最終界—3 『朝日昇流』


「ハハッ……! ここぞとばかりにナイトサイザーを纏ったね……!」

「これが最後の戦い……アーマードナイトになれる最後の1回ッ……やれる事は全部やらないと気が済まないだろ!?」

「冥土の土産って奴だねぇ……!」


 地面に着地するのを待たずに両者ともに右拳を1度離し、今度は互いに回し蹴りを放ってすねをぶつけ合わせ、すぐに弾かせてからアーマードナイトが下に……アーマードハデスが上になって今度は両足の裏を合わせ、力を溜める様にして膝を折り曲げ……そして。


「それかあれかな……偽物なりに存在意義を求めてるのかなぁッ……あの子みたいにさァ!」

「あの子って誰だよッ……!」


 同時にその折り曲げた足を伸ばし——溜めた力を一気に解放してアーマードナイトは地面へと、アーマードハデスは上空へと吹き飛ばされる。


「ゼッ……ァァアアア!」

「シルッ……アア!」


 アーマードナイトは着地した瞬間に地面を蹴り……抉って跳躍し、アーマードハデスは空中に緑の煙を利用して天井を作り出し、それを足場として跳躍する。

 アーマードナイトは朝日の如く空を目指して昇り、アーマードハデスは夕日の如く地を目指して降りていき……そしてその両者が空中で衝突する寸前——


「しまッ——」

「いつもの消える奴だッ……よォ!」


 アーマードハデスは1度その肉体を完全に緑の煙に変換し、体勢を崩したアーマードナイトの真横に再度姿を現して回し蹴りを放つ。

 アーマードナイトは勢い良く、ラケットに弾かれたピンポン玉の如く吹き飛ばされ……そして灰色に染められた花の飾られる花屋の屋根を突き破り、その中に墜落した。


「よっ……とぉぉお!?」

「ゼァァァ……!」

「いきなりだねぇ朝日……!」


 アーマードナイトの作り出した天井の穴からアーマードハデスが花屋の中に飛び込むや否、アーマードナイトはアーマードハデスに飛び掛かり……右拳が人魂のバイザーを破壊する寸前の所で避けられてしまう。


「……そういえばさっきあの子って誰だって聞いてきたよね?」

「合ってるかは分からないが多分黒姫の事だよな……存在意義だかなんだかの事はよく分からないけど」

「正解だよ。存在意義はまぁ……彼女に無いモノだね」


 アーマードハデスは何かを探す様にして花屋の中を見渡しながら、彼女について知った様な口で語る。


「あの子は何も持たない。存在意義だけじゃなくてさ……最期に朝日と私からアレを奪ってみたけど朝日も私も何も気にしてないし」

「存在意義……」


 この世界に偽物の黒姫が作り出されたのはおそらく直前にその名の強烈さに驚き、その最期を聞いて強く印象に残っていたからだ。

 だから黒姫には白波とは違ってこの世界における役割が何も無い……だから存在意義なんてものは——


「いやある……少なくとも俺からしてあいつには存在意義があるッ……!」

「というと?」

「直接何かしてくれた訳じゃない……けどあいつが居なければ俺はヒーローへの憧れを取り戻す事は無かった……!」

「シーワールデスとの戦いの時かな……でも別にあの子じゃなくても良かったんじゃない?」

「だとしてもその立場に居たのは黒姫だ」


 誰だって誰かの代わりにはきっとなれる……ナイトの主人になんて朝日 昇流じゃなくてもなれただろう。

 でも実際に起こってる事——事実は揺らいだりしない。


「ッ……この世界の朝日——君だって朝日 昇流にとって意味は無いくせに」

「……だったら探せばいい。俺の最期が訪れるその時までに……!」


 偽りである自分が朝日 昇流にとって何の意味があるのか——それに対する存在するかも分からない答え……それを見つける——

 アーマードナイトはそう宣言する。


「……そっか」


 アーマードハデスはこちらは見ず、花の飾られた棚……その中で不自然に空く1箇所だけの空白を見つめながら返事をする。


「……まぁいいや、こんな何の意味も……あの子や私や朝日と……模造品の鎧達と同じで、朝日 昇流にとって何の意義も無い会話よりッ——」

「ッ……」


 アーマードハデスは話を無理矢理終わらせ、棚の空白を何処か寂しそうに撫でた後突然姿を消し……そして——


「この殺意の束縛から抜け出す方がよっぽど大切だよッ!」

「何度も食らうかッ……よ!」

「しるっ……がぁ!」


 アーマードナイトの背後に姿を現しハデスサイクラーを振り上げる……が、背後に立つのももう何度目か——受ける訳もなくアーマードハデスは前方に跳躍し回避した……だけではなく、振り返りながら着地……再び跳躍、アーマードハデスの腹を蹴り飛ばす。


「中々飛ぶッ……」

「追撃行くぞ!」


 アーマードナイトは天井を貫き空高く舞い上がらされたアーマードハデスを追跡する様にして跳び上がり、今度はその腹に握り締めた拳を叩き込もうとした——次の瞬間。


「なッ……」

「もう何回目だってのにまたミスったね朝日! 今回は少し特殊だったかもだけどッ……さァ!」

「ぜがッ……ぁぁぁぁぁああ!」


 アーマードハデスは腹だけを緑の煙に変換させ、アーマードナイトの拳を通り抜けさせる。

 アーマードナイトが体勢を崩してすぐにその両肩に両足を乗せ、そして勢い良く押し出した。


「がぁあっ……ぁぁ……!」


 吹き飛ばされたアーマードナイトは灰色の高校……その屋上を貫き、その下で既に開いていた穴を通過しある教室に墜落する。

 傷だらけになって、乱雑に転がる椅子や机と衝突する事で床に衝撃を与えずに済む事が出来た——が、おそらく直接床と接触していればこの教室は崩壊していただろう。


「っ……と、あれ……ここ高校の方だよね」


 この教室……そう、カタナワールデスと戦った教室——高校の校舎でありながら小学校の……俺と白波と啓示が集まっていた教室の事である。


「まぁいっか……どうせなら縁のある場所の方がいい」

「そうッ……だなァ!」


 アーマードナイトとアーマードハデス。

 その偽りの2人はかつての思い出を模造した……こちらもまた偽りの教室で向かい合う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る