第2話
一方で、男たちはと言えば、実にお気楽である。
「昇一、休日くらいちょっとは家の事手伝いなさいよ」
「休日くらい、ゆっくり寝かせろよ」
「あんたね、いくら誰でも結婚出来るからって安心してちゃだめだよ。そういうふざけた態度だと、同棲期間中に断られるよ」
「それなら大丈夫。母ちゃんみたいな厳しい人は事前に断るから・・・」と賛成派の藤波昇一は自分勝手なことを言っていた。
「そんなこと言ってたら相手居ないよ。とにかく、早く起きて朝ごはん食べて」
とまくし立てる母の祥子。そこに仲の良い反対派の矢野康太から電話が入る。
「合コンやろうぜ」と、いきなりの康太。
「またやるの?ろくなの居ないよね。もういいよ」
「お前、冷たいな。いくら自分が制度で行くからってそれはないんじゃないの?」
「お前も制度で結婚すればいいじゃんか。これで親も五月蠅くなくなって楽だよ」
「昇一、早く起きなさいって言っているでしょ」と電話の向こうから五月蠅い母親の言葉が聞こえる。
「相変わらず五月蠅いじゃないか?」
「確かに・・・どうして母親ってこうまで五月蠅いんだろうね。一人暮らしのお前が羨ましいわ」
「バカ言うな。一人暮らしは大変だぞ。こうやって、休みの日は早く起きて溜まった洗濯をして朝飯作って掃除して友達に合コンの誘いの電話しなきゃいけないんだからな・・・」と笑いながら答える。
「いや、笑ってる場合じゃない。頼むからさ、合コン出てよ。お前しか頼める奴は居ないんだから」と泣きそうに頼んで来た。
「しょうがないな、分かったよ。でも、今度はかわいい子連れて来いよ」
「合点承知の助」と返事だけは良い康太であった。
その横で
「お前も諦め悪いよね・・・」と仕方ない派の石川洋一が話しかける。昇一、康太、洋一は高校時代からの友達であり、社会人になってからも良く一緒に遊んでいる。
「お前さ、改めて聞くけど何で結婚相手を自分で見つけることに拘ってんの?」
「それはさ、男としての務めだと思うからだよ。家は昔から、自分の嫁さんを自分で見つけることが男子の務めとなっているんだ。じいちゃんがそう言ってたからね」
「そんだけ・・・?」
「いやいや大事でしょ。我が家の家訓。お前んちにそういうの無いの?」
「今どき、そんな家訓とかある家ないんじゃない?」
「そうなんだ。うちにあるからどこでもあると思ってた」
「いや、それは今どき珍しいとても貴重な家だぞ」
人は色んな理由によって行動する。それは実に様々であり時には滑稽に見えるかもしれない。しかし、それはとても大事なことであり、それが人生を決めるのである。
ということで、一人暮らしで忙しい康太の呼びかけに応じた昇一と洋一が合コン場所である個室居酒屋「楽」へと出向いて来る。皆婚法律誕生後に増えたお見合い合コンにテーマを絞った居酒屋である。既に、康太は席についていた。
「来たか。ありがとう。やる気のない割には意外と早かったな」とちゃかす。
「やる気はないけど、先に来て待っているのは大人の常識だろうよ」と洋一。
「かわいい子は来るんだろうな?」と昇一。
「それは着てのお楽しみだね」
「で、どういう相手なんだよ。お前がいくら顔が広いからと言って、コネは使い果たしたんじゃないのか?」と昇一が気にする。
「ネットだよ」
「マジか。そこまで来ちゃったのか?」
「そこまでってどういう意味だよ」
「最後の手段ってことさ」
「これまで、色んな伝手で合コンやってたけど、上手く行かなかったじゃん。それは、来る子たちが誘われた子に気を使ってその気がないのに来たからじゃないのかと思ったわけ。俺は結婚相手を見つけたいからさ。適当に遊ぶ子と出会いたいわけじゃない」
「そうか・・・」と、昇一がうなずく。その時、コンコンとドアを叩く音がした。
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