第十一界—3 『地球ノ鎧』


——


「じゃあ……結局黒幕は朝日と一緒にアーマードナイトに変身してたナイトって鎧……って事?」


 ファミレスにて十分な食事……全メニュー制覇したそのしばらく後、俺と啓示は展望台のてっぺんを目指しやたらと長い階段を登っていた。


「黒幕かは分からない……けど多分あの夜空はナイトが原因だと思う」


 ナイト——いや、開界したのならナイトワールデスが原因……そう言った方が良いだろう。


「黒幕じゃないといいけどね。仲間ならさっさと消してもらえるだろうし……太陽の光が当たらないせいで世界各地あちこちめちゃくちゃだからさ」

「まぁ太陽の光が届かないんだしそりゃ大変……あれ」


 違和感を覚える。

 太陽の光が届かないから朝が来ない……そこまでは理解出来る……だが——


「それならもっと寒くなってるんじゃないか……?」

「学者さんだとかなんとかが調べた結果熱とかそういうのは届いてるらしいよ? ほんとに光だけを遮断してるみたい」

「いや流石にそれは……あッ——」


 ナイトザイザー、光を切り裂き……そして吸収し消失させる刃。

 あれと同じ様な原理だとしたら有り得る……しかもそれだけじゃなく、あの夜空が夜ノ開界によるもの……ナイトの仕業だという予測が更に現実味を帯びてくる。


「いやでもナイトザイザーは光線の熱とかも……」

「なんか色々考えてくれてそうだけどさ……」

「なんだ?」

「地球全体を覆い隠せる物体……夜空を作り出せる様な能力に理屈なんて無いんじゃない?」

「確かに」


 振り返ってみればワールデス達の広げた世界も大体人類の叡智では理解出来ない様な……いや、そもそもとして理解する為の理屈が存在しないモノばかりだった。

 となれば夜ノ開界もそれら同じで、考えるだけ仕組みがどうとかは無駄なのだろう。


「ま、本人に聞くしかないよな……」

「本人……そういえばその鎧って一応人なの?」

「……多分違う。元怪”人”ではあるんだろうけど……ナイトに対して今の元怪人って言った事言うなよ、多分あいつにとって黒歴史だろうから」

「人間以外にもあるんだ……黒歴史」

「そりゃあるだろ」


 心があって、過去があるなら黒歴史……忌まわしき過去、トラウマの1つや2つ、誰にだってあるはずなんだ。

 ナイトにも、きっとワールデス達にも……そして俺だってある。


「皆色々抱えてんだね……っとやっぱ話してたらあっという間」

「居ないか……そろそろあいつ治っててもいい頃合いッ——」


 展望台の頂きに辿り着き、そこに元通りになったナイトの姿が無かった事に若干の残念さを……そして微かな不安感を感じた時だった。


「ッ……!? なに!?」

「爆発か……?」


 突然激しい衝撃音が起こり、そして突風が押し寄せてくる。

 驚き、音のした方向を向くと柵の向こう側……街には灰色の粉塵が……大きく、高い煙が舞い上がっていた。


「なんで爆はッ——いや違う……!」


 その衝撃音は爆発による物ではなく、その煙は爆煙でもなく——


「夜空が落ちる……!」


 夜空が至る所で滴る雫の様に変形し……そして空から切り離されて雨粒の如く地上に向かい降り注いでいた。


「なんなんだよこれ……朝日……これもナイトって奴の仕業なのか……!?」

「分からないッ……けど……!」


 啓示はその降り注ぐ物達を、どんどんと破壊される街……その光景を見て動揺した様に問いかけてくる。

 あの夜空が夜ノ開界によるものなのならばこの夜空の流星群もナイトのせい——そういう事になるのだろう……でも、たとえそれが事実だったとしても——


「俺はあいつをッ……信じたい!」


 俺がヒーローへの憧れを再び持つ事、そのキッカケを与えてくれたのは他の誰でもなくナイトだから。


「ッ……止んだ」

「街がめちゃくちゃ……僕と朝日の家はなんとか無事……みたいだね」


 やがてその破壊は終わり、地上に落ちた夜空の欠片は蒸発する様にして消失する。

 後に残されたのは無数のクレーターを作られた街の姿であった。


「……分からない」


 俺には何も分からなかった。

 今目の前で降り注いでいた流星群の事も、崩壊した世界の事も、俺がアーマードナイトとして戦っている間にもこの崩壊していない世界の時は確かに進んでいて……そしてここにも俺がいた事も——何も理解出来ない。 


「全部ッ……何もかも意味分かんねぇよ……!」

「もう時間が無い——それだけは言える」

「ッ……」


 背後から声がする。

 いつも通りの、意味深な事を言うくせに詳しい事は何も教えてくれやしない……そんな声が聞こえてきた。


「……ナイト」

「その目……そうか……なら話は早そうだな」


 振り返るとそこには宙に浮かび、2つの大きな瞳を発光させる鎧——ナイトがいた。

 俺はナイトに対し、安心と不安……そんな2つの真逆な感情を込めた視線を向ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る