テンプレ的人命救助
というわけで、早速人里目指して移動を開始した俺たち。
幸い、瑠璃と刃が持ち歩いていたものに関しては、転生後も引き継がれていたらしく、しっかりメイド服、執事服の中にあった。
なお、俺の持ち物は0である。理不尽だ。
さて、瑠璃が持ち歩いていたものの中に方位磁石があり、俺たちはとりあえず、北に向かって歩き出した。
なぜ北を選んだか。適当だ。
あとはまあ、明らかに道らしきものが北と南側に伸びてたんで、とりあえず北へ行こうとなった。
そうして、俺たちが軽い雑談をしながら歩いていると、前方に何か見えてきた。
「お嬢」
「えぇ、見えているわ。あれは……人、かしら? でも、それ以外にも何か見えるような……」
私――じゃなかった。俺たちの視線の先には、何か人らしき影と、その人に群がる四足歩行の生き物のような存在がいた。
あれはなんだ?
「――! お嬢様、この先へ行くのは危険であると、私は判断します」
「瑠璃? 一体どうしたの? 何か見えたの?」
「はい。数百メートル先にて、一人の少年が謎の生物に襲われているという状況が発生しております。このまま進むとなりますと、我々も巻き込まれる可能性がございます」
「つまり、その先にいる少年を見捨てて、私たちは迂回した方がいい、と?」
「……私としましては、やはり、お嬢様が一番大事に思っており……」
「私の前だからと言って、取り繕う必要はないわ。あなた自身はどうしたいの?」
「できることならば、救助すべきかと思っております」
「なるほど。刃は?」
「僕も瑠璃さんに同意見ですね。というか、転生直後で体が鈍っているかもしれません。ここは一度、体の動きに支障がないか調べるべきですね」
「……ふ~ん? 本音は?」
「是非とも突貫して、力を振るいたい! こっちに来てからというもの、どうにも力がみなぎってる感じがして、今すぐ暴れたいです!」
「はぁ……本当にあなたは、クールで知的な外見に似合わず、脳みそが筋肉よね」
そんなことだろうと思ったわ。
こいつのことだから、俺自身も感じている、謎の力を使いたくてしょうがないんだろう。
「いやぁ、それほどでも」
「褒めてないわ」
あれを誉め言葉として受け取れるこいつは、やっぱバカだわ。
「……ともあれ、命令します。瑠璃、刃、今すぐ前方の少年を助けに行きなさい」
「それはもちろん従いますが……お嬢様一人は危険だと思います」
「大丈夫よ。見たところ、かなり開けた場所のようだし……それに、もし危なくなったら私は大声を出すわ。そうすれば、二人とも気づくでしょう?」
「いえ、気づきはしますが、それはどうかと……」
「……なんて、冗談よ。さすがに、たった一人でそれは危険なのは承知よ。とりあえず、瑠璃。あなたはここに残って護衛。刃は急いであの少年の救助。数が多いけれど、できる?」
「お任せを! 一瞬で血の海を作りますよ!」
「血の海はトラウマものだからやらなくてよろしい。……それじゃあ、行って!」
「はっ!」
俺が命令した直後、刃はものすごいスピードで走り出すと、そのまま少年がいる場所まで突っ込んでいった。
「……瑠璃。刃は、あんなに速かったかしら?」
前世では見たことがないスピードに、俺は茫然となりなら、瑠璃に声をかけていた。
「いえ、少なくとも土煙が出るほどではなかったかと。ですが、この世界は異世界。マンガやライトノベルでよくあるような、剣と魔法が一般的に認知されている、そんな異世界なのではないかと思います」
「……なるほど。そういえば、あの女神は『恩恵』とか言っていたわね。もしかして、それが原因なのかしら?」
「その可能性は高いかと」
ふむ……。
正直、来たばかりだから、わからないことだらけなんだよなぁ……。
とりあえず、今刃に助けに行かせているあの少年が、善良な性格だと助かるな。
そうすれば、お礼として情報を得られるかもしれない。
……そういや俺たち、金とかはどうなってんだ?
