第九界—5 『姫ノ結末』


——


「……」


 元よりほとんどが灰色だった為、世界が変わる前と見栄えが対して変わらない……そんな墓地。

 俺は——朝日 昇流は緑煙 白波の名が刻まれた墓石の前に立っていた。


「アーマードハデス……あいつの中身はどう見てもお前だったよな……白波」


 何の意味があるか分からない。そこに白波がいるわけでもない……それでも語り掛ける。


「でも見た目が白波だろうと……いや——」


 あれが白波だとして何がおかしい?

 死人が蘇っている事がおかしい——いや、それは違う。大体世界が崩壊したり世界を作るなんていうべらぼうな能力を持った存在が現れたりしている時点でおかしな事が事象が起ころうと何もおかしくはない。


 そして何より、白波はあの日彼女を見捨てた俺を”憎んで”、そして”殺したい”と、そう願っているはず……だからアーマードハデスとして襲いかかってくる事には納得が行く。


「……殺されるべき——なんだよな」


 俺はきっと白波の殺意を受け入れなければならない……潔く殺さなければならない——だけど。


「何の抵抗も無く死を選ぶのは白波への……最期まで抗った者への冒涜……だから死ぬのはッ……!」


 精一杯、ギリギリまで彼女の殺意に抗ってからでなければならない。


「今はお前と戦う!」


 心の中で決意を決めると共に右拳を放ち、世界の崩壊の影響で脆くなった墓石を……そこに彫られた緑煙 白波の名を木っ端微塵に打ち砕く。


「ナイトッ!」

「今度の立ち直りは早かったな」

「前回は6年も掛かったからな……!」


 俺が呼び掛けるとナイトはすぐに姿をどこからか舞い降り、姿を現す。やはり近くで見守ってくれていたらしい。


「さっきお前に当たった事……今のお前をワールデス呼ばわりした事……悪かった」


 まずはその事について、ナイトに対する侮辱について謝罪しなければならなかった。これから共に戦う為に、力を貸してもらう為に。


「別にいい……事実だからな」

「事実なら尚更じゃないか……?」

「それは人によるんじゃないか?」

「確かに……人?」


 お前は人ではなく鎧じゃないか?


「日本語……というかこの星の言葉を使うとなると表現を合わせないといけないからな。一々俺が鎧だとか意識していたら会話が出来ない」

「それもそうか……まぁそんな事より……とにかく!」


 脱線した話を無理矢理本筋に戻す為、わざと声を大きくする。


「俺は最期まで抵抗する……だから一緒に戦ってほしい」

「俺はずっと前からその理想を叶えると決意している」

「そうか……ははっ」


 何もおかしくはない。何も変ではない……のだが、なんだか笑いたくなってきた。

 きっとようやくナイトと……アーマードナイトとなる者同士分かり合えた——“相棒”になれた……そう思えたからだろうか。


「よーやく完全に心を許してくれたな……正直長かったぞ」

「シーワールデスの時にこうなるべきだったんだろうけどな……まぁいいだろ」

「それでどうする? この後は……アーマードハデスがいつ現れるか分からない……だからすぐ現れるとも限らないわけだが」


 今俺に許された猶予。戦いの前の静寂の時……その間にやるべき事となると——


「黒姫に謝るよ……お前が行った後……いや多分見てたよな」

「あれか、おかしいよお前……の発言の事か」

「それで合ってる……けどわざわざ声に出して言わないでくれよ」


 自分が悪いとはいえキツイ所がある。


「ただまぁ……黒姫がおかしいのは明らかに事実だし謝る必要は無いんじゃないか?」

「黒姫は多分自分が普通……いや俺からしておかしな事を言っている自覚はあった——というかわざと、大袈裟に自分の人間性を見つけて、それで受け入れてもらいたかったんだと思う……でも俺はその望みを拒絶した」


 そんな事をすれば否定されるかもしれないというのに……相当な覚悟があったのだろう。


「でも俺は黒姫の覚悟を裏切った……だから謝る」

「そうか……それじゃあ黒姫を探さないとだな……当てはあるのか?」

「多分家に帰ってるんじゃないか……? 居なかったら……変身して跳んで上から探せばいい」


 黒姫にもアーマードバトラーとしてアーマードハデスと戦ってもらいたい。だからその前に和解は出来なくとも謝罪はしておきたい。

 そんな風に、次の行動……黒姫への謝罪をしようとしていた時だった——


「それじゃ黒姫の家ッ——」


 突然何者かの手……白く華奢な手に背後かれ胸ぐらを掴まれ、そして引っ張られて後ろを向かされる。

 俺を後ろに向かせたのは、その小さな……儚さを感じさせる手の持ち主は……


「黒姫ッ……!?」


 黄金 黒姫であった。

 彼女は振り返らせた後、そのまま俺を引き寄せ、目を見開き俺の瞳を凝視しながら顔を接近させて——そして、唇と唇が触れ合う……ファーストキスを”奪われた”直後。


「あッ……?」


 黒姫の姿は俺の目の前から……この世界の中からまるで初めから居なかったかの様に姿を消した。


『5年前くらいだっけ……捕まる前に死んじゃった連続殺人犯、その被害者の1人だね』


「ッ——」


 人差し指で唇を擦り……そして話して指先を見るとそこには赤い付着部……黒姫の血がこべりついていた。彼女の物である証拠は無い——だけどそう確信出来る。

 この血は黒姫の物であり、黒姫は——今の、俺と黒姫は死んだ……殺された。

 そして、彼女を殺したのは——


「……」


 視線を指先の血から目の前の方に向ける……するとそこにはアーマードハデスが存在し——そして、その右手には刃を血に染め上げるハデスサイクラーが握られていた。

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