第8話

『小森君。早速で悪いんだが、明日の昼休み、私と一緒にお昼を食べて貰えないだろうか』


『いいですけど、二人は大丈夫ですか?』


『問題ない。ちゃんと話し合いで平和的に解決した』


 四者会議があった日の夜、自室にて。


 小太郎は自室でPCゲームをしながら、裏でバーチャルライバーの配信を聞いていた。


 リリカと過ごしている内にオタク趣味が移ってしまったのだ。


 楽しいけれど、とんだ時間泥棒である。


 その手を一時止めて、千鳥からのラインに返答していた。


 四者会議では、小太郎ははっきり自分の気持ちを三人に伝えた。


 こんな自分を好きになってくれた事は嬉しい。


 でも、自分はまだ誰に対しても恋愛感情を抱いてはいない。


 だから当然、特別扱いも出来ない。


 やりたい事があれば自分の予定を優先するし、三人にも喧嘩をしたり周りに迷惑をかけたりしないで欲しい。


 そんな当たり前の常識も守れないような人なら、好きになるのは難しいだろう。


 三人の美少女を相手に偉そうな事を言っていると自分でも思う。


 でも、それはそれ、これはこれだ。


 相手が美少女だからと言って特別扱いしたら不純だ。


 じゃあ美少女じゃなかったら雑に扱ってもいいのかという話になる。


 そんなのは真面目とは言えない。


 嫌な事を無理して我慢していたら、三人の事だって嫌になってしまうかもしれない。


 人にはそれぞれ好き嫌いや相性があるから、三人にも無理に仲良くしろとは言わない。でも、揉めたら出来るだけ自分達で話し合って平和的に解決して欲しい。


 喧嘩の度に自分が介入していたら身が持たないし、三人とも友達だから、誰か一人に肩入れするような事はしたくない。


 無責任に聞こえるかもしれないけど、三人とはまだただの友達だ。


 そんな状態で下手に責任を持つような事をする方が変に期待させてよくない気もする。


 勿論、全くのノータッチでは流石に無責任すぎるから、いざとなったら今回のように仲裁に入る。でも、出来るだけそうならないように頑張って欲しい。


 勝手な事を言っているように思う反面、当然の事を言っているようにも思える。


 どちらにせよ、これが小太郎の真面目に考えた答えである。


 それで嫌われるなら仕方がない。


 別に小太郎も無理に三人に好きになって貰いたいとは思っていない。


 小太郎の考え通り、三人が過大評価をしていただけという事だ。


 千鳥の話によれば、色々話し合った結果、取り合えずジャンケンとターン性を採用したらしい。


 例えば今回は、三人が三人とも小太郎と昼食を食べたがっている。


 ならば、まずは順番をジャンケンで決める。その後は、それぞれにターンが発生し、その権利が守られるという仕組みだ。


 千鳥が小太郎と昼食を食べたら、自動的に他の二人にも同様の権利が発生する。ただし、小太郎の用事でキャンセルされた場合は権利が持ち越しにり、優先権を得る。


 上手くいくかは実際にやってみないと分からないし、まず間違いなくなにかしらの問題が発生するだろうが、その際はルールを見直し、改定や追加して対応する予定だという。


 仕組みは千鳥がほとんど一人で考えたらしい。


 流石は生徒会長と言った所か。


 それは別に難しくなかったのだが、懐疑的な栞と否定的なリリカを納得させる方が大変だったという。


 学校一の美少女という事で目の敵にされているとボヤいていた。


『ごめんね。千鳥さんに負担を押し付ける事になっちゃって』


 こうなる事は予想するべきだったが、そこまで考えが回らなかった。


 小太郎も、三人との関わり方は様子を見て柔軟に変えていかなければいけないと反省した。


 まったく、恋愛とは難しい物である。


『構わないよ。小森君の言う通り、私達はまだただの友達だ。今から君の手を煩わせていては、いずれ来る結婚生活が危ぶまれる』


 話の途中だと思ったのだが、それから暫くラインが途切れた。


『千鳥さん?』


『すまない。自分で言って悶えていた。とにかく、小森君が気に病む必要はないという事だ。三条君風に言えば、君の好感度を稼ぐ絶好の機会とも言える。なんてね』


『あははは』


 流石生徒会長、頼もしい限りである。


 お嫁さんにするのなら、こういう人がいいのだろうか?


 でも、千鳥の有能さに期待して恋人にするのは違う気がする。


 本人が言うように千鳥だって普通の女の子だし、今は片思いだから張り切っているが、恋人になったらもっと甘やかして欲しいのではないだろうか。


 なんて事を考えつつ、暫く千鳥と雑談した。


『ところで小森君は、食べられない物はあるかね?』


『ん~。食べられない物以外は大体食べられるかな』


『ははは。面白い答えだ。では、苦手な物はどうかな?』


『茹ですぎたブロッコリーとか、べしゃべしゃの野菜とか、柔らかすぎるお米とか?』


『好物は?』


『ん~。美味しい物ならなんでも好きだから。ちょっとすぐにでは出てこないかも』


『なるほど』


『どうかしたんですか?』


『いいや。ただの興味さ。そろそろお風呂の時間だ。今日の所は失礼させて貰うよ』


『おやすみなさい』


『おやすみ、小森君』


 千鳥とのやり取りが終わると、小太郎は両親になにが決め手で付き合う事になったのか尋ねた。


 長身で寡黙な父と、小柄で優しい母はキョトンとして見つめ合い、恥ずかしそうに頬を赤らめて目をそらした。


「そんな昔の事は忘れちゃったわ」


 小太郎はがっかりした。


 まったく、役に立たない両親である。


 †


「おか~さ~ん! ちょっとスーパーまで買い物に行ってきます!」


 もっとラインをしていたかったが、あまり遅くなるとお店が閉まってしまう。


 断腸の思いでラインを打ち切ると、千鳥はお財布を片手に夜中まで営業しているスーパーに走った。


「はぁ……。小森君におやすみなさいと言われてしまった! まるで彼女だ! 最高の気分だ! はっはっはっは!」

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