うむぅ……まあ、今はとりあえず、目の前のこと優先、だな。
「お嬢様」
「ん、どうしたの? 瑠璃」
「どうや、刃の方は終わったようです」
「え、もう?」
「はい。あちらをご覧ください」
そう言って、瑠璃が示す先には、謎の生物が辺り一帯に倒れており、その中心には刃と少年がいた。
あのバカ、何か変なことをしでかしてなきゃいいが……。
「とりあえず、我々も向かいましょう」
「そうね」
ほぼ一瞬の考え事のせいで、刃の戦闘風景を見逃したのはちょっと痛かったなぁ……。
「あ、お嬢、瑠璃さん。見ての通り、救助成功です」
俺たちは刃のところへ歩く。
刃は近づいてくる俺と瑠璃の存在に気付くと、やたらとすっきりしたような表情だった。
「刃、この少年を怖がらせるようなことはしてないわね?」
「当然です。初めての異世界での戦闘。まさに快感でしたが、こちらの少年はしっかりと守りました」
「そう。ご苦労様」
ちらりと少年の方を見れば、突然何が起こったのかわからず、座り込んで茫然と俺たちのやり取りを見ていた。
が、俺の視線に気づいたのか、少年はハッとなって立ち上がる。
「あ、え、えっと、た、助けてくれた、んですか……?」
少年は、俺たちが助けてくれた、と理解したらしく、恐る恐るといった様子でそう尋ねてきた。
これはもしや、怯えられているのか?
まあ、見ず知らずの男に助けられただけでなく、いきなり知らない年上の女性が出てきたんじゃ、そうなるか。
少年の見た目は、大体十二歳くらいで、純朴そうな雰囲気だ。
「えぇ。つい先ほど、こちらであなたが襲われているのを見まして、そちらの刃にあなたを助けに行くよう命じたのです。お怪我はないかしら?」
ぐぅ……なんだろうか、この謎の羞恥心は。
こんな謎の状態じゃなければ、
『おう、大丈夫か? 少年!』
くらい、軽い感じで言えたんだが……。
どういうわけか、こんな口調で変換されて出ちまう。
なんなんだろうな、これ。
「う、うん、大丈夫です。えと、お姉ちゃんたちは……?」
お、お姉ちゃん……。
いや、外見的にはお姉ちゃんだけども、やっぱりなんか嫌だ。
むず痒いし、違和感バリバリだ。
「あら、そういえば名乗っていなかったわね。私は、アリシア・ローナイト。こちらのメイドは瑠璃。そして、そちらの執事が刃よ。あなたのお名前は?」
手身近に紹介すると、二人は軽くお辞儀をする。
そして、軽い自己紹介を終えると、俺少年に名前を尋ねた。
「えと、テオ・ユリウムです」
「テオね。テオ、突然なのだけれど、一つお願いしたいことがあるの。いいかしら?」
「うん、アリシアお姉ちゃんは命の恩人だもん! なんでも言って!」
うっ、な、なんて純粋でまっすぐな瞳……!
しかも、どこかきらきらとした何かが混じっているところを見るに……これは、憧れ的なアレ、か?
