第九界—1 『姫ノ結末』
——
「……」
静寂を取り戻した川。俺はただ呆然と、そこに映り込む朝日 昇流を見つめていた。
『ナイトワールデス!!!』
『ッ……おかしいよお前……』
「ッ……」
自身の発言を思い出し……それを戒める様に川に映る朝日を睨み付ける。すると当然の事ではあるが、水面の朝日も目を鋭くし、睨み返してきた。
「何やってんだ……何やってんだよ……!」
今はとにかく、アーマードハデスへの対応について考えなければならないはず……だというのに俺はナイトに、黒姫に一方的に当たり拒絶してしまった。それが許されざる行為だと分かっているのにも関わらずである。
「……アーマードハデスを倒すしかない」
物理的にも、俺の精神的にもそれが可能であるかは分からない……けれどそれさえ出来れば俺の心も……
「はは……」
結局何かを拒絶しなければ俺という人間は前に進めないらしかった。自身のその暴力的な思考に思わず自嘲する。
「……」
だが実際の所、アーマードハデスを倒さなければならないのは事実。それが拒絶による自身への救済となってしまったとしても、この世界で俺達が生き残る為にはそれをしなければならないのだ。
「行くか」
そう呟いて俺は、揺らめく水面に浮かぶ朝日から視線を外し歩き出した。
アーマードハデスと再び戦う為、あの場所……緑煙 白波の墓、その前を目指してゆっくりと……昇り始めた朝日の微かな光を浴びながら歩を進める——
——
「あそこに行って……それで確かめて、そしたら……」
昇り始めた太陽。黒姫は左から射すその微かな光に照らされる黒髪をなびかせながら、自身の心を整理する様にして呟く。
「……そしたら——」
左の方に、朝日の方に顔を向け……しばらく無言でその輝きを見つめた後……
「朝日に謝る……いや謝ってもらう? だって私普通に励まそうとしたんだし……」
言ってすぐに自身の言葉を否定する。自身の発言を否定して、自身を肯定しようとした……が。
『ッ……おかしいよお前……』
「当てにならないもね……自分の感覚なんてモノはさ」
そしてまたすぐに、今度は発言ではなく自分自身を否定する様な独り言をし、朝日から顔を背けて歩き出す。
「多分ここ曲がれば……よし正解!」
途中迷子になりかけながらもなんとかそこに辿り着く。そこ、というのは当目的地であり……以前、シーワールデスと戦う直前に1歩だけ足を踏み入れ拒絶した場所——墓地である。
「この墓まで来た事なんて1回しか無いのに……流石は私の記憶力——あ」
憂鬱を誤魔化す様に呟きながら踏み入ろうとした時。それを見つけて足は止まり……そこへ入る事をまたしても拒絶する。
「……」
墓地の中には朝日 昇流の姿があった。朝日1つの墓石の前に立ち、こちらに気付いていない。さっきの事……喧嘩の様なモノの事があるから入りづらく……一言と言ってしまえば気まずい——けれど……
「謝るんだったら行かなきゃだよね」
と、そう自分に言い聞かせる様に呟き、この憂いをさっさと取り除く為に足を前に出し……初めの1歩を踏み入れた。
「……1回」
だがそのまま進む事はなく、その1歩で1度、再び停止する。
「1回だけ考えよう」
謝れば解決する気はする……が、そんなその場しのぎの事でどうにかしていい状況ではない。だから本当に自分が謝らなければならない事をしたのかを考える……その為に。
「頭の中で巡り、回らせる……あの時思い出した事、そして私の想い出を」
自分がどんな人間かを改めて、客観的な視点から過去を見て考える。
つまりはまぁ……回想をする——と、そういう事であった。
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