第34ワン 勇者と刀

 ガリマーナの癒術を受けたしのぶは、軽く右肩の関節を回す。


「凄いや。疲労感や眠気まで無くなるなんて。ゲームでいうところのHP全回復って、こんな感じなのかな」


「貴公の要求は呑んだぞ。改めて吾が輩と勝負願おう」


 再び剣を構えるライハチ。


「解ったよ。いくぜ、ジロー!」


「わふ!!」


 鞘を盾のように構えるしのぶ、聖剣を咥えるジロー。


「いざ!」


 両手で剣の柄を握るライハチの周りを、紫色の闘気だかオーラめいたものが漂う。そして、その刹那、目にも留まらぬ速さでの刺突がしのぶを襲う。


「うわっ」


 タタミ縦3畳ほどは離れていたはずのライハチは常人による一歩くらいの間隔で、その距離を詰めたのだ。

 鞘は傷一つ付かないものの、その突進力に力負けしたしのぶの体は後方へ大きく吹き飛ぶ。倒壊した露店の残骸にその矮躯が埋まるように着地した。


「むっ!?」


 だが、その隙をジローは見逃さない。体を軸にして聖剣を竹とんぼの羽の如く回転させながら、ライハチの首を落さん勢いで襲いかかる。ジローの技、絶・回天抜剣牙(しのぶ命名)!!


 剣を垂直に構え、聖剣の一撃を受け止めたライハチはすぐさま左手を離すと、その手でジローの尾を根元から掴み、しのぶが倒れる露天跡にブン投げた。


「キャンッ!」


「いてっ!?」


 しのぶとジローの悲鳴を聞いたライハチは、剣を構え直すが……

 ばきん、と音を立てて銘刀・モーナパオチェンの刃体は折れてしまった。


「大華帝国の武器は“龍牙鉄”っちゅう、ぶちくそ硬い金属で出来とるが、そんな剣を折った!なんちゅう強度なんじゃ、あの聖剣とやらは!?」


「何でもオリハルコーンという鉱物で出来てるらしいですよ」


 驚くショースケにナイーダは説明する。


「聖剣ヴァーバノワーナ……100年の時を経ようとその性能は変わらずか……ならば吾が輩も、最高の武器を以て戦わねばなるまい!!」


 ライハチは折れた剣を放り捨てると、腰に差したもう一振りの武器を鞘から抜き放った。


「……ッッ!?」


「あの形状は弥摩刀(やまとう)ですか……ショースケくん、あの刀をご存知なんですか?」


  ナイーダが訪ねるも、ショースケは幽霊やUMAでも見たかの如く、信じられないものを 目の当たりにした表情。


「知っとるも何も、アレは……」


ライハチの構えた刀は罰近くの刃体に刻印が確認できた。それは地球の漢字と同じ書体 で「三島」と彫られているではないか。


「我が愛刀・据飛呂刈スヱヒロガリ!ヴァーバノワーナが“神”により作られし最強の剣ならば、これは“人”の手により作られし最強の刀なり!!」


 ライハチの言葉に、ショースケたまらず口を割って入らせる。


「待てやコラ!!その刀は……ワシの曾オジイが、タツヤ・ミシマが、戦士サワーベの為に鍛えたモンじゃ!!なして、オマエみたいなモンが持っとんのじゃ!!」


「戦士サワーベ……先代の勇者様とともに邪神を討ったという、あの……」


 魔術師シソーヌ、癒術士キップリン、そして戦士サワーベ……アラバイムの住人ならば誰しもが知る、かつて世界を救った英傑の名である。その一人が使った武器を魔王の手下が所持している。その事実は誰にも受け容れがたいものであった。


「そうか……小僧、貴様は達也の曾係か……」


 ライハチはショースケの方へ向き直る。


「友の子孫である貴様の問いには答えよう。この刀は始めから吾が輩のものだ……作り手から、正式に譲り受けたのだからな……」


 続く言葉を、ショースケだけでなく、ナイーダ、しのぶ、憲兵たち…その場にいる人類連 は誰一人信じたくはなかった。


「我が真名は澤部頼八さわべらいはち!!弥摩都の剣士にして、先代勇者ユーキ・イワイの相棒と呼ばれた者だ!!!」

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