宇宙/漂流
夜表 計
密室/二重
人間というのは精神的にとても弱い。ストレスがかかると相手を罵ったり、暴力を振るったり、果てには相手を殺してしまう。
この惨状はその結果の表れだ。
最初のきっかけは本当に些細なことだった。1日2回の食事の時、誰かがそっちのスープの方が具が多いぞ、と叫んだ。言われた相手はそんなことはないと努めて冷静に返すが、その態度が気に喰わなかったのだろう。いきなり殴りかかり、その怒りと鬱憤が周囲へと波及していく。
どこにも逃げることができないこの宇宙船の中で殺し合いが始まった。
僕は殺されたくなかったから暗くて誰にも見つからない場所へ隠れた。
耳をふさいで、お互いを罵り合う声を聞かないように
目を瞑って、お互いを傷つけあう暴力を見ないように
そうして目を開けた時には誰もが平等にただの物質となってしまった。
「あぁ、どうしてこんなことになってしまったんだ」
足に力が入らず、膝をつく。血溜まりが波紋を刻みこの食堂で起きた惨劇が頭の中で響くようだ。
「みんなを弔わないと…」
やっと頭が現実を受け入れ始めてきた。このままではみんなの死体が腐り弔うことができなくなってしまう。宇宙ではどんなものも等しく価値がありそれを損なうことは禁じられている。だから、彼らの死体が新鮮なうちに原子分解機にかけなければいけない。
一人ずつ原子分解機の部屋へ運んでいく。そこであることに気づく。人数が合わない。宇宙船の乗組員は24人その内の2組には子供が出来て、全員で27人。なのに死体は26人しかない。1人どこかにいる。もしかしたら唯一の生き残りかもしれない。
僕ははやる気持ちを抑えることができず、部屋から飛び出していた。
船内を隈なく探す。どんなものも見逃さないように細かく見渡す。そしてやっと見つけた。船室の1つ、子供1人がやっと入れる大きさの荷物入れの中に少女が眠っていた。
「よかった。生きてた」
安堵の声が漏れる。少女の頭を撫でると少女はゆっくりと目を覚ました。
「—あれ?お兄ちゃん、誰?」
少女は首を傾げる。
「僕は●●●だよ。覚えてないかな?」
少女は首を振る。
「知らない。パパとママはどこ?」
少女の質問に僕の口が固まる。どう言葉を出せばいいかわからなくなった僕は少女を荷物入れから出してあげると、こっちだよと、それだけしか言葉を出せなかった。
少女の手を取り原子分解機の部屋へ連れていく。その間、通路の血や死体は何なのか、なにがあったのか少女は聞いてきたが、僕には答えられなかった。
原子分解機の部屋に付くと少女はすぐに両親を見つけかけていく。
「パパ!ママ!」
もう冷たくなったその身体を少女は強くゆするが両親が目を開けることはなかった。
「悲しいけど、パパもママも死んでしまったんだ」
「死んでなんかない!パパもママも大丈夫って言ってたもん!」
少女は泣き叫ぶ。その声で起きてくれないかと願っているのか。
僕はどうすることもできず少女が泣き止むのを待った。
「そろそろパパとママにお別れをしよう。このままじゃかわいそうだ」
優しく少女の肩に触れると少女は涙を拭きとり頷く。
少女の両親を原子分解機に入れ、分解を開始する。
中は見えないようになっているが溶液が死体を分解し元素に変えていく。そうして元素タンクに貯蔵され、形成機でどんなものでも作れるようになる。そうやってこの船は長い航海を旅してきた。
「今日はとても大変なことが起きたからもう寝よ?」
少女にそう尋ねると、沈んだ顔で静かに頷くだけで少女は一言もしゃべらなかった。
少女を部屋まで送ったあと、原子分解機の部屋に戻ってきた僕は残った死体も分解して行く。20数人分の分解を行っている中、僕は思う。
もう僕とあの子しかいない。
/もうあと1人だけだ
食料プラントは無事だった。2人分なら問題ない。
/まだまだ足りない
エンジンを直すための部品はどうしよう。
/ないなら増やせばいい
これからももっと頑張ろう。
/次はもっと楽しもう
宇宙/漂流 夜表 計 @ReHUI_1169
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