第36ワン 勇者と攻略法

「しのぶが……成長した!?剣は?ジローは?どがあなっとるんじゃ!?」


「あれはシノブ様とジロー様と聖剣が一つに融合した姿です。先代の勇者様はお一人で完成した勇者でしたが、シノブ様とジロー様は聖剣と一つになることで完全な勇者となるのです」


 ナイーダがショースケに説明する。そして、見目麗しさと妖しさを備えた青年の姿となった勇者の姿を、ライハチは怪訝そうに一替した。


「“聖剣”はどうした」


 ライハチの問いに、シノブは胸部を覆う装飾を叩きながら答える。


「オレ達の体が聖剣そのものさ。犬の闘争心、人の技量、そして聖剣の体を併せ持つのがオレ達の、真の力というわけさ」


 ライハチは愛刀・スヱヒロガリを中段に構えながら、


「ならば貴様一人を斬れば、吾が輩とスヱヒロガリの最強を証明出来るという訳か」


 その柄を握る手に力を込めると、またも闘気のようなものが刃体を覆う。


「我が一撃……受けてみよ!暗黒烈波刃あんこくれっぱじん!!」


 ライハチは、その場で剣を袈裟掛けに振り抜く。空を切った軌道から、斬撃が質量を伴ってシノブの方へと飛んでくるではないか。


「うわっ」


 高速で飛来する攻撃を、顔の前にて交差させた両腕で受け止めるシノブ。その時にこう思った。漫画やアニメでよくある技だ、と。そして、こうも感じた……


「ちゃんと痛いんだな、こういう衝撃波系の技って……」


 びりびりと痺れの残る両手に、その威力を実感する。体が聖剣と一体化した状態だからこそ、この程度で済んではいるが、素の状態であれば体中の骨が砕けるほどの衝撃だったであろう。

 ライハチはすぐさま疾駆し、シノブへと接近する。刀の間合いまで近付くと、今度は刺突。

 先ほどしのぶを吹き飛ばした一撃である。シノブはそれを左手で打ち払い、空いている右手でカウンターの抜き手をライハチの左胸に打ち込んだ。


「!!」


 甲冑に穴を開けられると同時に飛び退くライハチ。距離を取り、再び構え直す。


「……解ったぜ、お前の攻略法」


 シノブの言葉に、ライハチは動きを止めた。


「ほう」


「まず、お前の鎧部分は相当硬い物質で出来てはいるみたいだが、その刀に比れば脆い。聖剣の強度を持つ俺たちの攻撃なら、壊す事が出来る……だが」

 シノブはライハチの胸に空いた穴を指さし、更に続ける。


「案の定、鎧の中身は空っぽだった。さっきそこのロリババアが言った様に、お前は鎧に憑依してるオバケみたいだ。って事は、鎧に宿ってる魂を消滅させればいい。違うかい?」


「正解だ。よく見破ったの、わっぱ


 沈黙するライハチに代わって答えたのはロリババアことガリマーナ。


「漫画やアニメじゃよくあるパターンなんだよ。そんでどこかにある核(コア)を叩くと か“鎧に刻んである魔方陣を削り取る”、“術を施した奴を倒す”とかがお決まりの攻略法だ」


 シノブはあらゆる物語で使われた手法を語るが、


「くふふふ……どれもハズレよ。ライハチの鎧には核も契印も無いし、施した術も妾の元から独立しておるので、たとえ妾を葬ったとしても無駄である」


 シノブは奥歯を噛む。


「だが、妾は心が広い。ライハチを破る唯一の方法を教えてやろう」


「ガリマーナ殿!?」


「うははは!よいではないか、ソレを満たす者をお主は待っておったのだろう?」


 ガリマーナは視線をライハチからシノブへと戻す。


「ライハチを倒す唯一の方法…それは、此奴の魂を“満足させる”事よ!」


「なにっ?」


「考えてもみよ。此奴は『強さへの渇望』を原動力に魂だけを顕現させておるだぞ?つまり、此奴は望みが叶うまで消滅する事はない。であれば、刀と心をへし折って、完膚なきまで 敗北を味わわせるしかあるまいて!」


 ガリマーナがにやりと笑った後、ライハチは頷く。


「左様。吾が輩は負けるまで滅さぬ……これ以上言葉は無用だ、聖剣の勇者よ。『強さ』のみでに吾が輩に語るがいい!!」


 ライハチは刀を構え、闘気を刀に宿らせる。


「そうかよ……じゃあ、お望み通り味わわせてやるっ! 俺たちの“強さ”をなあ!!」


 シノブは体中の魔力を全身に漲らせ、体は微細な光を帯びる。


「シノブ様の魔力もライハチの闘気も……恐ろしいほどの高まりです!」


「二人とも、一撃で勝負を決めるつもりじゃぞ!!」


 光の勇者と闇の戦士、異なる力を纏う二人は互いに疾駆する。その一撃に全てを懸けて。

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