第十界—1 『理想ノ糧』


 灰色の墓地。

 崩れ落ちた墓石の前で俺は、その墓石に名を刻まれていた人間と対峙する。


「ッ……間に合わなかった……」

「それはこっちのセリフだな……どちらかと言えば」


 俺はハデスサイザーに付着した方、アーマードハデスは俺の口周りに付着した方——互いに血を見つめながら、相手の顔は見ずに言葉を交わす。


「その目……そっか、ちゃんと私と戦う覚悟をしたらしいね」

「そっちの目は……変わらないな」

「人魂みたいでゆらゆらしそうだけどただのバイザーだからね」


 今度は血から相手の目に視線を向け、視線をぶつかり合わせる。


「さて……もう”時間も無い”しさっさと始めようか」

「時間……?」

「私の根性が続く時間……かな」

「ッ……?」


 根性でこの世に残り——遺り続けたとでも言うのだろうか?


「まぁなんでもいいか……戦う事に変わりはないんだからなァッ! 行くぞナイト!」

「今回でケリをつけるぞ……!」


 ナイトは分離、変形し俺の周囲を舞う。そのパーツ一つ一つが太陽光を反射し内側に立つ俺の姿を眩ませた。


「ゼァァァ……!」

「シルァァ……!」


 光に包まれながらアーマードハデスと共に、互いが互いに向かって拳を構え、そして右足を前へと大きく踏み込ませ——


「アーマード!」

「今日で終わらせる!」


 俺はナイトを纏い、アーマードナイトとなり駆け出し……アーマードハデスも俺の戦闘開始の宣言……叫びに応える様にして走り出した。


「ゼァァア!」

「シルァ!」


 2つの仮面と仮面がぶつかり合う寸前、2人は同時に後ろに大きく引かせてから両拳を放ち、そして一気に前に出し衝突させる。


「こっから一気にッ!」

「ぐぃッ——」


 アーマードナイトは拳を開き、アーマードハデスの両拳を掴み、無理矢理下の方に下ろさせその腹に膝蹴りを入れる——だが。


「そのまま上がればいいよね!」

「しまっ……」

「シルァァァァ!」


 アーマードハデスはその蹴られた勢いのまま中に舞い上がり、自身の拳を離す前にアーマードナイトの背後に回り込もうとし、その手首を捻らせる。

 その痛みによる隙を見計らい背後に着地、そしてその背に拳を放ち、吹き飛ばす。


「ぜっ……ぁぁぁぁぁ!」

「シルァ!」


 アーマードナイトは地面に墜落する前に体勢を整え着地、その瞬間に跳躍しアーマードハデスの元に向かう。

 アーマードハデスはその行動に応える様に拳を構え、そして互いに拳をぶつけ合わせる。

 何度も何度も、一切の防御はせず互いの身に拳をぶつけ合い、傷つけ合う。


「ゼルッ——アァァァァ!」

「シルッ——アァァァァ!」


 そして攻撃は1度止められ、それから全力を込めた一撃を互いが互いの顔面に放ち、それぞれがそれぞれを吹き飛ばし、吹き飛ばされた。


「いてぇ……なァッ——緑煙 白波!」

「まだまだ人間だねッ……朝日 昇流!」


 両者共に、怯むこと無く立ち上がってそれぞれの名をいがみ合う様に叫び、そして駆け出した。


「ナイトエンドッ!」

「ハデスッ……ジャッジメント!」


 事前に打ち合わせた様に2人の鎧は同時に右足の、アーマードナイトは赤の閃光を……アーマードハデスは緑の閃光を纏わせ、そして跳躍。互いが互いに向けて必殺技のキック……飛び蹴りを放ち、右足の裏を衝突させ合う。


