テンプレ的な騒ぎ
ウィアさんたちに教会へ行くことを告げると、お礼、という名目でなぜか金銭をもらった。
さすがに宿に滞在させてもらっているというのに、もらうのは気が引けたのだが、どうしてもというので受け取ることに。
どのみち、金がないのは事実だしな。
そんなことがありつつ、俺たちは教会へ。
「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょうか」
教会に入ると、二十代前半くらいの綺麗な女性がおり、その女性はシスター服を着ていた。
「鑑定の石板を使いたいのだけれど、大丈夫かしら?」
「はい、問題ありません。三名様でよろしいでしょうか?」
「ええ」
「わかりました。それでは、こちらへどうぞ」
シスターに案内され、俺たちは石板の前へ。
見た感じ、分厚い石板だ。
その表面には、手を置く手形の窪みや、魔方陣、他には文字なんかが書かれている。
どうやら、これに手を置いて使うみたいだが……。
「それでは、どなたから使用しますか?」
「じゃあ、僕から行きましょう」
シスターの問いに対し、刃が名乗り出る。
傍から見れば、安全性の確認を、ってところだろうが、こいつはバカだ。
おそらく、自分が真っ先に確認したいから、なんて理由だろうな。
「それでは、そちらに、手を置いてください。目の前に、文字が浮かび上がります」
「わかりました」
そう言って、刃は石板に手を置いた。
すると、宙に文字が浮かび上がる。
そこには、
【ジン・イスルギ 男 二十二歳 恩恵:【執事】 ランク:A 効果:
という表記が。
…………恩恵って、職業名なのか?
いやしかしこれはどうなんだ?
テオの両親から聞いた、『転生者が持つ恩恵は必ずA以上』は本当らしいんだが……。
こんな名前の恩恵がAて。
さすがに、どうなんだ? と思いつつ、シスターに目を向けると、
「……」
あっけにとられていた。
……そういや、こっちの世界で恩恵を持っている奴のほとんどは、E~Cって聞いたな。
B以上はあまりいないとか。
……なるほど。こうなるのも納得か。
ってか、銃火器作れんのかよ。
「では、次は私が」
刃に続き、今度は瑠璃が石板を使用することに。
刃と同じように、石板に手を置くと、
【ルリ・ハナミヤ 女 二十一歳 恩恵:【メイド】 ランク:A 効果:
……いや、こっちの方が、ヤバくね?
どう見てもこれ、刃よりもとんでもない効果になってないか?
あと、暗器生成ってなんだ!?
暗殺道具作れんの? 瑠璃。
怖すぎだろ!
「……( ゚д゚)」
あ、シスターがポカーンとしている!
ま、まあ、Aランクが続けて、ってのもあれだもんな……。
……よし、最後は俺か。
「では、私も」
そう言って、俺は石板に手を置こうとした時、
「……はっ! い、いけませんお嬢様! この場でお嬢様が鑑定なさるのは――」
と瑠璃が何か忠告をしようとした。
が、時すでに遅し。俺は石板に手を置いていた。
そして、二人の時と同じように文章が表示され、そこには、
【アリシア・ローナイト 女 十七歳 恩恵:【お嬢様】 ランク:S 効果:
こう出た。
……いや、うん。
なんというかさ…………微妙じゃね?
これで、Sなのか?
いや、確かにこれは対人系……それも、交渉やリーダー的な役職に向いているのかもしれないが……それだけて。
ってか、
特殊な状況ってのはマジでなんだ?
わからねぇ……。
そして、身体能力向上(特定武器種装備時)ってのも謎すぎる。
特定武器種ってことは、この恩恵に合った武器があるってことだろうが……お嬢様っぽい武器って何なんだよ、実際。
あれか、扇とか?
……絵面地味!
この世界じゃありえないが、仮に魔王と相対したときに、武器が扇ってことだろ?
