第42話

 





「ロクな奴が居ない……!」



 思わず口からそんな言葉が飛び出してしまったが仕方ないと思う。

 そんな私を、緑の幼女が指差しながら呆れたように告げる。


『ほら、賢人にまで言われてるよ』

『え?』


 精霊王達の視線が一気に私へ集まり、どの人へ目を向けても視線が合ってしまって、それにも気付いた王達がぱちくりと目を瞬かせた。


 そして、暫くの沈黙の後、え? という王達の呟きが綺麗にハモった。


「……旦那様?」


 次いで、怪訝そうに私を見る執事さんに、自分がやらかした事に気付く。


 あ、やべ。


 五分くらい黙り込んだ挙句突然なんか妙な事呟いたように見えたんだろう。

 不審者である。


 えっと、うん、よし、こういう時はスルーだ!


「……仕方ない。アルフレード、茶菓子を六人前用意しろ」

「……理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」


 怪訝そうに尋ねる執事さんの視線が痛い。


 デスヨネー。

 まあ今はとりあえず、簡単に説明しておこう。


「……精霊の王が来訪されている」

「なんと……! 畏まりました、すぐにご用意致します」


 言った途端に納得されてしまうこの虚しさは一体どうしたら良いんだろうか。


 そんな私の感情はさておき、執事さんは慌てた様子もなく、しかし素早く、執務室から去って行った。


「なるほど、それで俺は圧迫感を感じた訳か。納得ー」

「む、シンザ、どこへ行く?」


 なんか突然、空気と化していた隠密さんが移動を開始しようとしたので慌てて止める。


 出来れば一人にして欲しくないんで、一緒に居てくださいお願いします。


「旦那サマに害は無いみたいだから、とりあえず今日は持ち場に戻りまーす」


 私の気持ちなど察する事も無く、なんの問題も無いよね! とでも言いそうな声音と雰囲気で、隠密さんはキッパリと断言した。


 ……あ、ダメだこれ、行く気満々だ。

 私完全に丸投げされてる。


 いや、うん、まあ隠密さんが、自分此処に居てもしゃーないやろ、と判断しても仕方ない。

 だって相手は精霊王だし見えないし。


 ……うん、仕方ないね。


「……そうか、ではまた明日」

「はーい、またねー」


 一瞬で遠くなって行く隠密さんの気配に物悲しさを感じながら、そっと視線を精霊王達へと戻すと、緑の幼女がツカツカと詰め寄って来た。


『……ねぇ賢人、もしかして、ずっと見えてたし聞こえてたの?』

『見て見ぬフリとは悪趣味だな』


 次いで不愉快そうに黒いオッサンが呟く。


「……申し訳ない、どういった対応が正解なのか、思案している間に口を挟めなくなってしまってね。

 やはり見えないフリをするべきだっただろうか」


 とりあえずでそんなセリフを口にしながら、顎を掴むように右手を当て、緩く頭を横へ傾ける事で思案しているような仕草を見せた。


『いやいやいやいや、ちょっと待って、なんで見えてるの?』

「それについても申し訳ないのだが、私には分かりかねる」


 焦る幼女に、キッパリとそれだけを返す。


 理由なんてこっちが聞きたいよ!


 ていうか、今この幼女を目の前にして気付いたんだけどさ。


「ふむ、不躾な問いなら申し訳ないのだが、貴殿は何故少女の格好をしているんだね?」


『ぅえっ!? なんでワタシがオスだって分かったの!?』


 効果音を付けるなら、ガーン! だろうか。

 そんな音がしそうな程、幼女、いや、彼は驚いた様子を見せた。


 …………うわあ、マジで男の子だった。


 賢人の鋭過ぎる勘からそんな感じがするなあと確認の為聞いてみただけだったけど、うん、鋭過ぎるよコレ。


 なんで当たるんだよ、当たって欲しくなかったわ。


「強いて言うなら骨格、だな。何故少年のものなのか、聞いても?」


 何となくでーす! なんて言える訳も無いので、とりあえず無難な返答を返す。


『ワタシ達精霊は、服装や髪型は自由自在だけど、生まれた時の容姿からは変えられないの。

 ワタシは残念ながら少年型で発生しちゃったのよね』


 簡単にそんな説明をした後、彼は、心底残念、といった様子で溜息を吐いた。


「……なるほど、それは確かに残念だな」


 別の意味でも色々と残念だ。

 絶対美少年だろうに何故女装に目覚めてしまったのか。

 いや、うん、世の中の女装家さんを悪く言うつもりは無い。

 だってそれは個人の趣味であって、私がどうこう言って良いものじゃない。


 ただ一言だけ言うとしたら。


『でしょー!? まあ、ワタシがオスでもこれだけカワイイし、似合ってるからオッケーかなって!』

「そうかね、納得したよ」



 キャラクター濃ゆ過ぎだろ、このメンツ。



 赤、筋肉馬鹿

 青、女性カップル推奨派

 茶、幼児好き

 白、男性カップル推奨派

 黒、既に見た目がヤバイ

 緑、女装男子 ←new!



