第7話 夢の世界と虹色の城
久方ぶりに興奮していた。麻薬のようにあの種の魅力が体中に染みわたっていく。
私は家に帰った途端、またベルトを手に取った。体重をかけ、もはや心地よいとすら思える息苦しさを手に入れる。
遠のく意識に抗わず、私は夢へ落ちていく――……
ふと目を開ける。私は立っていた。青色の砂漠のど真ん中に。
黄色の空と青い砂。昨日と同じだ。いや、黄色は昨日よりオレンジ色に近づき、青色は紺色に近づいている。もしかしたらこの世界も時間の経過で景色が変わっていくのかもしれない。
私はしばし景色を楽しんだあと、砂漠を見つめる。小さな粒だからすぐには見つからないかと思った。実際、ピンク色の種は見つからなかった。だが、赤色の種なら、すぐに見つかった。
星が落ちてる。私は最初、そう思った。
赤い種は、点々と落ちていた。まるでどこかに道案内するかのように、一直線に並んでいる。私は一番近くの種に近づいて、一粒を手に取る。昨日拾った種と形状は同じだった。ピスタチオのように殻があり、隙間からは暗い闇が見える。違うのは殻が真っ赤だということだけだ。
種の観察を終え、ひとまず私はそれを手に持つ。まだまだ種は落ちている。私は紺色の砂漠に足跡を残しながら、赤い星を拾って歩いた。
赤と黄と青。まるで信号だ。一人で想像して、自然と笑いが漏れる。そして自分自身に驚く。面白くて笑うことも本当に久しぶりな気がした。この種はいい効果しかもたらさない。
嬉々として種を集める。これだけあればしばらくは痛みなく、黒髪ロングやあの女の暴行を受け止められる。
そうして私は歩き続け、制服の両ポケットはいつしか満杯になった。掌にも乗せられるだけ乗せて、まだ歩く。ふと顔を上げた。
(あれは……城?)
赤い種の終着点に、それはあった。時計塔や尖塔、見張りの塔がいくつも組み合わさり、一つの塊になっている。塔の途中に空いた窓からは、柔らかなカーテンが見える。城の外壁のふちを彩るように植えられた植木は、豊かに茂っている。ただ普通と違うのは、城は常に色が移り変わっていることと、植木がそれぞれ青や黄、オレンジやピンクなど、てんでばらばらな色をしていることだ。
赤い種は、周りを彩る植木の切れ目にまっすぐ向かっていた。そこには城に続く階段がある。その階段も、私が最初に見た時は紫色だったが、今は茶色に変わっている。言うなれば虹色の城なのだろうか。
あの城に入れば、もっと素晴らしいものがある。私は確信にも似た思いを抱いた。そして残りの種を砂の上に放置したまま走り出す。
右足を一歩出す。青色の砂に足が沈む。左足を一歩出す。もっと深く沈む。右足。さらに深く沈む。左足。もっと深く。右。深く。左。深く、深く。
私の意識は、足に引きずられるようにして、落ちていく。霞む視界の中、手を伸ばす。
七色の城。私は、あそこに……。
だが、もう、城はなかった。目指していたはずの城は、跡形もなく消えている。蜃気楼だったのだろうか。深い絶望が身を包み、私は静かに目を閉じた。
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