……シュールだわ。
なんというか、これでSってのも、謎じゃね? そもそも、碌なもんがねえんだけど。
あいつ、これでもし、俺が一人だけで転生とかだったらどんな生活させるつもりだったんだよ。いやマジで。
ってか、俺の名前、瑠璃と刃が考えたものになってるんだが。
あれ、世界に認知されたのか……。
「……あ、あぁ、あわあわわわわわ……!」
俺が心の中で心底がっかりしていると、俺のすぐ傍から謎の声が聞こえてきた。
ちらっとそっちを見やれば、口をパクパクさせて驚愕しまくっているシスターの姿が。
そして、次の瞬間、
「だ、だだ、だだだだ……代行者様! 降臨ーーーーーーーーーっっっ!」
「「「!?」」」
突然『代行者様降臨』とか叫びだし、俺たち三人は一斉にびくっとした。
な、なんだなんだ!?
俺たちがシスターの謎発言に困惑していると、不意に教会内にドタドタ……! という足音が聞こえてきて……って、なんか音多くね!?
『『『代行者様が現れたって!?』』』
と、いきなり石板があるこの広間へ十数人規模のシスターたちが入ってきた。
は、え? マジでどういう状況!?
「シスターカリナ、代行者様はどこに!?」
「そ、そちらの銀髪のお方が……!」
「あ、ああ、あなた!」
「は、はいっ?」
「お、お名前、お名前を聞かせてください!」
ものすごい勢いで入ってきたシスターたちのうちの一人(三十代くらいの美女)が、なぜか慌てたような様子で俺の名前を尋ねてきた。
周りを見れば、他のシスターたちも興味津々と言った様子でこっちを凝視している。
……これは、あれか? 名前を言わないと色々とめんどい、的な。
だろうなぁ……。
まあ、減るもんじゃないし、いいか。
「アリシア・ローナイト、と申します」
と、俺が名前を名乗ると、どういうわけか、体が自然な動きでカーテシーをした。
……これ、あいつの呪いが原因、だよな?
結構、その……恥ずかしいな、これ。
『『『アリシア様!』』』
……様?
「え、あ、あの……様とは一体……? そもそも、私はなぜ、皆様に囲まれているのでしょうか……?」
いきなり様付けされて困惑。
しかも、シスターたちは揃って俺の前に跪いていた。
……なんだ、このいたたまれない気持ちは。
意味もなく跪かれるのって、気分がよくないな……。
俺、ドSってわけじゃないし。
「それは、アリシア様がクリアナリア様の加護をお持ちだからです」
「……この加護を持っているから?」
「はい」
「で、でも、この世界にはたしか、クリアナリア様以外にも神様がいる、のよね?」
「いますね。しかし、この世界において、クリアナリア様が最高神なのです」
…………マジで?
あいつ、何気にトップなの?
あんなふざけた奴が?
俺はてっきり、よくても上から二番目の神だとばかり……。
……そういや、あいつを主神として信仰している宗教、クリアナ教の総本山的国があったな……よくよく考えてみれば、あいつがこの世界で最も偉い神だってことは、すぐにわかるってわけか。
俺、バカじゃん。
……あぁ、そうか。
だから俺が鑑定する直前、瑠璃が制止しようとしていたのか。
理解したわー……。
「で、ですが、私以外にはいないのですか?」
「いません。そもそも、神の加護を受ける、という事自体が稀であり、その人物はとても貴重なのです」
「……つまり、一番位の低い神の加護を受けるだけでも」
「教会側、もしくはクリアナ皇国が引き入れますね。もちろん、束縛等はありませんし、何不自由ない生活が約束されています。ですので――」
「待ってください」
俺はシスターが口にしようとした言葉を遮った。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、今のままだと、十中八九『我が教会、もしくは皇国に来ませんか? かなりの高待遇をお約束します』のようなことを言うつもりだったのではないかしら?」
「よくわかりましたね。はい、ですので――」
「言っておきますけど、私は行く気はないですよ」
俺はシスターの提案をバッサリ切り捨てた。
俺の答えを聞いていたシスターたちは、にわかにざわつき、瑠璃と刃の二人はうんうんと頷いていた。
まあ、二人は色々と知ってるからな。
「な、なぜですか!? 一生不自由ない、幸せな日々を送れるのですよ!?」
「……今世の私には、不自由のない暮らしはいりません。私が今求めているのは、不自由な暮らしです」
「どうして……」
「私にとって、不自由のない暮らしというのは、一周回って不自由な物なのです。そこにあるのは、周囲からの施しや、理想的すぎる環境。たしかに、それを悪いとは言いません」
「それなら……」
「私は、不自由こそが、真の自由だと考えるのです」
「……どういう、意味でしょうか?」
「不自由のない暮らし、というのは、自分の力で成し遂げようとする事柄がなくなることだと思うのです。私は、それを経験したい。自分でしたいことをして、困難という壁にぶつかり、それを超えていくような人生にしたいのです。むしろ、それでこそ人の生というものではないでしょうか? ……それにもともと、前の私は不自由がないという不自由によって、つまらない生活を送っていましたので」
「……」
俺の心からの話を聞いたシスターは、やや驚いたような表情を浮かべていた。
あー、これは……通じたのか?
