最終界—2 『朝日昇流』


「ナイバァァッ……サイズ!!!」

「ハデスリッパァァア!!」


 橋の中央——そこで黄色い輝きを纏い……三日月の様になったナイトサイザーの刃と緑の輝きを纏い高速で回転するハデスサイクラーが衝突し合い、黄色と緑の火花が散り……混ざりあって2人の鎧を照らす。


「互角かッ……!」

「そうみたいだねぇ!?」


 2つの刃は共に根元からへし折れ、宙を舞い……鎧達は互いに言葉を交わす。

 だがその言葉はどこか嘘くさく……演技の様に感じられ、更に破壊されたはずの刃はどちらとも輝きを失っていなかった。


「ぜァァアッ……奇遇だったな……!」

「しっかりと避ける所までね」


 その2つの刃が纏う輝きは、光線の如く鎧達の頭部目掛けて放たれる。

 黄色の光線はアーマードハデスの方へ……緑の光線は俺の方へと放出される——が、両者共に即座に右へ跳躍して回避……睨み合い、膠着こうちゃく状態が訪れた。


「……」

「……」


 2人して大きな円を描く様にゆっくりと……決して足音を立てる事が無いように慎重に右側へと歩き、見つめ合い……そして——


「ナイトサイザー!!!」

「そんなものッ!」


 先に動いたのは俺だった。

 3つのナイトサイザーを作り出し……その全てを飛翔させ、アーマードハデスに向けて飛ばす。

 アーマードハデスは3つの刃が自身に到達する前にその場から離れようと地面を蹴り飛ばそうとした……だが。


「フィスト光弾ッ……!」

「何それッ——!?」


 右拳にエネルギーを集中させ……それを黄色い輝き——光弾にして放出し、アーマードハデスの足元を……橋を破壊する。

 それによりアーマードハデスは回避する為の跳躍……それをする為の足場を失い、川の中に落ち……それを3つのナイトサイザーが追跡、そして串刺しにしようとした。


「この音ッ……!」


 だがその時……ちょうど橋の下に、死角に3つのナイトサイザーの姿が消えた時。

 無数の甲高い不快音——いくつものハデスサイクラーの刃が高速回転する音が鳴り響くと共に橋の破壊された穴から水飛沫が舞い上がる。

 この音を聞いて思い出す。

 アーマードハデスにとっての弱点はナイトサイザーなのは確実……だがアーマードハデスはその弱点を打ち砕く手段を持っていた。


「メイルサイクラーかッ……!?」


 アーマードハデスは俺の視界の外でメイルサイクラーを纏っているのだと……俺はそう考える。

 そしてアーマードハデスが橋の下から姿を現していた時にそれが正解だったと分かった……が、アーマードハデスはメイルサイクラーを纏っていただけでなく——


「ライドバイクッ……サイクラー!」

「なッ……!?」


 白い装甲を纏い、車体の至る所からハデスサイクラーの刃を生やし……緑の煙をマフラーから勢い良く噴射するバイクに跨っていた。

 そして橋に着地してすぐにこちらに向かい疾走する。


「ぜァっ……!」

「轢くまで切るまで続けるよ!」


 バイクと衝突し……そしてタイヤの回転に引きずり込まれる前に、ハデスサイクラーの刃に浅い傷を付けられながらも横に転がって回避した。

 アーマードハデスは通り過ぎてすぐにバイクのハンドルを大きく回し、再びこちらに向って発進しようとする。


「ッ……フィスト光弾!」

「また足場をッ……!」


 バイクが動き出す前にフィスト光弾を数発放ち、橋と衝突し破壊する寸前に破裂させて閃光弾の如く……カタナワールデスの真似をする様にして周囲を煌めきで満たした。

 即座にその輝きに背を向けて駆け出す……が、それは決して逃亡の為などではない。


「これからどうする気だ朝日ッ……あの輝きもそう長くは持たない……世界の方もだ!」


 ナイトは声に明らかな焦りの色を見せながら絶叫混じりに問いかけてくる。


「お前が鎧として装着された事で啓示の兄のバイクは強化された……そうだよなナイト!?」

「だが今はアーマードナイトの鎧だッ……ライドバイクモードにはなれない!」

「ハデスは今ハデスサイクラーッ……武器を新たな鎧として纏っている!」

「あッ——なるほどそういう事か……!」

「折角変身してるんだ……この姿で乗りたいだろ!」

「ハハッ……これが最後の戦いだからなァ! さぁ見せてみろッ……お前の憧れを俺に!」


 ナイトは愉快そうに笑い声を上げる。

 本当にナイトが主人として認めているのは本物の朝日 昇流……そして本当にナイトに憧れを叶えさせたいと考えたのは幼い頃の朝日 昇流——だがその笑い声は俺に……俺自身の憧れを追いかける姿に向けられていた。


