第3話 なんで交渉しないといけなんだ!
「メディシ先輩、飛行竜が使えて良かったですね。」
俺はその声には答えずに3つの魔導書の条文を読みながら焦っている。
「顔色が悪いですけど、飛行中に文字を読むと酔いますよ。」
そうじゃない。酔っているのもあるが契約更新する精霊が夜と火と土なのはわかっていたが、土の精霊が草原地帯ボッタではいつも更新しているアイラではなくタゲサであることを見逃していた。俺はタゲサに嫌われている。
「そろそろマーカー地点ですよ。本当に何もない草原ですね。」
俺はどうやってこの状況を切り抜けるか考えるのに精いっぱいでなにも答えられない。
「メディシ先輩、私のこと怒ってますか?本当にあの場面でウォータースプラッシュしたのはまずかったと思っています。」
「違う、そうじゃない。とりあえず業務に集中してくれ。」
「わかりました……。」
トキシカの表情が暗くなったが、今はフォローしていられる場面ではない。
ドラくんがゆっくりと通信水晶の近くに降り立つと俺とトキシカは重いリュックから荷物を取り出して準備を始めた。
「トキシカ、念のため事前に通信水晶の裏面に大きな欠けがないかみてくれないか。」
「どうしてですか?エネルギー水晶で欠けがあっても修復されるじゃないですか。」
「念のためだ、念のため。」
そういいつつ時間稼ぎをしてどうやってこの仕事をこなすか考えるも焦りでうまく頭が回らない。
「メディシ先輩、この通信水晶は大きな欠けなどはありません。ただ色が他のよりピンクっぽいですかね。」
「そうか……。じゃぁ準備だ。」
俺は諦めがつき、水晶に聖水をかけてエネルギー水晶に手をかざしながら呪文を唱えが。
「ブラウン・ラクバイ・ブリシト 夜の精霊ニュクサよ、我の言葉に答えたまえ。」
唱えると通信水晶とエネルギー水晶が光を放ち始めた。
「その声は、代行のメディシ・山田・良助さん。」
「あ、はい。そうです。あのー……いつもの契約更新なんですけど。」
「はい、わかりました。いつもご苦労様です。」
「精霊ニュクサ、契約に基づきこのエリアW-41-D46の30km圏内での召喚術に対する呼びかけに応じてもらえますか。」
「はい。精霊ニュクサはこのエリアに魔法反呼の術をまじないます。」
「いつもスムーズにありがとうございます。」
「いえいえ、頑張ってくださいね。」
会話が終わるとエネルギー水晶が少し光を失った。
はぁ、と大きなため息が漏れる。
「次は火の精霊ヘパイストーです。」
「分かった。でもちょっと一息つかせて。」
そう言って草原に大の字で寝転がり空を見上げる。空は水色とピンクが混ざった色をしていて月のようなものが3つもある。いまだに現実感がない。
「サボりは報告しますよ。」
「はいトキシカさん。わかりました。」
気を取り直して二つ目の魔術所を開く。
「ブラウン・ラクバイ・ブリシト 火の精霊ヘパイストーよ、我の言葉に答えたまえ。」
そういうとエネルギー水晶が発光するとともに熱を帯びてきた。
「ムハハハハ。その聞き覚えがある声は、契約者の代行稼業メディシ・山田・良助だな。」
「あ、はい。あのー」
「ムハハハハ。三か月ぶりだな。疲れた顔をしているじゃないか。」
「あ、はは、そうですかね。」
「ムハハハハ。飯はちゃんと食ってるのか?たらふく食ってグースカ寝る!それが健康というものよ!」
「あ、そうですね。そのー」
「ムハハハハ。世間話もできなくてどうする!社会人として人脈という者のありがたさを知るがいい。」
「すみません。」
「ムハハハハ。冗談だ。」
「精霊ヘパイストー、契約に基づきこのエリアW-41-D46の30km圏内での召喚術に対する呼びかけに応じてもらえますか。」
「ムハハハハ。断る!」
「えっ」
トキシカは目をまんまるくしてこちらを見た。
「ムハハハハ。冗談だ。ワシ、精霊ヘパイストーはこのエリアに対して魔法反呼の術をまじなうぞ。」
「あ、はは、ありがとうございました。」
「ムハハハハ。たまには顔を見せに来い。」
「俺人間なんで火山になんていったら溶けちゃいますよ。」
「ムハハハハ。そうだな。たまには仕事以外でも顔を出せということだ。」
「善処します。」
そういうとエネルギー水晶がまた一段光を失った。
「次の精霊は」
「分かってる。」
深く深呼吸をして、もしこの仕事が失敗して始末書になったり最悪クビになったらどうやってトキシカに仕事を引き継ごうかと頭で巡らせた後、土の魔術書を開いた。
「ブラウン・ラクバイ・ブリシト 土の精霊タゲサよ、我の言葉に答えたまえ。」
反応がない。いわゆる、無視である。
トキシカが不思議そうにエネルギー水晶を覗き込んだ。
「メディシ先輩、トラブルですか?」
そういったとたんに水晶から少年が顔をのぞかせた。
「うわっ!」
驚いたトキシカが尻もちをつく。
「わーキモイおっさんじゃなくてかわいい子もいるんじゃん。」
そう水晶の中でニヤニヤしているのが土の精霊タゲサであり、見ての通り俺のことを毛嫌いしている。
「君なら契約代行としてみとめてもいいよ!君名前なんて言うの?」
「トキシカ・キャンディ・バニラです。」
「トキシカちゃんかー。いくつ?初めて会うよね。」
おそるおそる水晶を覗き込むトキシカを自分の背後にやり、人差し指で「静かに」と合図をした。
「すみません。精霊タゲサ。業務上のやり取りは代行の俺と話してもらえませんか。契約書にもそう書いてありますよね。」
「あー……契約。そうだね。はぁ、だいたいさぁ俺らが契約の条件にしている"信仰"も最近薄くない?割に合わないと思うんだよね。俺ら精霊ってさぁ崇められてと当然なのにわざわざ契約してやってるのにさ。」
「すみません。契約に関する内容に関して意見がありましたら上司を通してもらわないと。」
「チっ、はいはい。わかりました。」
「それでは精霊タゲサ契約に基づきこのエリアW-41-D46の30km圏内での召喚術に対する呼びかけに応じてもらえますか。」
「はいはい。精霊タゲサはこのエリアに魔法反呼の術をまじなうよ。」
「ありがとうございました。」
そういうとエネルギー水晶の光が完全に失われた。
「精霊タゲサには初めて会いました。」
「そうか、でももう会うことはないよ。」
「どうしてですか?」
「あまりにも態度が悪すぎるから君に引き継ぎしたときに問題を起こしかねないから上司と取引契約について見直してもらうよ。」
「メディシ先輩、そんな度胸あるんですか?」
「トキシカ、流石に後輩にまで危害が及ぶ恐れがある取引先を黙ってやり過ごすわけにはいかないだろ。」
トキシカは意外といった顔を見せたのでおでこをこつんと手の甲で叩いた。
「今のはパワハラです。」
「はいはい。」
そういって荷物を片付け報告書に描く文言を考えながらそよ風にあたっていた。
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