第4話 なんで故障修理しなきゃならんのだ!
「なんで俺が故障修理しなきゃならんのだ!」
「メディシ先輩、私風の精霊アイオリンに直接会うの初めてです。」
会話がまったくかみ合っていないが、先日精霊に対する契約の見直しを提言したところ、風の精霊アイオリン側の発信水晶がトラブルになっているから修理に行けと上司のリョウヤクに一方的に指示されて荒野ドリに赴き二人で歩いているのだが。
仕事は一方的に指示されるものだといわれれば。
「メディシ先輩、どうして通行サラマンダーを使わないのですか?」
この答えは「通行サラマンダーの動きに耐えられなくて吐いてしまう」からであり、通行サラマンダーも通行コカトリスも全部乗り物酔いには扱いができず、普通の馬ではこの荒野ドリの砂ぼこりで通行ができないため、上司の許可を得て徒歩という選択をしているのだが、そしてトキシカもそれをわかっていて聞いている。
「どうしてだろうね、防塵マスクとゴーグルと防風具までつけていると重くなるからじゃないかな。」
適当な回答をして、地図上に浮かぶマーカーの反応が強くなっているのをみて道に迷ってはいないことが分かり安堵していると猛烈な風が真正面から吹いてきた。
「トキシカ!俺につかまって伏せろ!」
「はい!」
荒野ドリはだだっ広く枯草やむき出しの岩ばかりであることと風の精霊アイオリンの機嫌によって暴風が吹き荒れるため、飛ばされて鋭い岩にでも当たったらひとたまりもない。
「風の精霊アイオリン!聞こえますか!今日訪ねる予定があったメディシです!どうかこの風を止めて助けてください!」
そう声にならない叫びで助けを懇願すると次第に風は弱まっていった。
「はぁ、だいぶ近くだったらしい。トキシカ大丈夫か。」
土埃まみれで真っ黒になっているトキシカの背中をたたいた。
「メディシ先輩、セクハラとパワハラです。」
「よかった。無事だな。」
そういうとマーカーの反応の濃い場所まで足を進める。
しばらく歩いているうちに目視で緑色とわかる2mほどの竜巻が現れた。
「お久しぶりです。風の精霊アイオリン。」
挨拶をすると竜巻から緑色の女性が現れた。彼女が風の精霊アイオリンだ。
「水晶では昨日会ったばかりよね。あらまぁ真っ黒じゃない。どうしたの。」
「それはあなたが風を」
とトキシカが言いかけたので人差し指で「静かに」と合図して埃を払いながらこう言った。
「お見苦しい姿をお見せしてすみません。人間なので風の扱いに不慣れなもので。」
そういうと風の精霊アイオリンは嬉しそうに微笑んだ。
「あらあら、人間じゃ風のコントロールは難しいものね。魔術使いでもない人間であればなおさらよね。かわいそうに。」
「そうなんですよ、なので助手の魔術使いを連れてきました。ほら挨拶。」
「初めまして。トキシカ・キャンディ・バニラです。魔術が少しだけ使えます。」
「あらあら、そうなの、少しだけってどのくらいか見せてくれる?」
俺は目くばせをしてトキシカに魔術を使うようにいった。
「ではここにいらっしゃる風の精霊アイオリンの力をお借りして風の精霊アイオリンの名のもとに発動する『ウィンドスラッシュ!』」
そういうとトキシカから風の刃が発生して近くの岩の先端を削った。
「あらあら、もうちょっと下を狙わないと駄目よ。まぁいいわ。本題ね。」
そういうと緑の竜巻の中から手のひらほどの通信水晶が現れた。
「この発信水晶がね、自動反呼がうまくいかないみたいなの。」
発信水晶は各エリアにおいてある通信水晶とつながっており、呪文詠唱時に呼び出す精霊たちの元にある。
詠唱時に呼び出された精霊たちに代わって予め込められたエネルギーを供給する仕組みになっていて、かねてから言われていた「なぜ精霊が24時間待機していなければいけないのか」問題を解決する画期的な魔法道具ではあるのだが。
「この発信エリア外と同期がうまくとれていないのかもしれませんね。」
そういって魔法虫眼鏡をとりだす。この虫眼鏡はその魔法道具にどういった呪文が記述されているかを目視できるのだが、いかんせん一つ一つ読んでいかなければならないのがキツイ。
「うーん、呪文の記述に追加などはなく、位相ずれかな……。トキシカ、予備の新しい発信水晶持ってきて。」
「はい。もってきました。」
「風の精霊アイオリンにはこの魔法道具ができてから一番長くお付き合い頂いていますから経年劣化かもしれません。いちど新しい発信水晶に呪文を唱えますのでお応え頂いてもいいですか。」
「ええいいわ。」
「トキシカ、俺が聖水で発信水晶を清めてからこの呪文を読んで。」
そういって聖水を発信水晶にかけて魔術書をトキシカに渡した。
「風の精霊アイオリンとの契約に基づき、風の力をこの発信水晶に保存蓄積する。それとともに足りないエネルギーは自動で周囲から得るものとし、エネルギーが著しく足りない場合は本局のエネルギーから補充するもとする。そして、魔術による精霊の呼び出し及び力の借り受けにこのエネルギーを自動的に供給するものとする。風の精霊アイオリン、この水晶に力を注ぎこんでください。」
「わかったわ。ハァァァァ……って別に掛け声いらなかったわね。」
「いえ、掛け声があった方が力がより強くなりやすいっていうデータもありますから。」
「あらそうなの。ならよかったわ。」
そう言い終わる前に発信水晶が輝き始めた。
「じゃあちょっとすみません。もしもしホスピ、聞こえるか。」
腕時計型交信器に対して呼びかける。
「あー、雑音すごいけど聴こえてる。今終わった感じ?」
「ああ、今新しい発信水晶に変えたから風の魔術を試してもらえるか。」
「りょーかい。風の精霊アイオリンの名のもとに発動する『ウィンドカッター!』あ、大丈夫。遅延なく発動したよ。おつかれー。」
「分かった。ありがとう。お疲れ様。風の精霊アイオリン、今正しく機能することが分かりましたので古い発信水晶は回収して終わりになります。ご対応ありがとうございました。」
「あら、もういっちゃうの?少しくらいお話ししていきましょうよ。」
「そうしたいのもやまやまなんですが、次の仕事があるので、また次回機会があればゆっくりとお話を聞かせてください。」
「いいわ。それまでに面白いネタためておくわね。トキシカ……だったかしら。」
「はい。トキシカです。」
「あなたもがんばりなさいな。あなたが引き継ぐんでしょう。」
「はい。がんばります。」
そして深々と頭を下げた後、帰路についた。
「メディシ先輩、次の仕事って明日休みですよね。」
野暮なことをいう後輩の言葉に対して俺は大きなあくびをして背伸びをした。
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