こういうのは普通、助けた刃の方に向けそうだが……。
「美少女と、ショタの組み合わせ……素晴らしい……」
「瑠璃?」
「何も言っておりません」
「そう」
なぜだろうか。
なんか、瑠璃の残念な部分が、さっきからちらほらと出ているような気がするんだが……。
ま、まあ、本人が気のせいって言うんなら、気のせいなんだろう。
「さて、お願いだったわね。お願いと言ってもそこまで難しいことではないわ。ここから近い人里の場所を教えてほしいの」
「そんなことでいいの?」
「えぇ。今の私たちが最も欲しいのは、情報だから。……まあ、生憎とお金と住む場所もないから、できることならそちらも何とかしたいところだけれど……とりあえずは、場所だけ教えてもらえると助かるわ」
「うん、わかった! でも、ぼくも家に帰るところだったから、案内してあげる!」
「いいのかしら?」
「もちろん! それに、命の恩人だもん! ぼくの家に寄っていって!」
「それは……お邪魔じゃないかしら?」
「大丈夫! うちのお父さんとお母さん、すっごく優しいから」
「……そう。じゃあ、ありがたく行かせてもらうわ。二人とも、私だけでなく、テオのことも守るように」
「「かしこまりました」」
ここまで好意的に接してくれてるんだ。
守らなきゃな。
それに、このテオの存在は、俺の心に癒しをくれる気がする。
もし、弟がいればこんな感じだったのだろうか。
……なんてな。
「それじゃ、行こ!」
「えぇ」
ともあれ、なんとか情報は手に入れられそうだ。
それからテオに案内されて歩くこと、約十分。
テオが住むという街――『グエントの街』に到着。
見たところ、異世界系作品定番の中世ヨーロッパ風の街並みだ。
とはいえ、全てが石造りというわけではなく、ところどこに木造やら、よくわからない材質の家があるなど、多種多様らしい。
それに、あの街灯……見たところ、ガス灯っぽいが、何か違う気がする。
なんだろうな、あれは。
俺たちは、テオに街を案内されつつ、目的地を目指す。
その途中。
「あら? テオ、あの大きな建物は一体どういう場所なのかしら?」
ふと、俺は前方にあるやけに大きな建物に目が行った。
全体的に真っ白で、どこか神々しさを感じる建物だ。
「あ、あれはね教会だよ!」
「教会?」
「うん。この世界ではね、『クリアナ教』っていう宗教が一般的で、この世界の最高神の、クリアナリア様を信仰してるの!」
「……へぇ~、クリアナリア様の、ね」
あの神、最高神だったのか。
ってか、あんなクソみたいな女神を信仰してるとか、この世界の奴らは正気か?
瑠璃は俺と同じことを思ったらしく、心底嫌そうな表情を浮かべていた。
わかる、わかるぞ、瑠璃。
ちなみに、刃に関しては、
『おー、これが異世界の街並みですか。ふむふむ……お、あそこにあるのはまさか、冒険者ギルド!? 素晴らしい! 後で是非とも、殴り込みに行きましょう!』
とか言っていたが……。
あいつは一体、冒険者ギルドをなんだと思っているんだ。
ヤクザじゃねーんだよなぁ。
「あそこではどのようなことをするのでしょうか? やはり、ミサですか?」
と、何をしているのか気になった瑠璃が、教会で行われていることについてテオに訊いた。
それは俺も気になってたし、グッジョブ瑠璃。
「うんとね、あそこには『鑑定の石板』っていうアーティファクトがあってね、それでその人の持つ恩恵とか、加護なんかを調べられんだよ!」
「……恩恵?」
テオの説明の中にあった恩恵という言葉に、俺は反応した。
何せそれは、あのクソ女神が俺たちに特典として渡した、とか言っていたものだからな。
「あれ? お姉ちゃんたち、恩恵を知らないの?」
少し驚いたような顔を浮かべるテオ。
この場合、見栄を張る奴も多いが……こういうのは、素直に知らないと言っておくのが得策だ。当たり前だが。
「実は、そうなの。私たち、かなり辺境の場所から来たので、常識がわからないの。簡単で構わないから、恩恵や加護について教えてもらえるかしら?」
「うん! でも、その辺はぼくよりも、お父さんとお母さんの方が詳しいから、ぼくの家に行ったら話そ!」
「ありがとう。助かるわ」
とりあえず、これで何とか情報は得られそうだ。
「あ、あそこがぼくの家だよ!」
どうやらテオの家にたどり着いたらしく、前方にある建物を指さすテオ。
そこには、何やら少し大きく、木造の二階建ての建物があった。
入口らしき場所の上に看板があり、そこには、
『安らぎ亭』
と書かれていた。
……って、ん? なんで聞いたこともなく、見たこともない言語を話したり、読めてるんだ? 俺。
これはもしや、異世界系名物、『言語理解』でも持ってるのか?
……この辺りは、瑠璃たちと話すか。
「あそこはもしや、宿屋?」
「うん! うちはね、この街じゃ一番の宿屋なんだー! 料理も美味しいし、ベッドも清潔! だから、この街に来る冒険者の人や商人の人たちはこぞって利用するんだよ!」
「テオの家はすごいのね」
「えへへ。でも、すごいのはお父さんとお母さんだから! ……っとと。早く行こ! お父さんとお母さんに話さないとね!」
「えぇ」
テオに手を引っ張られながら、俺たちは『安らぎ亭』に入った。
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