第4話 再度

 軽やかな足取りで家まで帰り着く。薄暗い廊下を抜け、自室に入る。朝目覚めた時のまま、ベルトが放置されていた。私は鞄を放り出し、薄汚れた制服を脱いだ。インナーだけの姿になって、床に座る。ドアノブに引っ掛けてあるベルトを手に取った。

 真っ黒なベルトは、カーテンの隙間から漏れる光で鈍く照らされている。その艶を見つめていると、自分の意識すらも吸い込まれそうだった。私は誘われるように首を通していく。不思議なほどに心は落ち着いていた。

 体重を下にかける。首が締まり、苦しいを通り越して痛みがやってくる。昨日と同じだ。昨日はここで、失敗した。しかし今はこの痛みさえ心地いいものだった。

 あの女に殴られた記憶。黒髪ロングたちに蹴られた記憶。たくさんの痛み。数え切れない痛み。それが頭の中に次々浮かんでは消えていく。その痛みの記憶に比べれば、こんなものどうってことない。

 私は沈んでいく。身も心も沈んでいく。

 それに合わせるように意識は遠のいていった。

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