なんて、俺が心配していると、ようやく動き出した。
「か……」
「か?」
「感動いたしました!」
「……はい?」
「なるほど、人生とはつまり、常に困難の連続。どんなに楽に暮らせる状況が目の前にあったとしても、それを捨て、困難という人生の崖に身を落とすことこそ、真なる自由ということなのですね!」
「え? は、はい。そう、ね?」
な、なんか、様子がおかしいんだが……。
すんごい興奮してるんだが。
ってか、他のシスターとか、よくわからないが、なぜか顔を赤くしてやけに熱のこもった視線を俺に向けているような……。
「アリシア様!」
「は、はい?」
「私たちは、アリシア様に仕えたいと思います!」
『『『思います!』』』
「……いえ、え? はい? あの、どういう事、なのかしら?」
「私たちは、加護を持つ者は保護され、不自由なく暮らすことこそ、最高の物であると思っておりましたが、今のアリシア様の言葉を聞いて、目が覚めました。人生とは困難こそが自由なのですね! と。ですので、私たちは是非とも、アリシア様に仕え、その生き方を学びたいと思うのです!」
…………いや、どういうこと? マジで。
なんで、俺が思ったことを口にしただけで、教会のシスターが仕えたいとか言い出すんだよ。
明らかに変だろ。
普通、こんなことにならないだろ。
………………待てよ?
そういえば、俺の恩恵の効果の内二つに、『人気者(恋愛・特殊)』ってのと『カリスマ』ってのがあったな……。
まさかとは思うが、その二つが原因なんじゃ……。
「ひ、一つ、お聞きしてもいいかしら?」
「何なりと」
「そちらの『鑑定の石板』で、恩恵の効果の詳細を知ることはできるのかしら?」
「できますよ。そちらに手を置いていただいて、知りたい項目を頭に思い浮かべれば、そこに詳細が出現します」
「なるほど……ありがとうございます」
早速、俺は石板に手を置き、詳細を調べる。
まずは、なんとなく理解できる『カリスマ』の方から。
『カリスマ』……周囲の者からの、所有者に対しての好感度が上がりやすくなり、同時に信頼を得やすくなる。効果が含まれている恩恵のランクが高ければ高いほど、その分効果が高くなる。
なるほど、まあある意味文字通りの効果だな。
そして、問題の方。
『人気者(恋愛・特殊)』……恋愛的な意味で周囲の者から、好意を寄せられやすくなる。男性、女性共に好意を抱かれるが、女性からの好意に比率が寄っている。効果が含まれている恩恵のランクが高ければ高いほど、その分効果が高くなる。
…………あー、なるほど。理解した。
だからこのシスターたちは、俺に対して『仕えたい!』とか言ってきたのか。
だが、果たしてこれだけでそうなるのだろうか?
そう思ったとき、俺はもう一つ思い出していた。
あのクソ女神の加護の効果に『特定の恩恵の超強化』というのがあったな、と。
おそらくだが、その加護の影響で、俺の持つ恩恵の効果全てが従来以上のものになっているんだろう。
つまるところ……俺は同性(女性)からモッテモテになる、というわけだ。
…………しんどくね?
