第20ワン 勇者と奇跡
ーレ・モンサン平原
「ぐっ……やはりビクともしないっ!」
巨躯の
「タモン様、やはりガキに自力で歩かせるしかありませんぜ」
ゴブリンから提案されたタモンは暫し考えた後、
「やれやれ面倒ですね。おい、誰か
タモンが部下から回復役を受け取った、その時だった。 聖剣の鞘が淡い光を帯びたと思いきや、昼間だというのに陽光よりも眩しく発光したではないか。
「ぐわぁ!」「目が!」「目がー!!」
モンスター達も王国軍も、その場にいた者達は全員目が眩み、一時的に視界を奪われた。
「あのガキッ……まだ策を残していたか!?」
タモンは、ようやく回復し始めた視界でしのぶ達の姿を確認する。 が、いない。朧気な視野のどこにも子供と犬、そして聖剣の姿は無かった。
「ど、どこだ!?どこに消えたっ!」
周囲を見回すタモンとモンスター達。
「……聖なる闘気纏いし
どこからともなく聞こえる呪文ののち、上空から飛来する無数のエネルギー体が矢となり降り注ぐ。そして、それらは全てがタモンとモンスター達の体を刺し貫いた。
「あれは……光の魔術!アラパイムの歴史の中で使えた者は神々以外では先代の勇者だけ。と伝えられているわ!!」
女王が言うと、 シソーヌ王国の者達は光の矢を降らせた天を仰ぐ。そこには空高くから降下してくる人影があった。着地した人物の姿は、しのぶの面影はあるものの顔立ちも体格も、幾分が大人びている。
「シノブ様……?」
そして何より異なるのは、頭部にジローと同じ片方が垂れた犬の耳が、腰の後ろ辺りにはふささとした巻き尾が生えているではないか。
「ナイーダさん、ごめんよ。危ない目に遭わせちゃって」
そう語る声は、しのぶの声を少し低くした声音である。
「あなたは……シノブ様なの?それに、ジロー様と聖剣はどこへ……」
「今は
その服装をよく見れば、鎧のようなものを纏っているが、それは聖剣の柄や靴と同じ色調と意匠をしているのが見て取れる。
「我が名はシノブレイブ!聖剣の力を解放した勇者の真の姿だ!!」
犬の耳と尾を生やした勇者─シノブレイブは声高らかに名乗る。
「シノ……ブレイブ!?」「勇者の真の姿!!?」
ざわめく王国軍。
「いや、勇次郎の方がいいかな?地上最強の生物っぽいし」
と、時折見せるよく解らない言動はまさに、しのぶのソレであった。
「えっと……シノブレイブ様?」
「あ、待って!基本の人格は忍のままだから、これまで通り「シノブ」でいいよ」
と、ナイーダの側に駆け寄るシノブ。ジローの分、年齢が加算されたのか背丈は170センチ近くまで伸びており、目線はナイーダのそれより高くなっていた。
「シノブ様、 こんなに立派になられて……」
今のシノブはこれまでの頼りなさそうな姿の子供とは見違える程であった。ナイーダはしのぶの性別が男女どちらなのかを未だに知らないが、男子三日会わざれば何とやらではないか。
「ナイーダさん、女王様達を安全な所まで下がらせて。 俺たちはもうひと仕事、片付けないといけないから」
シノブは倒れたモンスター達に向き直る。
「立てよタモン!またお得意の死んだフリなんだろう?」
そう言い放つと、体を光の矢に貫かれ、胸に大穴を穿たれたタモンがふらふらと立ち上がる。
「見抜いていましたが……そして、ここで二つ目の命まで失ってしまうとは……」
タモンが先ほど配下のモンスターに用意させた回復薬を自らの傷口に注ぐ。
「俺たちはもう、お前を逃がす気は無いぜ。覚悟しな!」
シノブはタモンに向けて人差し指を向ける。まるで剣の切っ先を向けられているかの如き威圧がタモンを襲う。
「体だけでなく、態度まで一層デカくなりましたか……嘗めるなよ犬人間!!」
タモンは影武者の骸の側にあった愛用の槍を拾うと、シノブに向けて構えた。
「もう、キマイラの姿にはならないのか?そりゃそうだ。デカいだけで無駄に的が目立つんだからな!」
軽口を叩きながらも、シノブは身構える。
「死ねぇぇツ」
タモンの槍がシノブへと襲いかかった。
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