 …………何これ、どうしたらいいの、マジで。


 キャピっ★なんて効果音がしそうな程カワイコぶる緑の彼を眺めながら、そんな事を考えた。



『今までの賢人でも誰にもバレなかったのになー、キミ凄いね!』

『よーし! じゃあ賢人! 筋肉比べ合おうぜ!』

『フハハハハ! この我が挨拶に来てやったのだ! 有り難く思え!』

『のう、賢人、お前の周りに可愛らしい女子は居らんのかえ?』

『あの~、賢人さん、貴方は受け、攻め、どっちです~? わたくし的には是非リバーシブルをオススメしたいんです。だって二度美味しいんですよ~!』



 うん、とりあえず、一個良いかな。



「すまないが、どこから応えていいか分からん」


 緑の子はともかく、赤いの脱ぐな暑苦しい、黒いのはちょっと黙ってて音量でっかい。

 青いお姉さんもちょっと黙ってようか、何を真顔で獲物を探してるんだ、本人もソッチなのか分からんが止めろ。

 白いお姉さんは、ごめんちょっと何言ってるか分からない。


 うけ、とか、せめ、とか言われても野球詳しくないんだよね、私。

 いや、言動から考えても絶対野球関係無いだろうけどな!

 なんだっけ、こういう人、あ、ダメだ、思い出そうとして麩菓子しか出て来なかった。

 現実逃避だね!


 とりあえず、なんか私の勘がめっちゃ必死に、考えるのやめとけ! って言ってるから考えない!


「旦那様お待たせ致しました、紅茶とフィナンシェで御座います」


 執事さんナイスタイミング!


「ご苦労、テーブルへ」

「は、畏まりました」


 執事さんがセッティングしていく様子を眺めながら、ふと気付いた。


「……ふむ、このままでは私が独り言を喋る道化の様相を呈してしまうな……、アルフレード」

「畏まりました、わたくしは御前を失礼させて頂きます、何かあればベルを」

「……あぁ」


 個人的には変な奴になるけど気にしないでね! って言いたかったんだけど、どうやらそれは察して貰えなかったらしい。


 出来れば一人にしないで欲しかった。

 でも今更訂正するのもなんかアレなので、仕方無く諦めようと思います。

 頑張れ私。



「さて、茶と菓子を用意させて頂いた。摘みながら歓談と行こう」

『わーい! こういうの食べてみたかったんだよね!』

『おぉー、これが菓子か』

『甘くて美味いと聞いておるぞ!』


 嬉しそうな王様達が思い思いにお菓子を摘む様子を眺めながら、自分も来客用のソファーへと腰掛けた。




 そんな感じに茶菓子で釣った精霊王達が言うに、勝手に部屋に上がり込んでいた理由なんて特に無かったようです。


 強いて挙げるとするなら、私の魔力が隠蔽されているようだったから、上限は一体どの位なのか、とか、そういった事が気になったらしい。


 うん、隠蔽してるつもりとか無かったけど、どうやら隠蔽してたらしいです、私。


「すまないね、私自身も己の魔力がどの位なのか、余り理解出来ていないのだよ」

『そりゃそうだよねー、なんだっけ、勇者が持つ技能で、鑑定、だっけ? 相手の力量とかそういうの調べるのがあるんだけど、ソレ持ってたら少し違うんじゃないかな』

「ふむ、なるほど」


 色々気になる事があるけど、とりあえず一個言いたい。


 勇者とかいるの、この世界。


『しっかし、隠蔽してそれって、アンタものスゲェ魔力総量なんだろうなぁ! 力比べしてぇ!』

「それに関しては、相応の場を用意する必要があるな。今は無理だ」

『くっそー! なんでニンゲンの国ってこんな脆くて面倒くさいんだ!』


『仕方ないだろう、炎の。

 賢人とはヒトの営みの中より生まれ、それを見守る存在なのだ。

 我等のようで、我等とは違う、まぁ我程に特別な存在では無いがな! クククッ、ふははっ、ハァーっハッハッハ!』

『はいはい、闇のはうるさいからもう少し自重してよね』


 見事な笑い声三段活用を見た。



 暫くそんな風に和やかに歓談し、茶菓子を堪能した精霊王達は、各々好き勝手になんか言いながら消えていった。


 内容はまた来る! とかそんなんばっかりで全く中身が無かったから覚えてない。

 いや、検索したら全部の会話思い出せるんだろうけどしないよ。


 …………なんだったんだろうね。

 まあ、精霊の王様なんだからと、とりあえず敵対はしないようにした方が良いよね、と判断して頑張って持て成した結果、まあ、なんかよく分からないけど適度に気に入られたような、多分そんな感じになった事は理解出来た。


 だがしかし、明日にもパーティが控えてるのに、余計に気疲れしてしまった気がする。

 ホントは寝る前に書類の続きしたかったんだけど、なんかもうそんな気も起きないし、とりあえず、寝ようと思います。


 そして私は執事さんに後片付けを指示し、寝室へと向かったのだった。


 うん、なんか疲れた。




 

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