「ッ……ようやく光が晴れていく……」


 光に視界を遮られて橋がどうなっているのか分からず、その場から動いていなかったアーマードハデスの視界は光が薄れ始めた事で段々と元に戻る。

 そして光が消え去った時……アーマードハデスの視界の中央に居たのは……迫り来ていたのは——


「ライドバイクサイザーッ……!」

「なっ……へぇッ……お揃いらしいねぇ!」


 ナイトサイザーを鎧とした物……サイザーメイルを纏ったバイク——ライドバイクサイザーに前傾姿勢で跨るアーマードナイトであった。


「いいよ……正面衝突で押し切ってあげるよ!」


 アーマードハデスは迫り来るバイクに応える様にしてバイクを発進させる。

 黒と白、対極の装甲を纏う鎧は互いに向かい疾走し……そして衝突し合う寸前——


「ゼアァァア! やりたかったんだよなぁこれ!」


 アーマードナイトはバイクを高く舞い上がらせ、アーマードハデスの真上を通過しその背後に着地……挑発する様にしてそのまま走り去る。


「バイクに乗ったまま戦うのはまぁ朝日なら好きだろうね……いいよッ……この勝負乗った!」


 アーマードハデスはバイクの走行方向を180度させてから発進させ、アーマードナイトを追跡した。

 こうして2人の鎧によるバイクレース……搭乗したままの戦闘が始まる。


「ハデスサイクラーッ……チェーンニードル!」


 アーマードハデスは互いのバイクのスピードが互角であると……単純に追跡するだけでは追い付けないと気が付く。

 すると即座に車体に付けられた無数のハデスサイクラーの刃……そのうちの2つののチェーンを独りでに切断させ、そしてタコの触手の様に自由自在に操作しアーマードナイトの居る地点よりも更に先の地面に突き刺し、そして……

 

「私も飛ばさせてもらうよ!」

「なッ……」


 アーマードハデスはチェーンを地面から引き抜かずにバイクに引き戻し、その動作によってバイクを宙に舞わせた。

 空を見上げるアーマードナイトの視界には2つの銀色の軌道線……それを辿り、星空を背景にして空を駆ける白のバイクが映る。


「いやッ……着地はさせない! セベラルフィスト光弾!」

「ハデスリッパーッ——レイ! 私を生み出した世界……その大地に帰らせてもらうよ!」


 上空のバイク……前輪に向けて無数の光弾を放出し着地も失敗させようとした。

 だが、数個のハデスサイクラーから作られ……射出された緑の光線により光弾は掻き消され、アーマードハデスとバイクは問題なくアーマードナイトの前方に着地した。


「ッ……もっと乗っていたかったけど仕方がない!」

「短かったねぇバイクレースは!」


 2人は向かい合った……対峙した瞬間にバイクを最大速度にまで上げて互いに向かい突進しようとする。


「ゼァァァァア!」

「シルァァァア!」


 2つの接近し合うバイクはやがてどちらとも真紅の輝きで車体を覆い……そして衝突するその直前。


「ゼアッ……同じ判断か……!」

「奇遇続きだねぇ!」


 2人の鎧は同時に……息を揃えた様にバイクの座席の上に立ってから跳躍、ぶつかり合うバイクの真上ですれ違う。

 両者が背を向け合い着地した瞬間、2人の背後で爆発が起こり……爆煙が舞い上がる。

 赤い三日月と赤い人魂はその赤い炎を纏った煙と同じ様に、燃え上がる様にしてその輝きを増大させた。


「止まっている暇は無いッ……!」

「止まれる程余裕は無いよッ!」


 2人は爆煙が消え去る前に振り返って走り……跳躍し、そしてその爆煙の中に飛び込んだ次の瞬間——


「サイザーメイルッ……ゼアァァァ!」

「シルアァァァッ!」


 爆煙はその内側で生じた強い衝撃波によって吹き飛ばされ、その中央にはナイトサイザーを鎧とした物——メイルサイザーを纏うアーマードナイトとさっきまでと変わらずメイルサイクラーを纏うアーマードハデス——そんな右拳をぶつけ合わせる2人の鎧の姿があった。

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