大日本テーマパーク

6 「白」の世界 動く人

「マダ捕マラナイカ」

「ハイ、タダ何所カ負傷シタヨウデシテェ、血痕ノ道筋ガ付イテイタンデスガ」

「ウン、途中カラ消エタ、ト」

　白くて大きいビルディングにて、これまで上がって来ていた情報のほかに本人からも直接報告を聴き取る班長。

「具合悪イコトニィ今日ノ夜カラ雪ニナルヨウデス」

「監視カメラハ」

「特徴ノ一致スル容骨ノ者ハァマダAI解析で挙ガッテマセン。タダァ、街中ヤパークホテルノォ例エバステンドグラス等ニ仕込ンデアルカメラカラァ、既ニ多ク情報ヲ採ッテマス」

「デモ発見デキテナイカ」

「ハイ」

「逃ゲ運ガアルモノダナ」

「面目アリマセンﾝ」

「イイ」

　少しばかり右掌を向け、「昨日ノ御所外テロト併セテ、ドッチ道今ノ追尾体制ハ問題ガアルト判ッテイタ…」

（逃ゲ運トイウノハ容疑者ノ逃走顛末ノコトダケデナク、逃ガス失態ヲ犯シテオキナガラ最モラシイシステム上ノ理由ニカコツケテ時期上手ク取引シ自責ヲ減免サセタ華房（オマエ）ノコトモダガナ）、と内心班長はじっとりした眼差しを持って話していた。

「一人ハ収容出来タハ良イガ」

「高圧電撃ニヨル心室不整脈ハァ周知ノリスクノ一ツデス。ソレニ余人ニ被害ガ及バナイヨウニィ、薬デ対象ヲ手洗イニクギ付ケサセテイル隙ニ屋外誘導ヲ行ッタノデスカラァ。業務ハァ正当デスヨ」

「仕事ヲ責メテルンデハナイ。少々手続キガ面倒ニナッタナ、トイウコトヲ言イタカッタダケ」

「ゴ理解アリガトウゴザイマス。ソレデェ…【テロ】、ト仰イマシタカァ」

「【テロ】、ダ」

「イヨイヨソウシタ段階デアルトォ」

「判断シタヨウダ」

　目つきが細くなりつつ聴き続ける華房。

「ソノ前提デナイト我々ガ一方的に悪者ニ仕立テ上ゲラレ、効果的ニ治安処理出来ナクナル、ト」

「フーン…」

（不存日本人ドモノ“ハンティング”ガ出来ル）、と心の中でほくそ笑む。直ぐに検挙人数とその功績による褒賞の概算を立てた。

「アイツラガ着物ヲ“自由ノ象徴”ニ使ッテ来タノガ辛辣ダナ。自由ヲ奪ウ悪魔ノ下手人ハ日本人ナノダカラ」

「ドウデモ良イデハアリマセンカァ。ソレハアイツラノ仕立テタ“物語”デェ、所詮我々ヲ一方的ニ悪魔化サセルノ為ノ“物語”デス。事実カドウカハ実際ノ所問題デハナイ、トイウ点カラァ幾ラモアイツラヲ攻メラレマス」

「ソノ“物語”ノミームトシテヤッテル事ハ着物ヲ売ル、タダソレダケノ事デコチラハ釣リ出サレテシマッタ。アイツラヲ清廉ナ被害者ニサセテハナラナイ」

　そう慮外者とされてしまった人々を想い精到に、しかし行政職員として沈着な、話し方をする班長。

「我々、皆ニ等シク愛サレル訳ジャアリマセンカラネェ。ワカリマシタ、今後注力シテバンバン検挙シマス」

　そう“被害者扱イナドサレル前ニ問答無用デ一気呵成ニ連行シテヤロウ”という点を想起し、座った目で口角を上げる華房。

「アア、チナミニ」話が終わりそうなのを急いで呼び止めて、「今追ッテル容疑者ゲストノ方ハ解ッテルダロウガ」

「五体満足デ“保護”ォ、デショウ。解ッテマス上ノ意向ハ。前向キニ、努力イタシマスヨォ」

「…」

「デハァマタ会議ニテ。トリアエズ失礼シマス」

「アア、宜シク」

　そう言って一旦解散する二人。互いの目線は、違うところを向いていた。

◇◆◇

「アァ、出タ。檸檬奈（れもな）今イイ？」

「今丁度聴取ガ終ワッテ車デ職場ヘ戻ッテイルトコ。ダカラ余リ時間取レナイヨ？」

　車内で着信を取った檸檬奈は促す。

「解ッタ。マズ件ノ容疑者ニツイテノ情報提供ォアリガトウ」

「アレ、役ニ立ツ？」

「立ツサァ。ヨクゾ専属コンシェルジュデ居テクレタト思ウヨォ。ゴ苦労サマ。奇遇トハ将ニコノコトサァ」

　電話の向こうではどうもうきうきとした声色が漂っている。

「ワタシガ望ンデソウナッタ訳デハナイシ――」

「イイヤ檸檬奈ハ良イ仕事ヲシタヨォ。重要ナノハ、檸檬奈ガドウ思ウカデナク檸檬奈ガ何ヲシタカダ。役立ッタ、トイウ実績ガ大事ナノサ」

　言葉を続けようとして、でも喉で少し言い詰まったところを突いて被さるように喋り掛けられてしまった。ワタシジャ無ク、ワタシノ縁ヤ肩書ヲ愛スル気ガ向イテルノ、という問いは、相手に聴き取れないほのかな溜息に溶けて流れた。

「ソレデネェ、詳シクハ後カラ公式ニ発表サレルダロウケドォ、近々サラニ出世出来ルカモシレナイチャンスガ巡ッテキタンダァ、コレガ二ツ目ノ要件」

「ヘェソウナノ？」

「アァ、コレデヨリ良ク逢台家ヲモット支エラレルダロウヨ」

「……」

「檸檬奈？」

　やはり、家の話。

「…家ノ事ハ…ソノ事ヨリモ、二人シテドウコレカラヲ幸セニ生キテ行クカガ一番デショウ？」

「アァ。ソシテェ、ソノ為ニ由緒アル逢台家ヲ中興サセル事ハァ今後ノ安定ニ深ク関ワルンダカラサ」

「…」

「キャリア積ミノ為ニ現場出向シテル時ィコンナ機会ガ巡ッテ来ルナンテソウソウ無イダロウ？　ツキガマワッテキタ。イイゾー、セワシナクナルダロウケド、コレマデ以上ニヤル気ガ出テキテル」

「ソウ、ナンダ」

「ウン、ソウサ」

「…ソレジャア、頑張ッテネ」

「アリガトウ。 檸檬奈モネ。愛シテルヨ」

「ジャアネ」

　通話が終わった。