第37ワン 勇者と戦略
「ぬおおおおおおっっっ」
ライハチは両手で把持した刀を振りかぶる。
「……今だッ」
シノブが叫ぶと、その体は一瞬光を放ち、しのぶ、ジロー、ヴァーバノワーナの三体に分かれた。
「ッ!?」
ライハチ渾身の一撃は空を切る。
「オープンゲット!なんてね……ジロー!」
「わんっ」
ジローはすぐさま跳躍し、聖剣の柄を咥え、落下の勢いに任せてライハチの両腕を肘部分から切断した。甲冑の籠手は刀を把持したまま落下し、音を立てて石畳の地面に転がる。
そして、しのぶは素早くスライディングの要領でライハチの股下をくぐり抜けながら、両手で敵の足首を掴む。
「深淵に眠る
」
しのぶの掌から放たれた冷気により、ライハチの足下が凍り付いたではないか。
「ボクの魔術じゃこの程度が限界だけど、少しでも動きを止められれば充分っ」
腕を無くし、歩みも封じられた甲冑に迫る聖剣の刃。ジローの回転斬りにより、袈裟懸けに両断される鎧。
「よし、もう一度合体だ!」
体勢を立て直したしのぶが持つ鞘にジローが聖剣を収めると、一人と一匹、そして一本は再びシノブレイブの姿に。
「血脈を流るる生命の光、邪を討つ矢とならん……ゲイル・ビーマ!」
シノブの両掌から放たれた光の波動が、ライハチ の鎧を跡形もなく消し去る。
「真っ向勝負をすると思ったか?悪いが俺たちの“強さ”ってのは力だけじゃない。知略も立派な武器だ、悪く思うなよ?」
シノブはライハチの立っていた辺りに向かって言う。既にそこには何も無かった。残されていたのは彼の愛刀・スヱヒロガリと、それを握る左右の籠手のみ。
「ふふっ」
ふと、ガリマーナが笑うのに気付いた。笑いながら部下を焼き殺すサイコな一面を持つ彼女だが、同僚にして幹部のライハチが敗れても尚、笑っていられるとは思えない。そんな違和感に気付いた利那……
「うっ………」
突如、転がっていたライハチの刀が飛来し、シノブの腹部に突き刺さった。
「シノブ!」
「シノブ様!!」
腹を貫かれたまま、シノブは石畳の地面に倒れた。
「あーっはっは!お得意の知略とやらで先を行かれる気分はどうだ?勇者よ!?」
高笑いするガリマーナ。すると、シノブの体は融合を維持できず、強制的にしのぶ、ジロ 一、ヴァーバノワーナの三体に分離する。
「理解が追い付かないという顔をしておるな、童」
横たわるしのぶとジローの元に歩いてきたガリマーナは、転がっていたスヱヒロガリを拾う。
「重いのう……」
などと言いながら、己の身の丈とほぼ変わらぬ長さの刀を拾い上げると、再びしのぶの顔を見下ろす。
「ライハチの武器である刀を封じ、鎧を消し飛ばしたまではよく出来ておった。だが、詰めが甘い」
ガリマーナは一点を指さす。
「っ!」
その先にはライハチの鎧の内、残った左右の籠手。
「ライハチは籠手を切断される直前に、魂の大部分を籠手に集中させた。お主らが消し飛ばしたのは抜け殻も同然の部分よ!」
そして、ライハチは残った籠手だけで刀を投擲し、シノブの腹を貫いたのだった。
「とはいえ、ライハチも喋れぬほど消耗したようだの。此度は引き分けといったところか……ん?」
ガリマーナは転がる聖剣を見て、またもにやりと笑う。
「喜ぶがいいぞライハチ!お主と、この刀の強さは証明されたのだから!!」
ガリマーナは刀を引き摺りながら、ライハチの籠手を拾いに行く。
「くふふ……なかなか面白いものを見せてもろうたぞ。お主らの“心”は折れておらぬなら、 また相見えようぞ」
ガリマーナは元術を唱え、籠手と刀だけになったライハチ、そして彼の愛刀とともに姿を消した。
「しのぶ!ジロー!」
「すぐに手当を!!」
ショースケとナイーダが走ってくるのが見えた。起き上がる力も残されていないしのぶだが、右手を聖剣の元に伸ばす。刃体の感触に違和感を覚え、上体を起こしそれを注視する。
「…そんな……」
「クゥン……」
ジローは倒れたまま、悲しそうに鳴く。
「ヴァーバノワーナ……おまえ、ボク達の身代わりになったのか……?」
聖剣の刃は、真っ二つに折れていた。
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