第33ワン 勇者と黒騎士

「�̃��(�q���Y�_�C�G�b〜ッッッッ」


 ガリマーナの両掌から放たれた業火により、サキュバスは短い悲鳴とともに灰となった。


「うはははは!よく燃えたじゃあないかえ!」


 部下を焼き殺したガリマーナは笑う。


「……オゲーーっ!」


 目前で繰り広げられた惨殺、蛋白質と脂の焦げる異臭、業火の熱、魔力の余波、あらゆるものがしのぶの感覚を襲うと、しのぶは膝と掌を地に突き、たまらず嘔吐した。ジローはしのぶの身を案じ、高い声でひゅんひゅんと鳴きながら、しのぶの口元に残る吐瀉物ゲロを舐め取る。犬なりの仲間を心配する動きだ。


「なははははっ!この程度でその醜態!!聖剣の勇者といえどやはりわっぱであっ田か!!」


 高笑いするガリマーナに対し、ショースケとナイーダは身構える。


「無理もねえ……それに何じゃ、あの得体の知れん魔力の質と量は!」


「ええ……それに彼女は魔術の詠唱をかなり省略していました…それでこの威力ですから」


 術の骨組みである術式を構築するために唱えるのが詠唱であり、詠唱の長さと術者の魔力に比例して効果は高くなる。

 例えば、ショースケは錬術の詠唱に5・7・5・7・7の字数を用いるが、これは彼の出身国に伝わる「短歌」を応用したものだ。「俳句」という5・7・5の歌もあるが、これでは満足のいく結果が得られないため、彼は前者の字数を用いている。


「タモンのアホタレを倒したと聞いて、どんなもんかと思っておったが、興が醒めた。お主らは妾の敵ですらないわ」


 ガリマーナはしのぶ達に背を向ける。


「だが、“こやつ”はまだお主らに興味がある様だがの」


 と、ガリマーナが指を指した空間に、彼女のいう“こやつ”は突然現れた。


「んなっ!?」


 驚くショースケの目線の先、漆黒の甲冑で全身を包んだ偉丈夫がそこに立っているではないか。


「召喚術!?いえ、ガリマーナには術を発動させた形跡が無い……とすると」


 それは、既にそこに居たのだ。


「……武を極めた者は、気配すら自在に操れると聞きますぞ」


 憲兵隊長は震えながら槍を構える。ガリマーナの魔力がナイーダら術師を怖気立たせる様に、この甲冑姿の者が発する闘気だか覇気だかオーラ的な何らかのものも、戦士達を震え上がらせるのだ。


「……我が名はライハチ。魔王三傑が一人、暗黒剣鬼オスクリダード・デ・ラ・エスパーダなり」


 角の生えた髑髏を象った兜の中から発せられるライハチの声は、地獄の底から響くかの如き。


「聖剣の勇者よ」


 ライハチは左右の腰に差した剣の内、右腰から一振りの剣を抜いた。


(あれは……大華帝国の柳葉刀か?それも結構な業物じゃ)


 ショースケが分析した通り、その武器は東の大国で作られた武器であり、銘を莫邪宝剣モーナパオチェン。1000年近く前に名工が鍛造したとされる剣だった。


「貴公も聖剣も、我が剣にて討たせてもらう!!いざ尋常に勝負せよ!!」


 ライハチは剣の切っ先をしのぶに向けるが、


「このまま戦おうってんなら、断る!」


 地べたに尻を着きながら、しのぶは答える。


「何だと!?」


「考えてもみなよ。大の大人がついさっきまでゲロ吐いてたガキに言う台詞じゃないだろ?武人キャラなら、戦う前に相手も万全な状態にするのがお約束じゃないか。ルビカンテやデュランを見習いなよ」


 しのぶは顔色こそ悪いものの、龍舌に捲し立てる。


「……何を言ってるのかは解らんが、意図は察した。ガリマーナ殿、頼む」


「ほいよ。生命の光、呼び戻さん……ヒレロ!!」


 ガリマーナの放った治癒術により、しのぶとジローの傷と体力が癒えてゆく。


「何じゃ、しのぶの奴……あんな手強そうな奴を相手に要求を飲ますとは」


「あれがシノブ様の一番の武器なんです。敵を煽って自分のペースに持ち込みながら策を練る……「知の勇者」の」


「勇者……そういや敵のあの女も言うとったのう。……後でええ、詳しく説明せえ」


「は、はい……」


 ショースケに睨まれながらナイーダは答え、付け足す。


「……全員生き延びられればの話ですが」

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