第八界—4 『黄泉ノ鎧』


「……遅刻だね」

「ッ……なんでお前があの時の事を——」

「そりゃ知ってるよ。だって当事者だからね」

「しまッ!?」


 俺の疑問。衝動的に口に出された問い掛けに答えた瞬間……アーマードハデスは一切疾走の動作をせずに俺の背後。胸アーマーが俺の背に接触する程の至近距離に姿を現した。

 そしてアーマードハデスは移動しただけではなく……黒板を引っ掻いた際に鳴り響くのと同じ不快音が俺の鼓膜を震わしている事から、あのチェンソーに似た武器を振り上げ、その刃を回転させているのだと理解出来る。


「ハデスサイクラーッ……だよ!」

「くそがッ……」


 反射的に振り返り、距離を取ろうとするが間に合わない。アーマードハデスの振り下ろしたハデスサイクラーの刃の届く所から抜け出す事は出来ず……


「リベラァァァアッ!」

「シルァッ……!?」


 その刃が俺の頭部を真っ二つに引き裂く寸前——ミサイルの如く飛んできたアーマードバトラー。その蹴りがアーマードハデスの右側頭部と衝突、吹き飛ばして俺の身から遠ざけさせた。


「ふぅ……急に走り出していきなり死にかけてさ……ちゃんと管理しなきゃだね」

「……悪い」


 アーマードバトラーは直前の蹴りの反動を跳躍とし、宙で身を舞わせながら水飛沫を弾き、俺の前に着地する。その声は苛立ちながらもどこか満更でもないような……そんな風に感じられた。


「無事らしいな朝日」

「見ての通りな」


 アーマードバトラーの左に並ぶとそのまた更に左にナイトが現れ、浮遊しその場に留まる。鎧達と黒姫が合流してる事から、おそらく俺と黒姫がこんな時間に屋敷の中に居ない事に気が付いたナイトかバトラーが慌てて探しに出て……それで俺を追い掛ける黒姫と遭遇した——だとか、そんな所だろう。


「どうせなら並んで変身とかやってみたかったな……」

「余裕ッ……あるね。死にかけたのにさァ……!」


 俺とアーマードバトラーの立つ橋の端、その真逆……向かいの端から俺の小さな呟きを聞き取ったアーマードハデスは立ち上がり、微かに声を荒らげる。


「あ——」


 アーマードハデスはその見た目や行動からは虚無的な存在である幽霊に近い存在であると思えた。だが以前そうであった様にアーマードハデスからは感じられる……やはり覚えられた。人間の実存的なモノ——感情を。


「やっぱりあるんだな。感情」

「ッ……無きゃここまで抑えちゃいないッ!」

「来るかッ……!」


 俺の言葉を聞いた瞬間。アーマードハデスの荒げられた声に込められた苛立ちは一気に大きな怒りとなり、その感情を叫びにすると共にこちらに向かい跳躍する。


「アーマード!」

「そいつだけは逃すなよッ……朝日!」


 その戦闘開始の宣言と共にナイトを纏い……アーマードナイトとなり、アーマードハデスの動作に応える様に跳躍した。


「やっとお前と戦えるなァ!」

「その戦いはアーマードナイトの終わりを意味する!」


 荒ぶる黒い波、その上の緑の煙に薄く覆われた灰色の橋……更にその上の宙——夜空、星空の下。黒く染められた鎧と白く染められた鎧は互いが互いに殺意を向け対峙する。

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