「ゼァィアア!」

「シルァァァ……!」


 輝きを増幅させて競り合う。押し合った事で発生する衝撃波、周囲へ逃げ出そうとするエネルギーにより白波の墓石の破片は吹き飛ばされ、景色は微かに歪む。


「ブラフだよ!」

「なッ——!?」


 アーマードハデスは突然、全身を緑の煙に変え……俺はキックの勢いのまま地面に向かい、その最中で体勢を崩して灰色の地面に大きなヒビを走らせながら転がる。


「狩るならやっぱりハデスサイクラー!」


 俺が体勢を整える前にアーマードハデスが背後に人型を象り、そしてハデスサイクラーを振り上げ……そして俺の後頭部、その中央目掛けて振り下ろす。


「ナイトサイザー! ランスモード!」

「ッ……」

「今だ朝日ッ……ぶん投げろ!」

「ゼッ……ァァア!」


 ハデスサイクラーの刃が接触するギリギリの所でナイトサイザー ランスモードを右手に作り……そして掴んだまま飛翔させ刃を回避……上から見下ろし、アーマードハデスに向けてナイトサイザーを投げ落とす。


「流石に当たらなっ——」

「昇れッ……!」


 アーマードハデスは焦る事無く跳躍し……軽々とナイトサイザーを回避した——が、俺の叫びに従い、1度避けられたナイトサイザーの刃は上を向き……今度こそは貫こうとアーマードハデス目掛けて勢い良く昇る、迫る。


「ハデスサイクラーは飛べないしッ……空中はキツいかな……!」

「そんな事言える程余裕無いだろッ……!」


 アーマードハデスは慌てる様子は無く……ただ直前の跳躍による勢いだけに従い宙を舞っていた。ナイトサイザーは確実にアーマードハデスの頭部を貫こうと飛び続け……そして刃先が接触する寸前。


「ッ……また消える気か!?」

「今度は消えないよ……!」


 アーマードハデスの身を……アンダースーツを覗いた鎧の部分だけを緑の煙が覆う。だがこれまでの様に、緑の煙として姿を消しはせず……


「なんだ……!?」


 ナイトサイザーがアーマードハデスを貫いたと、そう思った瞬間。ナイトサイザーは緑の煙に接触した所からどんどんと崩壊し……そして最後にはただの黒い塵となり灰色の墓地に降り注いだ。

 何がナイトサイザーを破壊したのか、アーマードは何をしたというのか……それは緑の煙が晴れた時に明らかになった。一目で答えが分かるモノであった。


「メイルッ……サイクラー!」

「そんなのも出来るのかよ……!」


 アーマードハデスの鎧、その上に更にもう1つ新たな白い鎧が……至る所に様々なサイズのハデスサイクラーの刃が埋め込まれた鎧が纏われていた。その新たな鎧——メイルサイクラーはその存在を見せつける様に全ての刃を高速で回転させ、その甲高い不快音を街中に響かせる。


「ッ……いや問題ない……!」


 全身に刃を持とうと状況はさほど変わらない。むしろ手に武器を持っていた方が戦いやすいまである。


「実用性が無いとか考えてる?」

「図星……だけど実際そうだろ……?」

「どうだろうねッ……」


 アーマードハデスはどこか嘲笑う様に問いかけてくる——が、特に何もせずただ重力に引かれ……やがて地面に着地する。


「ッ……?」


 着地した瞬間だった。何かが壊れる様な……何か硬い物体がちぎれる様な音が聞こえる。それも1度では、1つでは沢山、そんな無数の不審音が——耳に入ったその瞬間。


「まずいッ……逃げろ朝日!」

「もう逃がさないッ……!」


 アーマードハデスの全身の至る所から無数の……直前の破壊音と同じ数の先端を針の如く鋭くしたチェーンがミサイルの如く放たれる。それらは周囲の地面を、墓石を全て貫き……そしてアーマードナイトの装甲に先端が当たり、そして——


「いぎぃッ……ぜっ——ルァァァァァァァァア!!!」

「ッ……流石にそれは想定外かも!?」


 無駄な逃亡なんてものはせず、いくつものチェーンに身を貫かれ、血を吹き出しながら……蜂の巣になりながらアーマードハデスの元へと走り出す——だが。


「ぜっ——」


 駆け出した……そこまでは良かった。

 だが様々な内臓を損傷し、水溜まりが出来る程の血を流しても戦い続けれる訳が無い。

 アーマードナイトは途中でその足を止めてから顔を下げ……磔にでもされたかの様にチェーンにぶら下がり、動かなくなる——

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