
まぁ彼がそう言うのもわからないではない。が、絶対って言うのが気に食わない。想いを伝え合ってもいないのに絶対はないだろう。おそらく互いに相手を思い遣って、苦しい思いになるかもしれない事態を未然に回避しよう、との配慮でもあろうがまだ高校生なのに老成し過ぎじゃない?
「もう僕らが何を言っても己子も颯太もダメなんです。障がいのことも家柄のことも気にしてるのは本人たちだけで、気持ちがすれ違ってるだけだと思うんです。なんか勿体ないって言うか」
それで突然現れたあたしに藁をもすがる思いで縁結びをさせようと。まだ関係が希薄なあたしなら、多少無茶なことしても許されるだろうと。そういうことか?
――さて。
この相談、首を突っ込むべきか、否か。
(つづく)
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