怪物遊戯
「バビロン」
一言呟けば、俺の右手に剣が現れた。影でできた剣は魔物の肉を裂くと雲散霧消する。
急造の武器は脆く崩れ、それを隙と見た魔物たちが俺を嚙み殺さんと大口を開ける。
しかし、次の瞬間には俺の右手に現れた槍がその魔物の喉奥を突き刺す。
「片手塞がってると——動き辛ぇ!」
「……ばびろんおとすつもり?」
「はいはいッ!」
弾幕のように飛来する羽を持つ魔物の顔面を脚で蹴り飛ばすと、そのまま宙で翻り小ぶりな影のナイフを三本投擲し、群がる魔物の眼球を貫く。
脱出まであとは一直線。目の前の魔物の波を消し飛ばし、俺に続く生徒たちの道を切り開いていく。
「リュートッ、合わせなさい!」
「——仰せのままに」
「まぜろ」
何も言わずともバビロンが刀を作り出す。
背中のルルノア様が歯を剥き出しにして楽しそうに魔力を操り、破滅的なまでの熱を刀身に込める。
それはまるで、空の大穴でダンジョンの外殻ごとぶち壊した時のようなあの熱だ。
秘められた威力の大きさに影で出来た刀の刀身がカタカタと鳴る。
今にも壊れてしまいそうな刀は、しかし。
「……まけるか」
珍しく額に汗をかきながら、ルルノア様を睨んでいるバビロンが必死に形状を繋ぎ止めている。
その様子に、ルルノア様は挑戦的に笑う。
「やるじゃない。リュートの相棒を名乗るだけあるわね」
「……とーぜん。ふたりで、さいきょう」
煌々と赤に輝き、甲高い音を鳴らす刀身を居合の構えで溜める。
「——アーク、下がっててくれ」
「言われなくても近づけないっての! リュノ、ソル! 防御態勢!」
「あーーーッ!! あの構え、私のっす!」
「センリッ、ハウス!」
生徒たちの先頭で口の端をひきつらせたアーク。
そのアークの呼びかけに応え、リュノさんとソルさんは焦りながら魔法を行使する。
講堂を守っていた薄紫の結界にも似た防御魔法が展開される。
生徒たち前に特級クラスの方々が衝撃から守るように立ちはだかっていた。
魔法の中から飛び出そうとしているセンリさんの声とそれを止めるエルマスさんの声は、いつもの様子から考えられない程逼迫していた。
これ、魔物よりも俺たちの方が怖がられてるな……。
この刀を振り払ってしまえばとんでもないことが起こるのは必定。だが正直、出し惜しみしてる場合ではない。
「ふぅーー……」
溜めるごとに質量が増す。
赤は光を集め、焦げ、黒く変色していく。
影が熱で焼け付きボロボロと錆びを溢す。
背中のルルノア様が俺の肩に手を置き、身を乗り出して右手を魔物に向ける。
「ぶちかましなさいッ、リュート! ——
「——ぉぉぉおおおおおおおおおオオオオオああぁぁぁああッ!!」
喉が破れるほどの咆哮と共に、刀を振り抜く一閃。
音が消え、視界が開ける。
魔物を残らず殲滅する威力の爆炎に、校舎が耐えられる道理はない。
俺の前方に存在する壁や床が放射状に消し飛び、陽炎を浮かび上がらせる爪痕が出来上がっていた。
「アークッ!」
「ッ……みんな、走れッ!」
呆気に取られている暇はない。校舎が吹き飛んだことで一時的に道は開けたが、それも時間の問題だ。
走り出す俺に続いて、生徒たちも駆けだす。
「俺は魔物の対処に回る」
「ああ、生徒たちは俺たちがシェルターまで連れていくよ。助かった」
言葉少なに会話を終えると、真逆の方向に分かれる。
——ここで、食い止めなければ。
走る生徒たちに背を向け、隣接する第一修練所を見据える。
「……ヤッバいのがいるわね」
「はい。ここで止めないと、全滅です。……フューフ、シェルターまで生徒の護衛とかできる?」
「ご命令とあらば」
「頼む」
「はっ」
礼をすると、フューフはその体勢のまま姿を消す。
「——面白いの、いるじゃねえのよ」
修練所のルーフから跳躍し、音もたてずにソレは着地した。
黒のチャイナドレスを靡かせ、愉快そうにケタケタと嗤う。
「すまんね、青少年。死んでから結構経っててなぁ……身体の自由も効かんのだわ。敵と見るや否や——」
間合いを一瞬で潰される。
「こうやって攻撃しちまうんだな、これが」
「ぐっ……ッ! ——ッ!」
「お?」
叩き込まれる掌底を身体を捻って躱し、距離をとるために反撃する。
当然のように躱す女は、大層楽しそうに腹を抱えた。
「まじかよっ! 躱すの? おもろいおもろい!」
さっきの自然な構えとは一転、隙を殺した完全な構えで女は唇を舌で舐った。
「崩皇仙女。正直死んでても死んでなくても強者大好きの
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