魔王様の驍勇です
並び立った三つの影に、廃都の死骸は呻き声を漏らす。
愉悦も、余裕すらも感じさせないその様子はまさしく怨敵を前にしたモノの反応だ。
廃都の死骸は指令範囲を学園全体に広げる。自身が従える骸骨の群れだけでなく、この万魔殿で命を落とした者たちの死骸にまでその魔手を伸ばす。
指令はただ一つ。目の前の排除すべき者たちを鏖殺しろ、と。
その指令は、崩皇仙女にも効果を発揮する。
「都合が悪くなったら手を貸せって……どうやら完全に感情が欠落している完全無欠の怪物……ってわけでもなさそうか」
呆れた様子の崩皇仙女はそれでも指令には逆らえない。どんな形であれ、死した者たちは廃都の死骸の駒であるのだから。
傍観者から当事者へ。もう一人の怪物の足は戦場へと伸ばされる。
「————
そして、急激な魔力の奔流が崩皇仙女を襲撃する。
奔流は何かを呟いた魔王アルトエイダの身体から溢れ、意思を持ったように彼女を襲った。
「っと……なかなか――ッ!?」
「
瞬間、爆発的に攻撃性の増した奔流は、崩皇仙女に百を超える魔術の雨を降らせた。
火の魔弾。水の矢。風の刃に土の礫。
だというのに、アルトエイダの視線は廃都の死骸に向いている。崩皇仙女を気に留めることもせずに、断続的に魔術が発生し続ける。
これはアルトエイダが持つ十を超えるスキルのたった一つ目。
端的に言えば、彼がこのスキルを発動した時、彼の魔力が尽きるその時まで彼が指定した標的に魔術が降り注がれ続けるのだ。
「地底都市の怪物か……悪ぃな、死骸の相手で手一杯だ。空くまで俺の魔力と遊んでてくれ」
「どっちが怪物だよっ……魔王ってのはいつの時代もそんなかよッ!」
魔術の弾幕を必死に躱しながら隙を窺うも、糸口すら掴めない密度、精度と威力。そしてそれでもなお底が見えない魔王の余裕に、彼女は頬をひくつかせながら悪態を吐いた。
「さて、俺らは
「出しゃばらずに下がっててもいいですよ、アルト様」
「そうはいかねえよ。こんな時まで高みの見物じゃ魔王の名が泣くっての」
「そうですか……それでは、リュート様。このダメ魔王の足を引っ張らないように我々が気を付けなければならないようです」
諦めたように呟くフィーナ。
光り輝く長剣を携えた彼女の顔に余裕はない。
現魔王国最強はフィーナだ。アルトエイダはそう確信し、そしてそれは誰にも覆せない事実だった。
では、魔王は?
アルトエイダは後方に座し、その戦果を待つだけの非戦闘員か?
答えは当然否である。
「
それは、アルトエイダを物理的及び魔力的攻撃の全てを無効化する
「
それは、アルトエイダの放つ物理的及び魔力的攻撃を防御不能にまで押し上げる
魔王国とは、彼の支配下の総称だ。『魔王国最強』とは、彼の配下最強を意味する。
そして
「じゃあ、遺体処理の時間だ。正直俺らで出来なかったら、この世界終わるしな」
『世界最強』に最も近い者の名だ。
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