あの野郎、なんてもんを俺に付与してくれたんだよ!
「確認は終わりましたか?」
「えぇ。……それで、ですね。一つ、お願いがあるのですが……構わないかしら?」
「はい、何なりとお申し付けください」
「ありがとうございます。お願いというのはですね……その、私たちのことは他の教会の関係者、並びにクリアナ皇国の人たちには言わないで欲しいのです」
「そのようなことでいいのですか?」
「えぇ。私たちは、平穏な生活を望みます。もう、煌びやかな生活はうんざりなの。だから、それさえ守ってもらえれば構わないわ」
「……わかりました。そもそも、代行者様が現れた以上、私たちが優先すべき相手はクリアナ教のトップではなく、アリシア様ですので。これは、教団の掟にしっかりと書かれていることですので」
「そ、そうなのね」
……もしかして俺、転生初日で配下とか、手に入れちゃってね……?
うっわー……初手から俺の望まない方向に転ぶとか……前途多難すぎるわ……。
俺がちょっと本音を話しただけでこれだもんな。
むしろ、発動条件とあるのか? これ。
アクティブ系なのか、それともパッシブ系なのか……。
まあ、どちらにせよ、今の俺にはほんっっっっっっとうに! いらない効果だ。
「それでは、私たちはそれそろ……あ、そうだったわ。一つお聞きしたいことがあるのだけれど、いいかしら?」
「私たちが答えられる範囲であれば、なんなりと」
「ありがとう。訊きたいことというのは、働き口に関することなの」
「働き口、ですか?」
「えぇ。実は私たち、少々事情があって無一文なの。今は縁があって、安らぎ亭に住まわせてもらうことになっているのだけれど、さすがにずっとその生活をするわけにもいかないわ。だから、金銭を稼ぐ方法があれば教えてほしいのよ」
「なるほど、そうでしたか。そうですね……こちらの街では、近頃人手不足なところもありまして、簡単なところですと、アリシア様方が宿泊なされているという、安らぎ亭で従業員を募集していますね」
「ふむふむ」
なるほど、あそこは人手不足なのか。
たしかに、かなり繁盛していた割には、従業員が少なかったな……。
候補。
「その他ですと、この教会の近くにある『アクアリーフ』という酒場でも従業員募集がありますね」
「なるほど……」
「それ以外となりますと、あとは肉体労働系が多いでしょうか。……あ、そういえば冒険者ギルドで稼ぐ、という方法もありますね」
「それは、依頼をこなす、という意味でしょうか?」
「はい。王都ほどとまではいきませんが、冒険者はそれなりにいます。ですが、最近では近くの森にダンジョンが生成されたり、魔物の発生が増えており、冒険者が外部から多く訪れています。その結果、ギルドの受付が少ないと、ギルド長が嘆いておりました」
「ふむ……」
「大体これくらいですね。どうでしょうか? 目ぼしいお仕事はありましたか?」
「そうね……。とりあえず、一度宿に帰り、考えてみるわ」
俺の今の体で働けそうなのは、その三つか。
まあ、前世では、
『人の上に立つ者として、下の者の働きを知らねばならん』
とかクソ親父が言って、俺はいくつかの店で働いたことがある。
中には、俺に媚び
そういうところは、本当に嬉しかったな。
そのため、一応のスキルは持っているが……問題は、この体でどれだけできるか、ってところだろうな。
宿に帰り、瑠璃たちと相談だな。
「あ、働こうと思った場合は、お店に直接出向けばいいのかしら?」
「はい、それで問題ありません。ですが、一応こちらから助っ人が行くかもしれないと伝えておきましょう。その方が、混乱しないと思いますから」
「それは助かるわ。……さて、今度こそ私たちは行くことにします。色々とありがとうございました」
「いえいえ、代行者様たるアリシア様のお役に立てて何よりでした。何かお困りごとがあれば、遠慮なくどうぞ」
「えぇ。そうさせてもらうわ。それでは」
最後に軽く一礼をして、俺たちは教会を出た。
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