第11話

「今日はあーしの番だから」


 昼休みになった途端、満面の笑みを浮かべたリリカが向かいに座った。


 一日空いただけなのに、一ヵ月ぶりみたいに嬉しそうである。


「……僕と一緒にお昼食べるの、そんなに楽しい?」


「当たり前じゃん」


「……慧伍君達と一緒に食べるより?」


 リリカの目がキャトンとして、嬉しそうに口元が笑う。


「やっぱりこもりん嫉妬――」


「してないよ! いつも僕としか食べてないし、他の人と比べてどうだったのかなって気になっただけ」


 ただそれだけのはずなのに、バツが悪くなって小太郎は視線をそらした。


「こもりん以外と一緒に居ても楽しくないし? とーぜんじゃん!」


 ニヤニヤしながらリリカが指で鼻先をつついてくる。


「もう、やめてってば!」


 でも、小太郎は内心でホッとしていた。


 当たり前の存在になっていたが、リリカは小太郎にとって一番の友達である。


 親友と言ってもいい。


 からかわれたり、わがままを言われる事も多いが、なんだかんだ一緒に居ると楽しい存在だ。


 ゲームとかラノベとか、オタク趣味の話も合う。


 まぁそれは、リリカの趣味に小太郎が染まっただけとも言えるが。


 なんにせよ、大事な友達には違いない。


 他の子に取られたら嫌だと思う。


 一日別々に過ごしてみて、小太郎はその事に気付いた。


 リリカ程ではないが、自分だって多少は依存している。


 それに、イケメンでモテ男の慧伍と比べてこっちの方がいいなんて言われたら、小太郎だって悪い気はしない。


 ……こういうのも好きという気持ちなのだろうか。


 千鳥の手作り弁当でドキドキした事で、小太郎は一層真面目に好きについて考えるようになっていた。


「それで、リリカちゃんもお弁当用意してくれたの?」


「ピンポ~ン! なんでわかったの?」


「そりゃその手を見ればね……」


 小太郎は苦笑した。


 リリカの指は絆創膏だらけだった。


 千鳥が手作りの弁当を持ってきた事は当然のように噂になっている。


 それで対抗して、不慣れな料理をして怪我をしたのだろう。


「不器用なんだから、無理しなくていいのに……」


「だって鶴川に負けたくないんだもん」


 唇を尖らせると、リリカは弁当バッグから紙製の四角い入れ物を取り出した。


 パッケージには近所の商店街にある唐揚げ専門店のロゴが描いてある。


「……えっと、え?」


 わけがわからずリリカの顔を見ると、恥ずかしそうにモジモジしている。


「頑張ってはみたんだけど、全然上手くできなくて……。でも、手ぶらじゃなんだからウーバーしちゃった。……いつか絶対美味しく作れるようになるから、今はこれで我慢して!」


 涙の滲んだ真剣な眼差しで小太郎を見つめると、リリカが容器を開けた。


 温かな湯気と共に美味しそうな唐揚げの匂いが教室いっぱいに広がる。


 なんだか小太郎は感動してしまった。


 だって、料理嫌いのリリカが自分の為に手に怪我をしてまで努力してくれたのだ。


 上手くいかなくたって、その気持ちだけで十分嬉しい。


 なによりもリリカの目には、小太郎の為に自分を変えようという強い決意の色が浮かんでいた。


 その熱意に、小太郎は胸を打たれたのだった。


「……うん。楽しみにしてるね」


 微笑むと、小太郎は大きな唐揚げを頬張った。


 配達仕立ての唐揚げはまだ熱々で、衣はさっくり、噛めばじゅわっと肉汁が口の中に溢れだした。


「美味しい?」


「すっごく美味しい」


 流石は有名な専門店の唐揚げだ。


 普通の唐揚げとはわけが違う。


 味で言えば、今まで食べた唐揚げの中でもダントツだろう。


「鶴川のよりも?」


「……リリカちゃん?」


 意地悪な質問に、小太郎は半眼になった。


「だって気になるじゃん」


「比べるものじゃないでしょ?」


「でも、あっちは手作りだし。やっぱり手作りの方が嬉しいのかなって不安になるじゃん……」


 不安そうにリリカが視線を下げる。


 味についてはコメントを控えたい。


 素人の手作りとプロの味を比べるわけにはいかない。


 でも、嬉しいかどうかなら答えられる。


「そんなのどっちも嬉しいに決まってるでしょ? ありがとね、リリカちゃん」


 その言葉に、リリカはぱぁ~! っと笑顔を咲かせた。


「えへへへ、どーいたしまして!」


 そして、ひょいっと唐揚げをつまむ。


「やば!? この唐揚げ、めちゃめちゃ美味しいじゃん!」


 †


「…………わざわざ同じ料理をぶつけて来るとはな。漆場リリカ、本当に嫌な女だ」

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